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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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 合同捜査本部に参加する人間は、その所轄の二番手や三番手であると相場が決まっている。合同捜査本部に所轄のエースを配属してしまうと、他の事件に対応できないからだ。しかし、一応エースとも言える警部の倉科は、合同捜査本部に配属されていた。なぜ配属されたのか――それは倉科が0.5係という特殊な側面を持っているからだ。

 本部への連絡を終えたのか、部下が戻ってきて律儀にも報告をしてくれる。しばらくしない内に、増援がやってくるだろう。本部のお上さんが、合同捜査案件であると判断するのは目に見えている。

「合同捜査になるだろうから、スムーズに引き継ぎできるように手配しておいてくれ」

 事件の主導権が捜査本部へと渡れば、この場にいる捜査員の大半を署に帰してやることができる。所轄のみで捜査していい案件ではないため、捜査本部に組み込まれている捜査員以外は、悪い言い方をすればお払い箱である。ぞろぞろと捜査員が現場にいても邪魔なわけであるし、所轄は所轄で忙しいのだ。

 ポケットに入れていたスマートフォンがぶるぶると震え出した。ようやくガラケーから乗り換えることに成功したが、電話ひとつに出るにしてもいまだに戸惑うことがある。なんというか焦ってしまって、どうしても操作がもたついてしまうのだ。

 ディスプレイに表示された名前を見て、倉科はさらに戸惑った。操作方法云々ではなく、そのディスプレイに表示された名前のせいで、操作がもたつきそうだった。なんというか、できるだけ関わりたくない方からの着信だったのだから。

「ちょっと現場を離れるぞ」

 とにかく、人が大勢いるところで電話に出るのはまずいだろう。そう考えた倉科は現場の人間に声をかけて、ぶるぶると震え続けるスマートフォンを片手に土手を駆け上がった。周囲に人がいないことを確認し、深呼吸をして落ち着いてから、すっと指を画面にスライドさせた。思ったよりも、もたつかなかった。

「はい――倉科です」

 なんともタイミングが悪いのであろうか。いや、またしても殺人蜂の仕業と思われる事件が発生してしまったことが、もう捜査本部から上まで伝わったのかもしれない。時として、この人には下の人間から直通ホットラインがあるのではないかと疑ってしまうほど、情報伝達が速いことがある。滅多なことでは本人から直接電話がかかってくることもないため、えらく緊張した。

「やぁ、倉科君。久しぶりだね――」
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