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第七章 風雲

十一話 亜人王 一

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「…………パティが欲しいなら俺を倒しやがれ、キリッ」
「エリシュカちゃんまた言ってるー」
「エリシュカは俺に喧嘩を売ってるのかな?」
「…………ちがう。ゼンを叱ってるだけ」
「からかってるようにしか聞こえないんだが……おっ、そうかポッポちゃん。ご苦労様」

 スノアでの旅がもうすぐ終わる事を、先行していたポッポちゃんが知らせてくれた。
 ポッポちゃんの位置把握能力は、眼下に広がる広大な森林地帯でも、決して間違う事はない。
 目的地へと真っ直ぐに導いてくれる。

 俺の膝の上にはエリシュカが座り、そのエリシュカがおいかぶさるようにユスティーナを抱いている。
 エリシュカが言うには、身体の大きさ的にこれが正しいらしい。
 何時もの席を取られた形のユスティーナだが、連日の遊び相手であるエリシュカなので、不満は全くないらしい。アニアに言われて以来、より愛情を注いでいるのだが、物わかりが良すぎて、ちょっと寂しい俺がいた。もっと甘えて欲しい物だ。
 頭を後ろに反らせながら、俺をからかっていたエリシュカは、それに飽きたのかユスティーナに抱きついて、何やら話を始めた。

 エリシュカが言っていた事は、先日行った、パティの見合いの件だ。
 店ごとお菓子を買った後は、会場となった侯爵様宅でもある城砦へと向かい、そこでまずは騎士連中と腕試しを行った。
 俺は前座みたいなものなので、余り前に出ないようにしていたのだが、少しの問題が起こった。
 貴族の三男以下が多い騎士たちは、真面目な奴も多かったが、平民のパティを軽んじている奴も多くいて、嫁にしてやるからと上から目線で接してきたんだ。
 まあ、結論から言えば、俺がブチ切れただけなんだが、仕方ないだろ。あんな可愛く着飾って頑張っていたパティに「少し歳がな……正妻は無理だが、妾なら良いぞ」とか言ったんだぞ。
 これは俺や侯爵様が、パティと離れていた時の発言で、エリシュカの超感覚のお陰で知ることができた。
 パティは我慢をしていたが、知ってしまった俺は頭に血が上ったね。
 思わずお前ら全員相手してやるとか言ってたし。
 いや、もちろん暴言を吐いた奴とその取り巻きみたいな奴らに言ったつもりだったんだけど、何故か騎士たち全員がまた戦えるのかと準備し始めちゃって、始まった騎士三十人対俺。
 もちろん関係ない人は手加減したけど、それでもそいつらもパティに関心ってより、俺とやりあう方に関心を持ってたから、それでまた切れるっていう状態だ。

 反省はしたけど、悪い事はしていないはずだ。いや、分かってるよ……やらかしてんだよ!
 まあ、そのお陰で一人気概のある人を見つけたんだ。
 無骨な感じの騎士で、最後まで俺に食らいついてきた男だ。
 それも、俺に勝たないとパティはやらねえ発言を聞いて、気合が入ったらしく、死屍累々の会場で最後まで残り、攻撃の時には「パティさんを下さいッ!」とか言いながら、槍で突いてきたからね。
 その時ふと見たパティの赤く染まった顔は素晴らしかった。
 肉体的にも中身的にもストライクゾーンの広い俺だから、思わず手放すのが惜しくなったほどだった。

 結果としては、その騎士との間を取り持つ事で決着として、終わりを見せた。
 やらかしたとはいえ、一応は成功させたんだから、からかう事はないはずなんだよな。
 エリシュカには、俺の行動がかなりツボだったみたいだけど。

 そんな俺らの後方には、巨大な蝙蝠にぶら下がるシラールドとヴィートの姿がある。
 双方会話をするでもなく、片手で蝙蝠の足を掴んで何やら瞑想をしている。
 精神集中修行だとか。

 シラールドたちに近付くようスノアに指示を出す。

「もうすぐで目的地に着くよ。俺が先行するから、合図をしたら降りてきてくれ」
「分かった。上で待機している」

 スノアからポッポちゃんに移動手段を変えた俺は、そのままの状態で目的地上空を旋回してから、ゆっくりと地面に近づいた。

「ゴブ太君はいるか? あー、それより俺の事を知ってる奴はいないか?」

 大森林に突如現れた、大きく開かれた集落の真ん中に降り立つと、俺の周りを無数の亜人たちが取り囲んだ。
 ゴブリンが大多数だが、オークやリザードマンなどの見知った亜人も多く見える。
 更には、以前来た時にはいなかった種族も見える。

 俺を取り囲む亜人たちは、突然訪れた来訪者を取り囲み、手にした武器を構えている。
 飛びかかってくる様子はないので、暫くそのまま待っていると、奥の方から近づいてくる一団が目に入る。
 そして、その一団が囲いを抜けて俺の前へと進んできた。

「久しぶりだね。元気だった?」

 現れたのは、ゴブリンの中でも長老的な役割をしていた老ゴブリンだ。
 俺の前で膝を突き「王のご帰還お待ちしておりました」と、深々と頭を下げた。

「お前たちの王はゴブ太君だろ。俺は遊びに来ただけだよ」

 俺が笑いながらそう言うと、老ゴブリンは頭を上げて、懐かしそうな顔をして俺を見ている。
 そして「またお姿が変わっておりますな。さらなる進化おめでとうございます」と、俺の成長を少し勘違いしている発言をした。
 まあ、彼らの成長スパンを考えると、年齢で大きくなるより進化をして、身体を大きくする方が早いか。
 ん……? ゴブリンて年齢で成長しないんだっけ……?

 変な疑問が浮かんだが、それはとりあえず後で良いと判断して、俺はまだ上空に飛んでいる、残りのみんなをポッポちゃんに呼んでもらう事にした。

「かなりの群れだな、ここだけで三百はいるか? これだけの亜人に囲まれたのは初めてだ。これはワシも少し緊張するな。それにしても、主は本当に会話が出来るのだな……魔……止めとこう」
「何か、思ったより弱い奴らだなあ。兄ちゃん本当に強い奴いるのか?」

 地面に降りてきたシラールドとヴィートが、思い思いに話しかけてくる。
 シラールド何を言い掛けた……

「…………ゴブリン見てたらおなか空いてきた」
「えぇ……食べちゃ駄目だよエリシュカちゃん」
「お菓子あげるから絶対我慢しろ。ユスティーナ、これを与えてくれ早くだ!」
「はい、パパ。お口開けてエリシュカちゃん」

 ユスティーナにクッキーが入った袋を手渡す。多分二キロは入っているだろう。
 エリシュカはそれを口の中に流し込まれて、大人しくなった。
 ゴブリンをスナック感覚で食いたいとか、やはり感覚が違うぜ……
 ふとヴィートに視線を移すと、「俺は食いたくないよ!」とか言っていた。
 感覚が違うのは、エリシュカだけか。まあ、そうだよな。

 老ゴブリンに、とりあえずこちらへと言われ、建物の中に通される。
 そこは以前、ゴブ太君がいた、集落の中心にある物だった。

「なるほど、ゴブ太君は前線か……俺の知ってる奴らも、大体出てるのね」

 老ゴブリンが言うには、戦える力を持つ者は、殆どが前線に行っているらしい。
 この場所に残っているのは、まだ成長途中のゴブリンや、戦闘能力の低い者ばかりだという。
 もちろん、戦える者がいない訳ではない。
 俺たちみたいに飛んでこられる可能性があるからだ。
 ただ、それは亜人とはいえかなり限られた戦力だ。

「それで、三つ巴はどうなってるの?」

 以前、ギルドでオーガ討伐の依頼を受けた時に、この森で起こっている状況を知った。
 三つ巴の戦いが起きていて、その一角をゴブ太君たちの群れが率いているという事だ。
 あれから暫く経ったが、老ゴブの話を聞く限りでは、状況は結構変わっていた。

 戦いの様相は、三つ巴から二対一に変化している。
 これは、ゴブ太君たちと北から降りてきた勢力が手を組み、この森の東側が集まってできた連合との戦いに変化した状況だ。
 つい先日の事らしいが、そのお陰で兵力を前線に集中出来るようになったとか。
 戦いの場はここからは歩いて一日の場所らしい。
 かなり近いが、お互いの領域が虫食い状態なので、場所は度々変化するとか。

「どうしようか、とりあえず今日はゆっくり休みたいな」
「そうしよう、儂も空を飛びすぎて少し疲れた。子供……はユスティーナだけか、無理をさせるのはいかんと思うぞ、主」

 古竜を子供に入れていいかは、流石のシラールドも迷うか。
 俺も正直判断が付かないからな。

「じゃあ、そうしようか。悪いけど今日の寝床を作る場所を借りたい。平らな広い場所を教えてくれないか?」

 俺の言葉に老ゴブリンは「御意」と一言だけ返事をして、中心地に近い空き地を提供してくれた。

 ポッポ亭を取り出して、今日の寝床を用意する。
 改良を加えたポッポ亭は、以前より広くなり、スノアでも寝泊まりできる馬小屋も追加してある。
 使う予定のない金を、少し崩して投資したので、内装も結構な物だ。
 魔法が使えなくとも、数点の魔道具を用意してあるので、一通りの生活は出来る。

「今日もポッポちゃんと一緒だね。ユスティーナを取られちゃったな」

 ユスティーナは今日もエリシュカと寝るらしい。
 あれだけ毎日のように張り付いていたポッポちゃんだったが、案外あっさりとしたもので、「エリシュならいいのよー。強い竜とお友達はいいのよー」と、微妙に友達は選べ的な反応を見せていた。
 時折、強い野生発言をするので、強者が仲間になれば良いに越した事はないと考えているのだろう。
 それにしても流石鳩だね。子離れが早い。



 次の日。俺たちは激しく争う亜人の声で目を覚ます事となった。

「主……味方と敵の判断が付かないぞこれは……」
「俺も分かってないからな。襲ってきた奴は殺すでいこう。エリシュカとヴィートもユスティーナを頼む。スノアを護衛に回すけど、突破されたら竜に戻れよ」
「おう、任せろ兄ちゃん! でも、このままで勝てなかったら、竜に戻るからな!」
「…………竜をなめないで、スノアが亜人風情に負けるわけない」

 物音で起きた俺は、何事かと外に出てみると、そこでは群れの亜人たちが、戦う様子が繰り広げられていた。
 まだ、俺らが寝ていたポッポ亭とは距離があるが、遠方では吹き飛ばされたのか、空に飛んでいるゴブリンたちの姿も見える。状況を考えるに敵襲だろう。
 俺はシラールドにこの場を任せて、老ゴブリンを探すことにした。

「ポッポちゃん! 昨日のゴブリンがいたら教えてくれ」

 走り出した俺の後ろに付いてきたポッポちゃんが、俺を先導するかのように先へと飛び、安全を確認してくれる。
 まだ敵の姿は見えないが、シラールドが言っていた通り、亜人同士の戦いなので、俺も見た目では判断出来ない。以前ならばともかく、今は数が多いし、知らない奴ばかりだからだ。

 程なくすると、探知で老ゴブリンを見つけた。相当数のゴブリンがいるので、本当にややこしい。
 探知を使いこなせていると思っていたが、この数になるとまだ改善すべき事がありそうだ。

「ポッポちゃん、こっちだ!」

 亜人たちの頭の上を飛び越えて進んでいく。
 前線近くに近づくと、老ゴブリンが周りにいる亜人たちに指示を出していた。

「敵だな? 俺がやるから周りに指示を出せ。とりあえず敵と味方の判断が付かない。それをどうにかしてくれ」

 俺の言葉に一瞬戸惑った老ゴブリンだったが、すぐに考えをまとめたのか、数匹の亜人を俺に付かせた。
 そして、周りの亜人には全兵の後退を指示している。

「良い判断だ。全て引かせたら防御を固めろ。あぁ、後方にいる俺の仲間には間違っても敵対行動を取らせるなよ。そいつは死ぬだけだからな」

 そう言い残し俺は戦いの場へと足を向ける。
 「王は一人で戦うか?」と、俺の後方を付いてくる、ホブゴブリンの一匹が口を開いた。

「あぁ、お前たちは味方に引くように指示を出せ。それから俺に敵を教えろ。やることはそれだけでいい」

 俺の言葉を聞いて、ホブゴブリンは頭を下げたが、他の奴らは半信半疑といった様子だ。
 このホブゴブリンは古参なので、俺の事を知っている。理解が早くて助かるよ。
 移動速度は彼らに合わせているので、少し遅くなったが、前線はそれほど距離はない。
 すぐに現場に辿り着いた。

 その場では、多数のホブゴブリンを中心に、入り乱れての戦闘を繰り広げていた。
 俺に付いてきた亜人たちが、声を出して一斉に指示を出し始める。
 特にハーピーの高い鳴き声が響き渡り、遠くまで浸透した。
 ポッポちゃんが一瞬うるさそうにしていたが、俺が見ている事に気付くと「味方だから怒らないのよ!」と寛大なお言葉を頂けた。

 声が届いたのか、味方の亜人がこちらに向かってきた。
 かなりの数が向かってきているが、俺にはどれがどれなのか全く分からない。
 選別は付いてきた亜人に任せ、俺は敵の選択を待つ。

 ホブゴブリンが俺の前に立つと、あれが敵だと指をさした。
 俺は後ろから味方を襲おうとしていたオークに、ナイフを投擲する。
 続いて俺の隣に来たトロールが指をさす方に、同じくナイフを投擲する。
 そして、ハーピーが声で知らせて方向にも、続けて投擲を行う。

「あの辺一帯は味方がいないんだな?」

 俺の声に、ホブゴブリンが大きくうなずいたのを確認してから、右手を前方に突き出した。

「『チェインライトニング』ッ!」

 数十の亜人たちが、全て魔法の餌食となる。
 一度の魔法で全て死んだかと思ったが、運良く生き残った者もいた。そいつらは、ポッポちゃんが追加で放った岩の槍に串刺しにされて力尽きた。
 しかし、森の中だと木に魔法が逃げてしまって、威力が落ちる気がするな。

 その後も追われる味方を助け、俺の前方には敵だけになる。
 改めて敵を見てみると、多くは俺の知るゴブリンや、オークなどだが、その装いは若干違っていた。
 どいつもこいつも、動物か何かの頭蓋骨を身に着けている。
 頭に被ったり、首から垂らしたり様々だ。
 中には両膝、両肘に頭蓋骨をはめている奴もいる。
 どこぞの原住民を思わせる光景だ。

 ゴブリンやオークの他にも、俺には少し懐かしいミノタウロスの姿や、一見獣人かと思わせる、ウォーウルフの姿も見える。
 更には探知を伸ばした敵の後方には、俺の知らない気配も多数ある。
 横一列に並んだ敵たちは、一度動きを止めている。俺とポッポちゃんが放った魔法にたじろいだようだ。

「よし、お前たちは後方に下がってろ。ポッポちゃん、手加減は必要ないからな。久しぶりに一緒に戦えるな」

 後ろに控えていた味方を下がらせ、肩へと飛び乗ってきたポッポちゃんに、自由に戦えと指示を出す。ポッポちゃんは「女王の力をみせるのよ!」と、クルゥと鳴いて、俺の肩を強く蹴ると、一気に真上に飛び上がり、少数だが見える上空の敵に向かって飛んでいった。

「この群れに手を出した奴らが、どうなるか思い知らせないとな」

 今この場にいる亜人たちは、それほど見知った者はいない。
 だが、この群れに対する俺の思いが、敵に対して容赦をするなと、獰猛な俺を引き出している。
 俺は【英霊の杖】を取り出して、片手で持って召喚を行う。
 地面から湧き出るように現れたのは、二本の剣を持つ軽装の男。

「俺の敵を殲滅しろ」

 俺は剣豪サジの英霊に指示を出す。
 すると、サジは俺の目の前に存在する敵に向かって、突撃を開始した。
 それに続いて俺も動き出す。
 マジックボックスから取り出した鉄の槍を、三歩の助走を付けて投擲する。
 放たれた槍は、俺の膂力で一瞬大きくたわむが、風切り音を上げながら敵へと瞬時に到達した。

 槍は貫く。
 先頭にいたホブゴブリンの頭部を吹き飛ばし、その後ろのオークの胸に風穴を開ける。
 更にその後方にいたラミアの腕をもぎ取りながら、その更に後ろのオーガ二匹を串刺しにして止まった。

 俺は投擲する。
 今度も多数の亜人のを葬りさる。
 更に投擲する。
 亜人たちの叫び声が森にこだまする。

 サジが飛び込んだ一帯から血吹雪が上がっている。
 亜人の身体がはじけ飛び、宙を舞って地面に落ちた。

 阿鼻叫喚だ。
 俺もそれに飛び込んで、【テンペスト】で串刺しにしていく。

 敵が弾け飛ぶ。
 俺の身体が敵の血を浴びて汚れるが今は関係ない。とにかく敵を倒す。

 敵が空から落ちてきた。
 上空のポッポちゃんが、高速で飛び回り岩の槍を放っては、空を飛ぶ敵を撃ち落とす。

 空が光った。
 それに続いて数匹の敵がまとめて地面に落ちてきた。
 どうやら、ポッポちゃんが雷撃を食らわせたみたいだ。

 俺もそれに習い、『チェインライトニング』を放つ。
 俺を取り囲み密集している敵が、一瞬で焼け焦げて地面に倒れた。

 何時しか敵は俺らから逃げている。
 亜人たちの恐怖の目が俺らに向けられていた。

 そんな状況の中、ひときわ大きいラミアのような奴が、発狂したかのような声を上げ、逃げる奴らを制しようとしていた。だが、既に統率は不可能なほど、恐怖は彼らを支配していた。

 逃げる敵をポッポちゃんとサジに追撃させ、俺は指揮官らしきラミアに近づく。
 相手も俺が向かってきた事に気付いたのか、覚悟を決めたかのような顔をした。

 近付いてみると分かる。
 指揮官の顔はとても美しい人間の女性に近い顔をしている。
 だが、その髪の毛は少し様子が違う。
 一本一本を纏めているのかと思ったが、その先には蛇の頭部のような物が付いていて、個別に動いている様子が見える。
 一瞬、俺がダンジョンで倒したエンシェントゲイザーを思い出した。

 上半身は人の身体だ。
 全裸なので豊満なそれに少し視線が向いてしまう。
 下半身は蛇だ。
 長い胴体がとぐろを巻いている。

 そいつが剣と盾を持って、俺に対峙する。
 彼女の視線を受けながら、右手の【テンペスト】を握りしめた。
 向こうからは来る気がないようなので、俺から歩みを進めると、彼女の視線が強まったのを感じた。
 その瞬間、俺の魔法抵抗が自動的に防壁を展開した。
 何をされたかは分からないが、何かを弾いた感覚があった。

「何をした、答えれば殺さない事も考えるぞ」

 力的には全く問題なく勝てる相手だ。
 だが、正体不明な攻撃は、正直怖い。
 答えるとは思っていないが、物は試しに聞いてみた。
 返事はシャーッという蛇らしい威嚇の声で返された。
 なかなかお転婆な娘らしい。

 俺を支配していた暴力的な感情は、先ほどの戦いで若干落ち着いてきている。
 俺は薄く諦めの表情を目に浮かべている、アレに興味が出てしまい、手心を加えようかと考えた。
 そうだ、情報が欲しい。生け捕りだな。

 そんな事を考えていると、指揮官が明らかに怯えた表情を見せた。
 何故かと思い考えてみると、どうやら俺は意識をしない内に笑っていたらしい。

 さてやるか、なら【テンペスト】は不要だ。
 俺は【テンペスト】をマジックボックスに収納し、代わりに鉄の棍棒を取り出した。
 多少突いてみれば諦めるだろう。

 やる事は決まった。俺は地面を蹴って突撃する。
 流石兵を率いてきただけあり、俺の殴打に対応して盾を構えて防御している。
 指揮官ができる反撃は、俺と視線を合わせるだけだ。
 それをする度に魔法抵抗が発動して、何かを弾いている。

 思ったよりも手ごわいので、少し力を入れて相手の盾を吹き飛ばす。
 すると、指揮官の顔が歪んだ。衝撃で腕が折れたようだ。

 甲高い声を上げながら、指揮官ががむしゃらに振り下ろした剣が俺に迫る。
 だが、精彩を欠いた攻撃は、打ち上げた俺の棍棒が弾く。
 空に舞った剣が俺の背後に突き刺さった。
 武器を失った指揮官に、俺は棍棒を突きつける。

「これ以上抵抗するなら、更に骨を砕かないとならないな。俺にそれをさせるなよ?」

 苦しそうな表情を見せる指揮官は、諦めたのか力なく頭を下げた。
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