月が導く異世界道中

あずみ 圭

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序章 世界の果て放浪編

月の神、真と出会う ~ツクヨミ~

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※こちらは「月が導く異世界道中」の書籍化に伴いダイジェスト化した部分になります。

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 久しく交流も絶えておった、ある女神。
 そやつから連絡があったのは人間の感覚で一ヶ月程前だった。
 管理する世界で問題が生じ、すぐにでも人がいるとの事。
 何を馬鹿な、と儂は最初相手にしなかった。
 この世界に住まう者は皆特殊であったからだ。

 人間。

 生物の頂点に位置すると言っても過言ではない種だ。
 場合によっては神でさえ、彼らに討たれる事もある。
 彼らは儂が日々を過ごす始まりの世界、原初の世界において、希薄な神の加護に嘆く事もなく、己の手で繁栄を手にしてきた。生命に限りなく厳しいこの世界でだ。
 人間達は恐らく己のいる環境が過酷なのだと意識してはいないだろう。
 地球と名付けた星の外を見るようになり、もしかしたら自分達の住まう星は奇跡的に恵まれた場所なのだと、生まれを神に感謝している者もいるかもしれない。
 相対的には間違いのない意見だ。
 だが、儂ら他の世界を知る神々からすれば原初の世界は、そして地球は凄まじく過酷だ。
 身体能力は著しく制限を受け、精神が現象に干渉する際に当たり前に必要とされる魔力は極めて希薄。
 即ち人は自然の中で精々が百数十年しか生きられず、魔術一つ満足に扱えない者が大半だ。
 これは酷い。
 この世界に生まれた時点で、片腕をもがれた上で長くは生きられないと宣告されるのと同義なのだから。
 他の世界からここに移り住むのは、人間で例えるなら突然雲の上や海の底で普通の生活をしろと言っているのに近い。
 そんな環境下にも関わらず、人間は、頂点と評価される理由の一つでもある能力を遺憾なく発揮して発展してきた。

 可能性。

 人間の持つ、最高で最悪の力。
 世のことわりを学び、科学を生み、人はその手に様々な道具を得て世界を快適に変えていった。
 本来、この世界で人間は科学を得る筈が無かった。
 自然界の中でそれを手にする生物がいる訳が無かったのだ。
 神々の干渉も満足にない世界で、知恵を掴む可能性は限りなく低い筈だった。
 だが、原初の世界において彼らはそれを手にした。
 本来は得る事が叶わない筈の理を人間が得たのは、皮肉な事にこの過酷な世界そのものが一因となっていた。
 神々が干渉し難く、さらに精霊もロクに存在しない世界。
 自然界の現象はほぼ全て、理のままに起きていた。
 神々や精霊、大きな力を持つ獣が、道理や現象を気まぐれに曲げる事もなく。
 そう、興味を持ち調べるという行為をすれば、誰にも自然の理を検証する事が出来る状態になっていたのだ。
 ある時人間の一人が意図的に火を生み出し、彼らは理を、それを利用する科学の入口を知った。
 神々の中でも原初の世界の人間が理に手を伸ばす事については意見が割れ、それを火種に様々な争いが勃発、この世界を管理する神々の間で起こった最も大きい戦争となった。
 その戦争の結末は、まあいいとして。
 現在に至るまで人間は恐ろしいまでの可能性を世界に見せてきた。
 今はまだ良いものの、いずれ彼らが他世界にまで干渉をする事になれば、神と呼ばれる者と彼らは正面から出会う事になるだろう。つまり、人が儂ら神と会うのだ。彼らが一から磨いた技術によって。
 その時人間は人間なのか、それとも半神として扱われるのかは、今も一部の神々によって議論されている。
 原初の世界の、身一つでさえ神々に匹敵しうる人間が、科学まで手にする事はそこまでの事態を想定しなければならない重大な事件だ。
 彼らの特殊性・異常性は明らか。
 だからこそ、彼ら人間は基本的にはこの原初の世界で一生を終える。
 他世界を管理する神や創造した神から、その能力故に人間を世界に招きたいとする願いも多く提出されるものの、叶えられる事は殆ど無い。
 与える影響が大きすぎるからだ。
 人間一人が召喚されれば、その世界がどう変質するかわからない。
 少なくとも、その世界の進むべき未来に本来存在しなかった相当数の選択肢が出現するだろう。
 反応が予想出来ない未知の物質とも言えるな。
 偶発的に、可能性の力が特に弱い者などが世界から零れおち、他の世界へ転移してしまう事は稀にあるが、それとてごく僅か。
 落ちた先の神々と、こちらの担当者との間で色々な問題は起こるものの概ねこれまでに大きな問題はない。
 当然、儂は女神からの要請を却下した。
 正当な理由もなく、また事故が起きた訳でもないのに、人間を他の世界に転移させるなど、冗談ではない。
 だが。
 その女神は儂に興味深い事を言った。
 
 ならば人間で無くても構わない。

 そう、言ったのだ。
 詳しく聞けば、以前に彼女が管理する世界から原初の世界に送られたヒューマンという種族がいるらしい。
 何でも、人間をベースにして女神が自分の世界に相応しい存在として調整した存在だそうだ。
 調べた所……確かにいた。
 しかも儂の、今風に言えば「ホームグラウンド」である日本に。
 ヒューマンとは紛らわしい名前を付けたものだと呆れるが、別種族と言うよりは品種改良に近い印象を受けた。
 身体能力は人間に比べて相当に落ちるし、可能性の化け物とするには成長の振り幅が大人しい。
 代わりに人間に比べて容姿がある方向に偏りやすく、魔力を扱いやすいように肉体の素地が弄られているくらいか。
 簡単に説明してしまえば、女神好みの容姿を持つ者に生まれやすい虚弱で化ける可能性の少ない人間、であろうな。
 彼女にとっては改良なのだろうが、質の観点から見れば劣化している。
 ……特に、何を考えて容姿などに細工したのか。
 女の神だからか?
 いや、女神であっても創造を行う者は多いが、このような調整を行った者は知らぬな。
 よくわからん事をする。
 ともあれ、そのヒューマンは深澄みすみと名乗る一家だった。
 日本に住み、そこで子を為し、今も一家揃って健在。
 多少は女神からの庇護も受けていたようだが……ふむ。
 大したものだ。
 しかし、女神のやり様にはなんとまあ、と呆れざるを得ない。
 賢いと言うよりは小賢しく。
 上手いと言うよりは狡い。
 儂が知る彼女とは、些かやり方が異なると思えた。
 幾つかの世界を管理する内に、性格に変化でもあったのか。
 このようなからめ手はあまり使わぬ子であったのにな。
 儂が事故と言ったケースには当然反対もある。
 この世界から他の世界に零れ落ちる人間がいるように。
 他の世界からこの世界に飛ばされる生物も、少数ながらもちろん存在するのだ。
 しかしそれらには基本的に大きな関心が向けられる事が無い。
 何故か。
 大半の存在がすぐに死ぬからだ。
 この世界に適応できずに。
 一部生き残る事が出来たケースでも、世界に大きな影響を及ぼす事はまずない。
 狼男に雪女、そんな有名どころから、ある日突然発見されたと報じられる巨大生物まで。
 騒ぎになる事はあれど、結局世界に新たな可能性を示すほどの存在になる事は無いのだ。
 ……もちろん、稀にそういう存在が漂着した時には、神々が人間の助力をして対応してきた。
 生き残れる種であったとしても、人間と揉めるような事にはまずならず、担当する神の庇護を得て静かに暮らす事が多い。
 しかしながら、基本的に彼らに関しては取り決めもアバウトな所があるのが事実。
 女神はそこを逆手に取るつもりでいるようだった。
 原初の世界に適応して生きているのなら、女神の世界に召喚されたとして、十分に彼女が望む活躍をするであろうしな。

「なれど、今はこの世界で生きる者であろう? 召喚はこれまでの生活を捨てさせる事となる。頷かせるだけの条件をお前が提示できるのかの?」

「相変わらずね……神が人の都合を考慮するなど、無用な配慮だと思うけど」

「言っておくが、無理矢理にと言うのなら儂は同意せんぞ。転移に関して許可もせぬし、門も作らせぬ」

「……わかったわ。別に無理矢理になんて言ってないでしょう。既に深澄とは話がついているの、彼らが昔転移した時にね。だから拒否する事は無いわ」

「ふむ……そうか、既に一度転移を。ならば召喚するのは子供の誰か、という事になるんじゃな?」

 複数回の転移に耐えられるような強い肉体の持ち主は殆どいない。
 人間であれば、話は別じゃが。

「ええ。貴方は門を作る許可と協力さえくれれば良いわ。迷惑はかけない。後は私がやる――」

「駄目じゃな。幸い、門を作るに適した時期までは一月程ある。儂が見定め、門を生成した後にお前に引き合わせる事としよう」

「っ!? 随分と疑い深いのね?」

「当然じゃ。原初の世界に生きる者を転移させる事には違いないのだし、それにたった今、裏道を通して召喚を頷かせようとした者の言葉を鵜呑みには出来ぬ」

「それが、今や創造神に名を連ねる私に向ける言葉? 未だに地味な仕事しかしていない、ただの月神の分際で」

「創造神であるから、偉い? 言葉を返すが随分と偉くなったのう。儂らの仕事に貴賎などありはせぬ。全てが必要で、全ては互いに尊重されねばならぬもの。お主も神なら、その程度の事を他者から指摘されることを恥じよ。お主とて元は――」

「まあいいわ。……選定は任せましょう。では一月後に」

 説教になると思ったのか、会話を断ち切って消えおった。
 やれやれ。
 儂も暇ではないのだがなあ。
 あやつとの会話を思い出して溜息を吐く。
 今日がその期日。
 異世界との門を作るに適した直近の日。
 この間、儂は女神から名指しされた深澄家の子供たちを見てきた。
 内一人をこの世界から異世界に転移させなければならないからだ。
 上から女、男、女。
 深澄家の子は三人だった。

 長女は持久力にやや劣るものの身体能力は普通、ただ柔道の経験があり、相当な実力者だ。
 肉体には女神の力の残滓が窺える。
 神の力に保護されたおかげで最低限の身体能力は有しているようだった。
 柔道の実力については、一途に学んだ結果、才能が開花したケースと見るべきだろう。
 今は競技者としての道ではなく、医者を目指して大学に通っている。
 交際相手がいて順風満帆な生活を送っていた。

 次女はやや体が弱いものの、空手を学び、またその才能もあるようだ。
 女神の力は感じられない。
 それでも健康な身体を持って生まれたのは、両親の身体が何とかこの世界に適応した頃に出来た子だからだろう。
 彼女は末っ子で、愛される事に慣れているのか長けているのか、家族からも友人からも可愛がられている。
 高校受験を控えて日々受験勉強に追われながらも、前向きに頑張っておる。
 交際相手は特にいないようだが、幾つかの夢に思いを馳せる年齢らしい少女だ。

 そして長男。
 これが恐らくは女神の言う話がついている者、なのだと思う。
 両親が女神との話を子らにどう話したのかはわからないが。
 しかし、明らかに他の二人とは異質な子だった。
 女神の力で守られた長女、両親の適応が間に合った次女の間に生まれた子。
 もっとも他の世界から来た者らしくあり、極めて虚弱。
 既に何度か死んでいてもおかしくない程で、幼少期を乗り越えられたのは一つの奇跡と言っても良い。
 つまり、良くない意味で両親の特徴を一番に引き継いだ不運な子だと言えるだろう。
 非凡な容姿に生まれる確率がかなり高い筈なのに、そこは平均的な日本人とさして変わらずに生まれ。
 身体能力だけはきっちり両親の弱さを引き継いでしまっていた。
 自覚は無いのだろうが、数奇な人生を歩んでいる。
 運命の女神に情報を見せてもらった所、思わず感嘆の声を上げる程だ。
 長女と次女、それに両親が非凡な容姿で人から羨望を向けられる中、彼自身は凡庸な顔立ち。
 その上昇幅を考えると讃えられるべき奇跡なのに、数値だけ見れば普通の体力。
 複数与えられて何の不思議もない才能を、申し訳程度に一つだけしか持たない凡人ぶり。
 しかもその才能は平和な日本に生まれた以上、ほぼ覚醒する機会は無いであろうという事実。
 ある意味で振り幅が凄い。
 結果として今の彼はごくごく普通の日本人高校生男子。
 それが概ね妥当な評価となるだろう。
 足掻いて足掻いて、彼はその地位にいるのだ。
 兄弟の構成がやや儂と似ている事もあって、何となく儂は彼に親近感を抱いていた。
 上と下に挟まれる、と言う程度の共通点だが。
 そんな彼、深澄みすみまことの唯一の能力。
 才能とは違う、いやこれも才能と呼ぶべきなのか。
 そこは迷う所ではある。
 幼少から彼が学ぶ弓道。
 その、高い能力だった。
 天才と言うよりは異才、か。
 持って生まれた才能とは別の場所で開花した能力なのだから。
 必中能力。
 少し違う気もする。
 しかし、この短い期間で判断できる範囲では、儂は彼のその能力は必中能力だと判断した。
 特異な集中を終えた後、彼は弓でその狙いを外すことは無い。
 実に見事で、もしも将来的に他の分野でも使えるのなら凄まじい事になる可能性がある。
 そうでなくても、深く深くひたすらに自己の中に潜るような集中力は、これからの彼の人生で役立つ事もあるだろう。
 深澄家の三人の子供の中では、彼だけがこの異様な能力を有している。
 つまり、有事について両親から聞いている、と言う事なのだろう。
 だからこそ、こんな能力を持ち、かつ自覚しているのだ。
 転移の対象者とするなら彼だな。
 事前に話が出来ればもっと詳しい事もわかるのだが、神から人への接触は色々と規則が厳しく、今回のケースでは直接会えるのは転移の正にその時になってしまう。
 彼とは気が合うような予感もあるだけに、残念な事だ。
 しかし。
 一方で不安も残る。
 深澄真はこの一ヶ月、何も変わる事のない高校生活を送っている。
 身の回りの整理をするでもなく、特に転移を意識した鍛錬を行う事も無い。
 いつも通りの日常を過ごしていた。
 起きて、当番によっては朝食も担当し、弁当を持って登校し、部活に励み、勉強をして、友人と語らい、食事を取り、体を鍛え、趣味に興じ、入浴して、眠る。
 と言っても十代の若者だ。
 それなりの嗜好もあるし、高校では彼に思いを寄せる者も数人いるようだった。
 深澄真が誰を選んでも、少なくとも彼の容姿から言えば、運の良い奴だと友人に冷やかされるだろう。
 彼にとって初めてになるこの世の春が、すぐそこにまで来ている状態だった。
 有力なのは……儂が見るに部活の後輩と部長の娘。
 三角関係などになれば、横から見ている分には面白いのう。
 未だ誰とも交際した経験の無い彼に、甲斐性を期待しても仕方無いが若者の色恋は色々と見ていて微笑ましい。
 ……もっとも。
 それは実現せぬ。
 儂が、彼が生きたこの世界でのこれまでと、過ごす筈だったこれからの全てを奪ってしまうのだから。
 神の身勝手で人生を狂わされるのは実に不愉快な事であろう。
 彼には恨む権利がある。
 忙しい中で時間を作って、恨まれ役をせねばならんとは、儂もつくづくツイておらん。
 さて、では彼を呼ぶとしようか。
 儂は眠りの中にある深澄真を、門の生成と同時に作った空間に招待した。





◇◆◇◆◇◆◇◆





 なんと馬鹿なことをしてくれたのか!!
 女神の暴挙と、戸惑いを浮かべながら目の前から消えていった真殿を見て、儂は久しく覚えた事の無い怒りを感じていた。
 世界間を繋げる門の生成に手間取っているのかと思えば、何と約束の者である真殿だけでなく生粋の人間を二人も連れて行きおった。
 真殿に世界の転移に関わる事、そして人間の事を話していた間にだ。
 彼は何も知らなかった。
 両親の話を聞かせても、まだ自分が人間では無くヒューマンであることには実感として思い至っていないようだった。
 無理もない事だ。
 いずれ異世界にてそれを自覚する時が来ても儂は傍におれぬが、誰か良き友が出来ていてくれる事を祈るほかない。
 生まれや育ち、人がそのルーツに悩みを持った時、力になれるのは神では無い。
 己の歩いてきた過去、頼りとする友人、尊敬する先達。
 そういったモノであろうから。
 次いで、咄嗟に女神を庇うような発言をした事を悔いる。
 つい常々の癖で、彼に女神を大目に見るようお願いしてしまった。
 関係が上手くいくなら勿論それが好ましいが、もしも真殿がひたすらに下手に出て従うともなると話は違ってくる。
 この扱いでソレでは彼があまりにも不憫だ。
 こうなれば、致し方ない。
 彼に力を渡して大分力を失ったが、それでも気力を振り絞って真殿の残滓を追う。
 老体には実に堪える。
 だが、姉妹が異世界に飛ぶ位ならと自分が転移する事を選んだ真殿の事を考えると、そうも言っておられん。
 意識だけを向かわせる中、連れて行かれた残る二人の人間についても追跡する。
 多少の時間差こそあったようだが二人とも、既に人、ヒューマンの国に降臨していた。
 女神から数々の祝福と、それに神器までも下賜されていた。
 この二人は特に問題は無いようだな。
 世界に与える影響はともかく、その身に不都合は無いようだ。
 同意がなければ連れて行けない規則のおかげか、二人には戸惑いはあっても現状否定的な感情は見られなかった。
 あとは、真殿か。
 あの耳が腐るような女神との会話は聞いていたが、あの娘果たしてどこまで本気だったか。
 大分二人からは遠い場所にいる。
 な、なんと!?
 本当に真殿が空に!?
 神器どころか女神の力も殆ど感じられん。
 微かに何かを感じぬでも無いが……言語理解?
 あれは人に与えるようなものでも無い、しかも不完全な状態で突っ込まれておるぞ?
 だがまさか、身一つでこんな辺境に放り出しただと!?
 ……。

 世の果ての、星降る荒野に、真降る。
 
 季語なし。字余り。
 いやいやいや。
 何を一句考えておるんだ、儂は。
 あまりの事に少し現実逃避してしまった。
 神に乞われて世界を転移した者が、いきなり夜空を真っ逆さま。
 あの馬鹿娘、仮にも神であろうに何をやっておる!
 すぐに真殿と交信する。
 既に諦めの境地の中で落下していた彼の表情に生気が戻った。
 落ちたところで死ぬ事は無いと伝えた上で、彼に二人の人間がこの世界に連れてこられた事を話す。
 案の定、真殿は姉妹のどちらかが対象になったのではと心配したが、そうではない事を教えると安堵した。
 残る二人が勇者として既に人の都にいる事を教えると大分複雑な表情をした真殿。
 それでも、出会う事があれば気にしてやって欲しいと頼んでみると、彼は儂に一瞬呆れるような顔を見せた後、優しい表情で頷いてくれた。
 ふふふ。
 やはり、彼とは気が合うな。
 いよいよ、儂の力が枯渇していくのがわかった。
 限界が近い。
 もっと、多くの事を話してやれれば良かったのだが叶わぬようだ。
 あの女神、制裁は覚悟しておろうな。
 いくら権限の多い創造神とはいえ、タダでは済まさぬぞ。

「このような事態だ。本来の勇者としての役割も、あの女神自ら剥奪しおったし、もう遠慮はいらぬ。月読の名において許す。汝、深澄真よ。新たなる世界での自由を認める。好きにせよ!」

 真殿に女神に従う必要が無い事、儂などでは心もとないだろうがその名の下で自由を約束した。
 儂の言葉に嬉しそうに破顔する真殿。
 そう、この仕打ちを経て尚、あの女神に縛られる義務などあろうものか。
 思うまま、その一生を悔いなく過ごせば良いのだ!

「魂の輪廻で、また会える事を願っている。その時にはこの世界での真殿の生き様を教えて欲しい。どうか、真殿に幸多き未来がある事を祈っている」

 今生では最早会う事は叶わぬだろうが、いつかまた会える事を願って儂は女神の世界から離れた。
 意識が混濁する。
 ここまで力を使ったのは初めての事だ。
 最悪の気分の中、まずい、とそう思った。
 辛うじて何名かの知己に助けを求め、ついに儂は倒れた。
 どうか……真殿に幸多き未来を。
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