あやかし蔵の管理人

朝比奈 和

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1巻

1-1

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 何もない野原を、風がぜるように吹く。
 うつろな頭でその様を見つめていた俺は、ふと自分にかかる影に気が付いた。
 見上げると丸く輝く大きな月を背景に、着物姿の人が自分を見下ろしている。
 その顔は陰になっていて、誰だかわからなかった。
 知り合いだろうか?
 白銀しろがね色の長い髪が、風になびいて揺れる。月の光に輝くその髪は、絹糸きぬいとごと光沢こうたくがあった。

「――誰?」

 そう尋ねると、相手が小さく息をむ。

こぼれ落ちたか……」

 静かにつぶやいて、俺の頭を優しく撫でた。
 言っている意味はわからないが、声のトーンからさびしげなのはわかった。
 何か言いたいのに、どう声をかけていいのか迷う。
 その時、ふいに風が吹きすさび、厚い雲が月を隠した。
 漆黒しっこくの闇に呑まれていく人影に、俺は手を伸ばす。だが、俺がつかむ前に、白銀の髪の一本さえ残すことなく、その人はすり抜けて消えた。


         *


「は……」

 何かを言いかけて、俺――日向ひなた蒼真そうま――は目蓋まぶたを開けた。
 カーテンの隙間から差し込む日の光に二度三度まばたきして、自分が天井へと手を伸ばしていることに気が付く。
 ……何してんだ、俺。
 腕を落として、むくりと起き上がる。
 何の夢を見てたっけ? よく覚えていないが、胸にぽっかりと穴が空くみたいに、悲しい夢だった気がする。
 夢の内容を思い出そうとしてみるが、欠片かけらも浮かんでこなかった。
 まぁ、いいか。夢は夢だし。
 伸びをして、起きたばかりの体のこわばりを解く。
 まだ六時半か……。日曜の朝だから、もう少しゆっくり眠っていても問題ない。
 そうは思っても、先ほどの夢を再び見てしまう気がして、もう一度眠る気にはなれなかった。
 欠伸あくびをしながら洗面所に行き、冷たい水で顔を洗う。ようやく頭がえてきた。
 キッチンに行くと、母親がピンクのフリルエプロンをつけて目玉焼きを作っていた。
 年齢的に考えて、そのエプロンはどうだろう。そう思うが、童顔で小柄こがらな母は、ひいき目なしで可愛らしい部類に入り、実際エプロンも似合っていた。
 決してマザコンではないが、授業参観に母さんが来た時はちょっと自慢だった覚えがある。

「おはよう」
「蒼ちゃん、おはよう。日曜なのに早いのね。でもタイミング良かったわ。今、朝食が出来たところだから」

 そう微笑んで、食卓にげた目玉焼きを置く。
 料理があまり得意ではない母は、三回に一回は目玉焼きを焦がす。
 今日は失敗かぁ……。
 内心ため息をき、食卓に着いた。すでに父親が座っていて、難しい顔で新聞を読んでいた。

「おはよう」
「ん」

 無口な父が返す挨拶あいさつは、大抵こんなものである。
 昔からこうなので、腹が立つということもない。
 そんな感じで始まった、家族揃っての朝食は、ごくごく普通の何の変哲へんてつもないものだった。
 だが、母のある一言によりそれは一変する。

「蒼ちゃん。実は急にお父さんがアメリカに海外赴任ふにんすることになってね。だから、お母さんもお父さんについて行くわ」

 それはまるで「今日、スーパーに行ってくるわ」とでもいうような気軽い言い方だった。
 朝から何の冗談だ。だが、我が母がその手の冗談を言わないことも知っている。
 突飛とっぴな行動に出るうえに、何に対してもぐな性格なのだ。

「それ……本気で言ってるの?」

 困惑しつつ確認すると、清々すがすがしいまでの笑顔でうなずかれた。
 母の隣に座る父に、視線でその真偽を確かめる。新聞から目を離し、チラリとこちらを見て父は、「まぁ、そういうことだ」と言った。
 そういうこと? 父さんの海外赴任に、母さんがついていくことが? ……あれ? 待てよ。
 それが本当だとすると、先ほど母が言った内容に少々ひっかかりを覚える。
 俺の名前が出てきていない。

「え、じゃあ、俺は高校どうするの? 入学してひと月も経ってないのに。転校……いや、留学? 俺、英語全然出来ないんだけど」
「そうなのよねぇ。蒼ちゃん、英語全然出来ないものね。お父さんもお母さんも話せるのに、どうして駄目なのかしら」

 母はほおに手をあて、ため息を吐いてなげく。
 そんなの、俺が知りたい。
 母さんが言うように、両親は英語がペラペラだ。そもそも二人の出会いが海外留学中だったし、幼い俺をばあちゃんに預けて海外赴任をしていた時期もあった。
 その一人息子である俺はというと、英単語さえ受け付けず、いつも赤点ギリギリの成績である。遺伝子的には素質があるはずなのに、何故だ。

「日本人学校も考えたんだけどね。蒼ちゃん、海外の雰囲気自体に呑まれちゃうでしょう? 性格的に、海外生活は無理だと思うのよね」

 否定したい気持ちはあるが、ハッキリ言ってその通りである。
 恥ずかしい話、俺は人見知りが激しい。
 慣れたら普通に会話出来るが、そこまでに至るきっかけづくりなどが苦手なのだ。
 高校の同級生には、同じ中学出身者がほとんどいないため、未だにクラスメイトと会話をするのも緊張する。
 こんな俺が、海外のハイレベルなコミュニケーションについていけるはずもない。

「ってことは、俺はこっちに残って一人暮らし?」

 昔預けられていた母方のばあちゃんはもう亡くなっているし、父方の親戚は皆、海外生活をしている。日本で頼れそうな身内はいなかった。
『高校生の身で一人暮らし』というのもいささか不安ではあるが、家事は一通り出来る。
 外国について行って、新しい環境と語学の壁でストレスを感じるくらいなら、断然日本に残って一人暮らしがいい。それに、親から離れての自由な暮らしというのも、男子として憧れがある。

「一人暮らしは駄目だ」

 浮つき始めた俺の気持ちを、父がものの見事に一蹴いっしゅうする。母もこくこくと頷いた。

「高校生が、一人暮らしなんて駄目よ。心配だわ」

 俺に学校や部活があるのをいいことに、二人だけでしょっちゅう旅行に行って、家を空けているのはどこの誰だ。

「じゃあ、俺はどうすんの?」

 不機嫌さを隠さず言うと、母はにっこりと微笑んだ。

「安心して。おばあちゃんの知り合いの結月ゆづきさんに、蒼ちゃんをそうろうさせてくれるよう頼んでおいたから」

 まったく考えてもいなかった提案に、一瞬固まった後、俺は叫んだ。

「はっ!? 居候!?」
「初めは、りょうや学生用のシェアハウスを探していたのよ。でも急だったし、時期的にいい所が見つからなくてね。それで結月さんに連絡してみたの。不動産をいろいろ持っている方だって、前におばあちゃんから聞いたことがあったから。そうしたら『うちに来たらいかがですか』って、おっしゃってくださったのよ」

 俺は呆気にとられた状態でその話を聞いていたが、ハッとして手を左右に振った。

「い……いやいや、だからって居候なんて嫌だよ」
「でもねぇ。とってもいいお話なのよ。結月さん、お仕事が忙しくて、家のことに手が回らないらしくてね。蒼ちゃんが家事を手伝ってくれれば、お家賃やちんどころか生活費も一切いらないっていうのよ。太っ腹よねぇ」
「家事をする条件で……生活費がいらない?」

 条件が良すぎやしないか、それ。

「蒼ちゃん、お料理とかお掃除得意だものねぇ。いい息子に育って良かったわ」

 そう明るく言う母に、俺はげんなりとため息を吐く。
 得意というわけではない。人並み程度だ。俺より母さんが、家事が不得意なだけだろう。
 俺は焦げているうえ、放置されて冷えた目玉焼きを見下ろす。

「俺が家事をやるにしても、生活費がいらないなんて条件良すぎない? ばあちゃんの知り合いって言うけど、どういう人なの? 大丈夫なの?」

 何とか他人との同居生活を回避したくて、その話の怪しさを指摘すると、母さんはにっこりと微笑んだ。

「大丈夫よ。蒼ちゃんも初対面じゃないはずよ。蒼ちゃんがおばあちゃんの所に住んでいた時、遊んであげたことがあるって、結月さん言っていたもの」

 俺も……会ったことがある?
 確かに小学校に入る前までばあちゃん家に住んでたけど、その頃の記憶はあんまりないんだよな。
 ばあちゃんの家は、山間やまあいにポツンとある一軒家だった。
 そんな場所でも人柄の良さからか知り合いが多くて、色々な人がやって来ていた。
 その中の一人だろうか? キャラの濃い人達って印象は残っているのだが、その人達のことを思い出そうとすると、頭にもやがかかってわからなくなるんだよな。

「何歳くらいの人?」
「年齢は不詳ふしょうなのよねぇ。四十……いえ、三十代だと思うんだけど」

 首を傾げる母に、俺は呆れる。
 ……適当だな。

「とにかく、独身のイケメンよ」

 母さんの『イケメン』という言葉に、父さんの持つ新聞がカサッと音を立てた。それに気が付いた母さんが、父さんの腕にしがみつく。

和真かずまさんたら、いてるの? いやあねぇ。結月さんもイケメンだけど、和真さんの方がもっとかっこいいわよ!」

 父はいたって平凡な顔である。
 特徴もない平均的な日本人顔の上に、無口で無表情なタイプなので、モテる要素が見当たらない。
 しかし、愛というのは審美眼をくもらせるのか、母には父が格好よく見えているらしい。
 仲が良いのは結構なことだが、息子の前でいちゃつくのはやめてくれ。
 俺が無表情で見ていると、母さんはようやく話が脱線していることに気が付いたらしい。コホンと一つ咳払せきばらいをした。

「お母さん、もう結月さんにお願いしてきちゃったし、居候が嫌なら海外留学だから。蒼ちゃんの選択肢は二つに一つよ!」

 そこに母さんが日本に残るという選択肢はないのか。
 母にべったりとくっつかれながら、父は新聞をたたんで言った。

「まぁ、そういうことだ」


 そういうことって、どういうことだ。
 あの日のやり取りを思い出して、俺は電柱にしがみつきながらため息を吐く。
 あの後、両親の海外赴任の用意やら俺の引っ越し荷物のまとめやらで忙しく、あれよあれよという間に今日を迎えてしまったのだった。
 高校を卒業するまでの三年間、居候暮らしだなんて……。

「何でこんなことになっちゃったんだろうなぁ」

 居候先の地図を、くしゃりと握りしめる。
 高校生活にようやく慣れてきたと思ったのに、再び始まるコミュニケーションストレス。あまりにむごい。
 さらに言えば、今日は緑まぶしい五月の連休の初日だ。
 高校に入って初めてのゴールデンウィークを、こんな状態で迎えるとは思わなかったよ。
 どんよりとした気持ちで、快晴の空を見上げる。
 怒りをぶつけようにも、両親は今頃空の上。
 飛行機の中で「新婚気分ね」と、いちゃついてるんだろうと思うと腹が立つ。
 挨拶は母さん達が先に済ませたとはいえ、せめて居候先に俺を引継ぎしてから行ってくれよ。

「気が重いなぁ」

 そう呟いて、電柱の陰から見える高い外塀そとべいと立派な数寄屋門すきやもんを見つめる。
 地図からするとあそこが、居候先の結月ていだ。
 だがしかし、なかなかインターフォンを押せずにいた。
 今まで俺がしたことと言えば、この通りをうろうろしたあげく、電柱の陰から家の様子をうかがうという不審な行動だけ。
 いい加減入らなきゃとは思うが、結月邸の立派さに俺は完全にビビっていた。
 外塀に囲まれているからよくは見えないが、屋根などから察するに重厚感のある古いお屋敷やしきだ。
 外塀の白壁も長く続いているようだが、これが全部敷地ということだろうか?
 俺……ここを掃除しなきゃならないんだよな。
 いい条件だと思っていたけれど、もしかしてだまされたか?
 そう思って眺めていると、誰かが俺の肩をポンと叩いた。
 ビクッと肩を震わせて、俺はゆっくり振り返る。
 俺の肩を叩いたのは、若い警官だった。
 もしかして、俺があまりに挙動不審きょどうふしんだから、ご近所さんが通報したのだろうか。それともパトロール中に、不審者として認識されてしまったのか?
 警官はいぶかしげに眉間みけんにしわを寄せる。そして、俺を上から下までじろじろと見ながら言った。

「君、中学生? 小学生……ではないよね?」
「は?」

 中学生ならまだしも、小学生って。俺がいくら母親ゆずりの童顔だからって、そりゃないだろう。

九重ここのえ高校一年、小日向蒼真。明日十六歳になります」
「え……高校生?」

 目をまたたかせる警官に、俺はげんなりする。
 確かに、身長百五十センチで小さいし、よく年齢を間違われるけどさ。そんな驚くか?
 俺は嘆息して、鞄を探り生徒手帳を提示した。
 悲しいかな、年相応に見られないことは多々あるので、身分証明書として生徒手帳は常に携帯している。
 警官は生徒手帳の写真と俺を交互に見て、「本当だ……」と呟いた。
 失礼な人だ。
 その気持ちが顔に出ていたのだろう。警官は自分の反応が俺の気分を害したと気付き、「申し訳ない」と謝った。そして生徒手帳を返しながら、にっこりと微笑む。

「それで、小日向蒼真君。この辺じゃ見かけない顔だが、こんな電柱の陰で何してるのかな?」

 ……しまった。そういや俺、不審な行動をしていて声をかけられてたんだった。年齢を疑われたからって、早々に生徒手帳を提示するんじゃなかった。身元を知られてしまったではないか。

「あー……えっと……実はですね」

 ちょっと情けないけど、「居候先の立派さに、尻込しりごみしていました」って言わないといけないかな。
 俺はちらっと、結月さんの家に視線を送った。その視線の先に目を向けて、警官は「まさか……」と呟く。
 ん? まさかって、何?
 ……え、ちょっと、何でそんな眼差まなざしで俺を見るわけ?
 若干の居心地いごこちの悪さを感じていると、警官はふーっと息を吐いて、ゆるく頭を振った。

「確かに結月さんは美形だ。彼の後をつけて家を突き止めたあげく、家の前をうろつく女の子はよくいる。だがしかし、男の子もとは……」

 俺、もしかして結月さんの追っかけか何かだと思われてるわけ!?
 とんでもない勘違いに、俺は慌てて首を振った。

「違いますよ!」

 結月さんって、そんなに美形なのか。父さんを格好いいって言っている辺りで、母さんの評価はあてにならないと思っていたんだけど……。
 いや、今はそんなことを考えている場合じゃないな。

「俺は追っかけとかではなくて、今日からここに居候させてもらう者です」

 そう俺が説明すると、警官は眉を寄せた。

「君、そんなにわかりやすい嘘はいけないよ。居候なら、何ですぐインターフォンを鳴らさないんだい?」
「それは、門構えが立派だったので、気が引けて……」

 うつむきながら正直に言うと、俺と警官の間に沈黙が落ちた。
 おそるおそる窺った警官の顔は、まるで信用していないそれだった。
 あぁ、疑われる前に早く説明すれば良かった。もう今更何を言っても信じてもらえなそうだ。
 いったいどうしたらいいのかと、俺が困り果てた時だった。

「蒼真君?」

 ふいに耳心地のよい低い声で名前を呼ばれ、俺は反射的に振り返る。
 そこには、長い黒髪を一つに縛った、和服姿の男性が立っていた。
 背が高く、色白の美形だ。目は切れ長で、鼻筋がスッと通っている。
 モデルか? いや、地味かつ平凡に生きてきた俺に、モデルのようなはなばなしい知り合いはいない。
 じゃあ、何で俺の名前を……?
 俺が不思議に思っていると、その人物は俺の横に立った。

「おまわりさん。彼は今日からしばらくうちで預かる、知人のお孫さんです。何か問題でも?」

 彼の物憂ものうげな表情に、警官は目を丸くする。

「え、あ、いや……、本当に結月さんのお知り合いでしたか。これは失礼しました。いえ、そうであれば問題ありませんっ! 君も言ってくれれば良かったのに。あははは」
「ちゃんと、言いましたけど」

 俺がジトリと見上げると、警官は笑いを止めて敬礼けいれいした。

「では私はこれで」

 そう言い残し、近くに停めていた自転車に乗って、去っていった。
 残されたのは、同情めいた眼差しで俺を見下ろす彼と俺の二人だけ。

「到着早々、災難だったね。外が騒がしかったから出てきたが、間に合って良かったよ」
「貴方が、結月さんですか?」

 俺が問うと、彼はにっこりと微笑んだ。

「そうだよ。蒼真君にそう呼ばれるのは久しぶりだな」

 俺を見つめる彼の眼差しは、とても優しいものだった。俺は姿勢を正して、お辞儀じぎをする。

「あの……来て早々にご迷惑おかけしました。これからお世話になります」

 結月さんは嬉しそうに頷いて、俺の背中にそっと手を添えた。

「ここじゃあ、落ち着いて話が出来ないから中に入ろうか? それにしても、どうして家に入って来なかったんだい?」

 不思議そうに尋ねられ、俺は気恥ずかしくなりながら言う。

「お屋敷が立派だったので、気後きおくれしちゃって……」

 そんな俺に、結月さんはくすりと笑った。

「立派と言っても、古いだけの日本家屋かおくだよ」

 そう言いながら、結月さんが数寄屋門の扉を開ける。扉の先には風流ふうりゅうこけむした地面があって、門から玄関まで飛び石が続いていた。
 古い日本家屋というより、歴史ある高級旅館といった方がふさわしいだろう。

「やっぱり立派なお屋敷ですよ」

 感嘆の息を吐く俺に、結城さんは苦笑する。

「そんな大層なものではないよ。長く使っている分、私は愛着があるけれどね。一部洋式にリフォームしているが、家の殆どは古い造りで畳敷きだし、蒼真君には少し不便かもしれないな」

 眉を下げる結月さんに、俺は首を振った。

「いえ、和室とか古民家とか好きです」

 ばあちゃん家が昔話に出てきそうな茅葺かやぶきの屋根だったので、そういった雰囲気は好きだった。
 しかし結月さんが玄関の戸を開けて、俺は自分の発言の愚かさを知る。
 玄関が広いっ!
 十畳の部屋が、すっぽりと入るくらいある。古民家が好きとか言った自分が恥ずかしい。俺の思う古民家と、規模がまるで違う。

「ようこそ我が家へ」

 結月さんは優しく微笑み、俺を招き入れてくれる。

「お、お邪魔します……」

 俺は口元を引きつらせつつ、広い玄関の片隅に自分のスニーカーをそっと並べた。
 こんな場違いな所に置かれ、俺の靴のなんと肩身の狭そうなことか。可哀想すぎる。
 それにしても、玄関がここまで広いだなんて、このお屋敷の敷地はどのくらいなんだろうか。
 想像して、俺はゴクリと唾を呑む。

「まず客間に案内しよう」

 背を向けた結月さんに、俺は慌ててついて行った。


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