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事例2 美食家の悪食【事件篇】
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「安野警部。今言った通り、尾崎さんには神座に一度戻って貰います。状況が状況ですし、倉科警部の意見を直接聞いておきたいので」
もう、このままの勢いで押し切ってしまおう。意見を求めるだけならば、別に電話一本でも構わない。ただ、本当に意見を求めるべき相手は、地下深くの牢獄の中にいる。アンダープリズンへの直通電話はあるものの、あの男を――坂田を独房から出すなんて危険な真似はさせられない。資料も持ち帰って貰わねばならないし、不便ではあるものの、なんにせよ尾崎には一度神座に戻って貰わねばならない。
縁の目がよほど真剣に映ったのであろう。安野はやや気圧されたように頷き「そっちにはそっちのやり方があるだろうし、それについて俺は口を出せる立場じゃないからな」と言ってくれた。それに対して尾崎も小さく頷くと、姿勢を正して敬礼をしてみせた。
「それでは安野警部。自分は任を一旦離れるっす! 倉科警部に意見を聞き、方針を打ち出してから戻ってくるっす!」
残っていた酒がすっかり抜けたのか、それとも、尾崎もまた自分のやるべきことをしっかりと見出し、それに向かって走り出そうと決意したのか。尾崎はそう言うと、踵を返して駆け出した。それこそ、脱兎のごとく速さで。
「――彼、この辺りの地理を知ってるのか? ここから駅まで、結構な距離があるぞ」
尾崎の姿が消えてから、安野がぽつりと呟いた。それにはもう、縁も苦笑いを浮かべるしかなかった。
「か、彼も子どもではありませんし、タクシーを拾うなり、なんなりして帰ってくれると思います」
なんだか、尾崎のせいで気の抜けた空気が辺りに漂った。それを払拭するかのように、煙草を取り出すとくわえる安野。
「とにかく、今は麻田から情報が上がってくるのを待つしかないな。あいつは俺と違って、科捜研やら他の管轄の部署にも顔が利く。多少の時間はかかるだろうが、捜査本部に情報が上がるよりも早く、こっちに情報が上がってくるだろう」
現場のほうへと視線を移す安野。つられて、縁も視線を移す。その視線の先の明かりの中では、つい数時間前まで元気だったはずのミサトが横たわっている。それこそ、変わり果てた姿で――。
縁は安野に見えないように拳を強く握り込み、そして唇を噛み締めながらも、この事件に対する考えを改める。自分は部外者ではない。こうして新たな事件に立ち会った時点で当事者なのだ。事件の発生を阻止できなかったのだから、もう部外者面はしていられない――。縁はそう自分に言い聞かせ、無力な自分を奮い立たせたのであった。
もう、このままの勢いで押し切ってしまおう。意見を求めるだけならば、別に電話一本でも構わない。ただ、本当に意見を求めるべき相手は、地下深くの牢獄の中にいる。アンダープリズンへの直通電話はあるものの、あの男を――坂田を独房から出すなんて危険な真似はさせられない。資料も持ち帰って貰わねばならないし、不便ではあるものの、なんにせよ尾崎には一度神座に戻って貰わねばならない。
縁の目がよほど真剣に映ったのであろう。安野はやや気圧されたように頷き「そっちにはそっちのやり方があるだろうし、それについて俺は口を出せる立場じゃないからな」と言ってくれた。それに対して尾崎も小さく頷くと、姿勢を正して敬礼をしてみせた。
「それでは安野警部。自分は任を一旦離れるっす! 倉科警部に意見を聞き、方針を打ち出してから戻ってくるっす!」
残っていた酒がすっかり抜けたのか、それとも、尾崎もまた自分のやるべきことをしっかりと見出し、それに向かって走り出そうと決意したのか。尾崎はそう言うと、踵を返して駆け出した。それこそ、脱兎のごとく速さで。
「――彼、この辺りの地理を知ってるのか? ここから駅まで、結構な距離があるぞ」
尾崎の姿が消えてから、安野がぽつりと呟いた。それにはもう、縁も苦笑いを浮かべるしかなかった。
「か、彼も子どもではありませんし、タクシーを拾うなり、なんなりして帰ってくれると思います」
なんだか、尾崎のせいで気の抜けた空気が辺りに漂った。それを払拭するかのように、煙草を取り出すとくわえる安野。
「とにかく、今は麻田から情報が上がってくるのを待つしかないな。あいつは俺と違って、科捜研やら他の管轄の部署にも顔が利く。多少の時間はかかるだろうが、捜査本部に情報が上がるよりも早く、こっちに情報が上がってくるだろう」
現場のほうへと視線を移す安野。つられて、縁も視線を移す。その視線の先の明かりの中では、つい数時間前まで元気だったはずのミサトが横たわっている。それこそ、変わり果てた姿で――。
縁は安野に見えないように拳を強く握り込み、そして唇を噛み締めながらも、この事件に対する考えを改める。自分は部外者ではない。こうして新たな事件に立ち会った時点で当事者なのだ。事件の発生を阻止できなかったのだから、もう部外者面はしていられない――。縁はそう自分に言い聞かせ、無力な自分を奮い立たせたのであった。
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