鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手

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章の二

第四十四話/雲行き

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「これ、魔石っスね」
 テンタクルスコップを拾い上げて中の石を取り出したマンジュは、まじまじと観察した結果の推察を口にした。
「魔石だと?」
 アンナが上から覗き込む。
「魔石ィ…」
「魔力を溜め込む性質を持った天然石の事ですよ。加工すると魔道具になるんです」
 シュテンがなんとなくオウム返しで呟いた言葉に、メイが丁寧な解説を付ける。
「なにかしらの術式が書き込まれてるのは分かるんスけど、詳しくはもっと調べないと分からないっスね」
「…貴方は、この魔力に当てられて暴れだしてしまったのですね」
 メイが亀の顔を撫でる。
 亀はメイの顔をじっと見つめていた。
「コイツ、山の中で眠ってたみたいだな」
 アンナは、崩れた崖の方を見る。
 亀は崖を突き破って現れたように見えた。
 その崖の向こうは山があった筈だが、ちょうど亀が収まるサイズの空洞が出来上がっていた。
 亀は、頭をアンナの目前まで動かす。
「ん?なんだよ」
 黙って頭を差し出す様は、「触れろ」と言っているように見えた。
「…こうか?」
 亀の額に手を当てると、アンナは全身が緑色の光に包まれていった。
「お?…これは」
 胸当ての上から体をさする。
「…マジか」
 光が収まる頃には、アンナが受けた傷どころか、胸当ての損傷も元通りになっていた。
「アンナ殿…って、あれ!?右手が!」
 メイが右腕を振る。
「い、痛くないです!治ってます!」
「…お前がやってくれたのか」
 亀は黙ってアンナを見詰めている。
「ありがとうな」
 アンナが額を撫でると、亀は満足そうに一度まばたきをし、頭を動かしてシュテンの前へ陣取った。
「…あァ?」
 シュテンが怪訝な顔をしていると、亀は頭をシュテンの体に擦り付ける。
「おォ…あァ、なんだァ?」
 戸惑うシュテンと対照的に、三人は笑う。
「よく懐かれてるじゃないかシュテン」
「きっと感謝を伝えてるのですよ、シュテン殿に止めて頂けなければ我々も傷つけていたでしょうから」
「アタシ達も亀も、アニキのお陰で生きてるっス~!」
「あァ…?」
 しばらくのじゃれあいの後、亀は元居た山の中へと戻って行った。
 頭と足を器用に使い、瓦礫を自身へ被せて行き、頭を甲羅の中へ入れる頃には山と見紛うほど、自然へ溶け込んでいた。
 オニ党はそれを見届けると、帰路に就くことにした。
 アンナが空を見上げる。
「少し急ごう、一雨来そうだ」




 アンナの見立て通り、村が近づくにつれて雨足は強くなっていった。
 村の門をくぐる頃には完全に土砂降りとなり、一行は早足でマンジュの家を目指す。
「…雨とはいえ、村内が静かじゃないですか?」
「そうか?私には分からんが…」
 そんな話をしていると、視界に入るものがあった。
「あれ、エイジ…?」
 マンジュが見つけたのは、最初にエイジと会った場所で、傘も持たずに座り込むエイジの姿だった。
「エイジ、どうしたんスか?風邪引くっスよ」
「…………」
 マンジュの問いかけに、エイジはゆっくりとこちらを向いた。
「……………マンジュ」
「エイジ…?」
 その顔は青ざめ、何かに怯えているようにも見えた。
「エイジ、何があったっスか」
「違う…違うんだ、俺はただ…」
 虚ろな目で何かを訴えるが、どうにも要領を得ない。
「…おい、マンジュ」
 すると、横に立っていたアンナがマンジュの肩を叩く。
 見上げると、その目はマンジュ宅の方を向いていた。
 その視線を追うとそこには、2メートルはある岩の下敷きになり動かない男の姿があった。
「…………は?」
 マンジュは状況を理解出来ずに固まってしまう。
「た、大変です!急いで岩を退かさないと!シュテン殿手伝って下さい!」
 メイが慌てて駆け寄り、岩を持ち上げようとする。
「ほら、退いとけェ」
 シュテンがメイの横に割って入ると、岩を持ち上げて横の地面へ移動させる。
「よし、ちょっと見せてみろ」
 アンナが屈み、男の様子を見る。
 辺りには男の物と思しき血溜まりが出来ており、雨の影響で流れ始めている。
「って…コイツは」
 アンナが何かに気付く。
 メイも顔を覗き込むと、昨夜騒動を起こした冒険者の男であった。
「…アンナ殿、この男がここでこうなったというのは、もしかして」
「可能性の話をするな、今はとにかく救命だ」
 アンナは脈と呼吸を確認する。
「よし、まだ息はある…マンジュ!回復だ!」
 アンナはマンジュを手招きする。
 だがマンジュは放心した様子で動かない。
「マンジュッ!」
「っ!!?」
 ようやく気を取り戻したマンジュが、魔導鞄に手を入れる。
 そんな中、多数の足音が近づいてくるのを感じた。
「こっちです!領主様!」
 先んじて走って来たのは、昨日も倒れている冒険者と一緒に居た、パーティメンバーだった。
 そしてその後ろから姿を現したのは、傘を差した貴族風の男と、甲冑で身を固めた兵団だった。
「ここですか?冒険者殺しの現場と言うのは?」
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