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事例2 美食家の悪食【事件篇】

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 察するに、彼らが安野の呼びつけていた警察関係者なのであろう。明らかにちゃらちゃらとした様子の男性と、やや知的に見えながらも、どうしても派手目の化粧が際立ってしまう女性――。お世辞にも警察関係者には見えない。

「紹介しよう。こいつは麻田。こんな見てくれをしてるが、一応うちの所轄の鑑識官だ。今回の事件の鑑識にもたずさわってる」

 こちらへとやって来た二人のうち、まずは男性のほうの紹介をする安野。鑑識官というと真面目で堅物――こつこつと証拠を積み上げる根気強い印象があるのだが、彼のまとっている空気からは、そのような印象は一切受けない。面倒なことはすぐ投げ出してしまいそうなタイプに見える。

「あんた達が安野さんが泣きついたっていう他の署の人達? 遠路はるばるご苦労さんなわけ――。俺、麻田誠あさだまこと。よろしく」

 麻田はそう言いながら、気だるそうに尾崎と縁の間の席へと座った。やはり、どう見ても彼から鑑識官の空気が感じられない。もっとも、そんなことを口にできるわけもなく、縁は当たり障りのないように「よろしくお願いします」と、頭を下げた。それにしても、安野が泣きついたとは随分な言い草である。

「泣きついたわけじゃない。警察学校の同期の計らいで応援に来て貰っただけだ」

 安野がグラスを片手に答えると「さて、どうだか――」と、麻田は悪戯な笑みを浮かべた。場を取りつくろうかのように安野は咳払いすると、今度は女性のほうへと視線を移した。

「で、こちらは法医学医の中谷先生だ。これから話す事件の司法解剖を担当して貰っている。専門家の意見も必要かと思ってね。今日は無理を言って来て貰ったんだ」

 安野に紹介された先生は、縁と尾崎に向かって軽く頭を下げた。立てば芍薬しゃくやく座れば牡丹ぼたん歩く姿は百合の花――なんてことわざがあるわけだが、正しく彼女のような立ち振る舞いの女性のことを指すのだろう。こちらに歩いてきた時の仕草、頭を下げる動作、どれひとつとっても妙に均整がとれていた。化粧がやや派手目なのが残念なくらいである。

中谷美華なかたにみかよ。どうぞよろしくね」

 縁達に向かって言うと、先生は続けてママのほうに向かって頭を下げた。ママはやや気遅れた様子で会釈を返す。どうやら、ママも彼女とは初対面のようだ。

「ねぇ、麻田君。私、そっちの席がいいんだけど代わって貰えない? 隅っこって、なんだか寂しくて好きになれないの」

 空いてる席は一番端――縁の右隣の席だけだった。そこに座るのかと思ったのだが、どうやら美華は麻田の座っている位置が良いらしい。変なこだわりであるが、端っこは両隣に人がいるわけではないから、やや寂しいような気がするというのは分からなくもない。
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