THE NEW GATE

風波しのぎ

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9巻

9-2

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 瘴気を使った霊脈への干渉や聖域への侵食は、ゲーム時代もイベントの一種として発生していた。ゲームなら原因となったモンスターなり瘴魔デーモンなりを倒せばよかったが、この世界ではそう単純な話ではないという。
 フジの周りの土地が地殻変動によって浮き沈みを繰り返し、本来そろうことのないはずの天下五剣が一ヶ所に集まった。
 そしてカグツチの力もあり、霊脈を安定させることに成功した矢先に事件は起こった、と宗近は語る。

「静まったはずの霊脈に、突如として濃い瘴気が流れ込んだのだ。それを再び鎮めるためにカグツチは今の状態になり、安綱と国綱は瘴気にみ込まれて行方ゆくえ不明になった」
「マジか……確かに、ユズハも瘴気でやられてたけど」
「くぅ、世界中で、起こってたのかも」

 カグツチと同じく霊脈に干渉して地殻変動を抑えていたユズハは、少し落ち着かない様子でそう言った。


「でも、そうなると安請け合いはできないぞ。ものがものだけに放ってはおけないけどな。何か手掛かりはないのか?」
「我らとて何もしなかったわけではない。天下五剣同士、互いの気配は察知できる。瘴気の影響で時間はかかったが、おおよその方向と距離は掴んでいる」

 シンの疑問に宗近が答える。その情報は、シンが思っていた以上のものだった。

「一応確認なんだが、誰かが迎えに、いや連れ戻しに行くってのはできなかったのか?」
「それができたら頼んでないわよ!」
「これ光世。いちいち噛みつくでない。まあ、坊主の言いたいこともわからんではないがのう。だが、儂らは定められた範囲から動くことができん。坊主なら知っておるだろう?」
「……なるほど、だから揃うはずのない五剣が集まったって話があったわけですか」

 天下五剣は一定範囲から移動できないイベント時のルール。運営の意図が何であれ、それがこの世界でも適応されていると、シンは恒次の話から読み取った。

「フジもゲームとは少し変化しておるのよ。我らは土地に縛られている。そのせいで、安綱や国綱を探しに行けん。だが、土地に縛られていたからこそ、土地の変動によってこの場に集まることができた。唐突に土地の縛りから切り離されていたなら、わざわざ領域を治めるカグツチのところになど来なかったやもしれん。そうなればこの場を守る者もなく、フジは魔物の巣窟そうくつになっておった可能性が高い。はてさて、幸運と言うべきか不幸と言うべきか」

 無精ひげをいじりながら、恒次は言う。

「そういうのはなんとも言えませんね」
「まあどの道、今はやれることをやるしかないのだ。話を切ってすまんな。宗近、続きを頼む」
「そうだな。我々は安綱と国綱の居場所を、おおよそだが感知できる。それをシンに回収してきてもらいたいのだ」
「なるほどな。確かにそこらのやつには頼めない依頼だ」

 天下五剣となれば、1対1ではシュニーたちでも分が悪いかもしれない。
 シンによって武装を一新し、パワーアップもした今ならおくれはとらないだろうが、少なくともかつてのシュニーたちならかなり危険だったのは間違いない。
 それは同時に、この世界の存在にとってほぼ不可能な依頼だということでもある。
 元プレイヤーでさえ、可能な者は限られてくるだろう。

「俺は場所がわかるなら協力したいと思う。皆はどうだ?」
「私はシンについて行きます」
「シュニーに同じ」
「うむ、瘴気と聞いては放っておけんな」
「私も、受けたほうがいいと思う」
「やる! くぅ!」

 シンの問いに、シュニーたちは理由は違えども全員賛成と答えた。カゲロウはティエラについていくということだったので、自然と賛成だ。

「じゃあ決まりだ。まずは近いほうから……いや、早く行ったほうがいいのはどっちかわかるか?」

 シンが途中で言い直す。
 瘴気に侵されていた場合、侵食度合いが高いほうを優先すべきだからだ。

「そこまではわからん。近いほうから行ってもらおうと思っていた」

 あくまで大まかな距離と方向しかわからない、と宗近は言う。

「しかたないか。で、その近いほうってのはどのあたりなんだ?」
「近いというか、このフジの地下ダンジョンの奥なのだ。シンならば、隠しダンジョンと言えばわかるか?」
「フジの、隠しダンジョン?」

 宗近の言葉にシンは驚いた。フジに隠しダンジョンがあるというのはうわさで聞いたことがあったが、実際に行った、見たという者はいなかったのだ。
 見つけた者たちが隠していた可能性は十分あるが。

「あんたもプレイヤーだったなら知ってるでしょ」
「あの噂は本当だったのか。でも、それなら助けに行ける――ってそうか。ダンジョンは別エリア扱い」
「そういうことだ。自分たちの足元にいるというのに、何もできんのは歯がゆかった」

 そう言った宗近と同じく、恒次や光世の表情にも影が差す。仲間を助けに行けないつらさが、言葉にせずとも伝わってきた。

「わかった。ダンジョンの深部だな?」
「そうだ。カグツチと私たちの感覚が間違っていなければ、ダンジョンの下層のどこかに安綱がいるはずだ。ただ、隠しダンジョンも瘴気の影響を受けている。どこかに隠されている可能性もあるから、もし最奥さいおうまで行って何もなければ対応を考える必要がある」

 フジのダンジョンは元々カグツチの管理下にあったので、完全ではないが内部構造はわかるという。
 ただし瘴気によって感覚を惑わされる可能性は否めず、いつも「ぴぃ!」と大きく鳴いていたカグツチも今回ばかりは「ぴぃ……」と少し元気がなかった。

「そうだな。この際、マップを全部埋めるつもりで行くか。探知系の魔術を使えば、多少時間はかかるけど可能だしな」
「負担をいてすまないな。私が直接向かえれば、より正確な位置がわかるのだが」

 相手に近づけば、その分感知の精度は増すと宗近は言う。ここから移動できない宗近を連れていくことができればと考えたシンに、ふとある疑問が思い浮かんだ。

「なあ宗近。お前の本体って、太刀の『三日月宗近』でいいんだよな?」
「ああそうだ。私たちが腰にげているのは、限りなく本物に近い偽物でな。といっても、性能は本体と同じだ。私たちが人化をやめると、本物の武器が出現する。それが本来の私だ」
「ほぼ予想通りだな。それで疑問なんだが、俺が持ってるは人の形態をとれないのか?」
「それは……」

 シンがアイテムボックスから取り出したもの。それは天下五剣の1本、『三日月宗近』だった。

「なんであんたがそれを持ってるのよ?」
「いやそうか、シンは500年前に私に勝ったのだから、持っていてもおかしくはない」
「ああ、少し変な話になって悪いんだが、こいつを代わりにできないかと思ったんだ」

 もし宗近とシンの持つ『三日月宗近』が同一の存在なら、動けない宗近に代わってダンジョンにもぐれるのではないか、とシンは考えた。
 この『三日月宗近』に宿った意思が、仲間の救出を望んでいればだが。

「なるほどな。確かに持ち主を定めてしまえば、主の行く先に私たちも移動できる。しかし、今の私たちの主はカグツチだから、シンに同行はできない。そして、シンの持つ『三日月宗近』からは何も気配を感じない。おそらくだが、同じ武器であってもシンというプレイヤーの所有物となった時点で、完全にただの武器になってしまったのだろう」
「そうか、もし同行してもらえるなら、確実性が増すと思ったんだけどな」
「まあ待て。シンの考えは、あながち間違いでもない」
「ん? どういうことだ?」

 しかたないと『三日月宗近』をアイテムボックスに戻そうとしたシンに、宗近が待ったをかける。その視線はシンの持つカード化された『三日月宗近』に向けられていた。

「それを少し貸してくれないか? 試したいことがある」
「ああ、わかった」

 シンからカードを受け取った宗近は、手の上で太刀を実体化させる。そして、精神を集中するように目を閉じた。

「……ふむ、やはりな。喜べシン。どうやら、同行することは可能のようだぞ」

 時間にして3分ほど。
 目を開けた宗近は、開口一番にそう言った。

「ええと、どういうことだ?」
「これに意思はない。だが私の意識を移すことはできる。本体はここに残したままでな」
「大丈夫なのか? それ」

 宗近の説明を聞いて、シンはゲームのVR技術を連想した。
 リアルの体はそのままに意識のみでアバターを動かすVR技術は、宗近の言った本体をそのままに自身の意思を別の武器に宿らせる手段に似ていると思ったのだ。

「そ、そうよ。意思を移すなんて、危険じゃないの?」
「いや、問題なさそうだ。これも『三日月宗近』だからな。試さずともわかる」

 宗近はシンと光世にしっかりとうなずいてみせる。

「一応確認しておきたい。意思が宿った状態で倒されるとどうなる?」
依代よりしろがなくなれば、本体が目覚めるだけだ。無論、意識を移している間は本体は無防備になるがな」
「依代が瘴気に侵されたら?」
「意識を移しておけなくなるか、捕らわれるか。それは実際になってみないことには何とも言えんな」

 あくまでわかるのは、シンの持つ『三日月宗近』に、宗近の意識を移せるということ。意識を移した状態でも、安綱や国綱の気配が知れるということ。そして、依代が壊れると、意識が本体に戻るということだ。
 なぜわかるのかとシンが少々意地悪いじわるな問いをすると、なんとなく、という答えが返ってきた。

「これは推測だが、シンの持つ太刀も、私であることには変わりないのだろう。同一存在、とまで言っていいかはわからんが、私から派生したものだというのは間違っていないはずだ」
「つまり、自分のうつわが複数あるみたいな感じか?」
「そう言ってもいいかもしれんな。まあ、宿るためには所有者の許可を得るなどの手順を踏まねばならん。知りもしない誰かの持つ『三日月宗近』には、宿れそうにないな」

 意識を宿らせるためには武器の波長のようなものを同調させる必要がある、と宗近は言う。誰のものにでも好きに、とはいかないのだ。

「なんだかすごい話になってきてる」

 黙って話を聞いていたティエラがポロリと本音を漏らす。それを聞いたフィルマも、感心したようにうなずいた。

「意識を宿らせるとか、擬人化した武器ってすごいことができるのね」
「自分たちが特殊な存在だということは自覚している。この姿とて、多少は変えられるからな」
「左様、儂らは武器でありながら人の意思を宿す。これほど奇天烈きてれつな存在はいまいて」

 真面目に言う宗近と、笑いながらの恒次。互いに温度差はあれど、自分がどういう存在なのか理解しているからこそのセリフだ。

「…………」
「ん? 急に黙り込んでどうしたのだ、シン」
「いや、ちょっとした質問なんだけどな。この太刀を強化した場合でも、意思を宿すことってできるのか?」
「強化?」
「ああ、イベントアイテムだからあまりキャパシティのきがないけど、『三日月宗近』はまだ強化の余地がある。どうせなら、性能アップした状態のほうがいいんじゃないかと思ったんだ」

 人型時に持つ武器と本体の性能が同じだというなら、本体の性能を上げれば人型時の武器の性能も上がるのでは? とシンは考えた。

「ちょっと待ちなさいよ。『三日月宗近』っていったら天下五剣の一振りなのよ? いくらあんたが宗近に認められるほど優秀だとしても、簡単に強化するとか言わないほうがいいわ」
「いや、そこは問題な――そうにらまないでくれ。本当だ」

 疑わしげに睨んでくる光世に、シンは困って苦笑するしかない。

「落ち着け光世。そうだな。不測の事態もあるかもしれんし、性能を上げるというのに否はない。私の本体をいじられるとどうなるかわからんが、こっちなら大丈夫だ。『三日月宗近』という武器の体裁ていさいを保っているなら、強化しても問題ない」
「そうか、もうすぐ日が暮れるから探索は明日からにするとして、今日のうちに強化してしまおう。ちなみにどういう方向で強化したいとか、要望はあるか?」

 一口に武器強化といっても、武器の強度増強、攻撃力増加、射程伸長、属性付与など、選択肢は多い。強化度も強弱の付け方次第で、低いながらも複数の効果を持たせたり、一点集中で高い効果をつけたりとやり方は何通りもある。
 同じ武器でも、強化の仕方によっては、まるで別の武器のようになることもあった。

「ふむ。私としては、やはり切れ味と強度だ。折れず、曲がらず、よく切れる、が刀剣の理想だからな。それに、下手に特殊な効果をつけられると、元の体に戻った時に違和感を覚えそうだ」
「なるほど、了解だ。じゃあちょっと祠の前の広場を借りるぞ」

 一言断ってから、シンはつきほこらを実体化させる。真っ直ぐに鍛冶場かじばへ向かうシンの後ろには、なぜかシュニーたち以外に天下五剣の3人とヒヨコカグツチがついてきた。

「何で全員来てるんだよ」
「なによ、なにか文句あるっていうの!」
「いやなに、自らの分身と言ってもいい武器が鍛えられる場面なぞ、そう拝めるものではないからな。興味を引かれても仕方あるまい。それとも、鍛冶場は女人にょにん禁止か?」

 時代によっては特定の場所に女性が入ることを禁じているなんてことはよくある。それを知っているのか、宗近がシンにそう聞いてきた。

「いや、俺はそういうの、とくに気にしてない。ただ宗近はともかく、光世や恒次、おまけにカグツチまで来るとは思わなくってな」
「自慢ではないが、儂らはそこいらの鍛冶師にどうこうできる武器ではないからのう。興味をそそられるというものよ」

 無邪気に笑いながら恒次も言う。
 ゲーム時代、シンは鍛冶場での作業を誰かに見せることなどほとんどなかった。
 月の祠の居住区や鍛冶場に六天以外のプレイヤーはまず入れなかったし、アイデアや工夫を秘匿ひとくするのもよくあることだった。
 さらに加えるなら、人の目があるとなんだかやりづらい、という気分的な問題もある。

(面子のせいかな。ファルニッドのときと、雰囲気が違う)

 意思を持つ武器である宗近たちがいるせいか、ジラートの側近やティエラが見ていたときとは違う、言葉にできない緊張感のようなものを感じていた。
 とくに宗近は真剣そのものだ。頭上に居座っている、和む外見であるはずのヒヨコカグツチまで、表情がキリッとしているように見えてしまう。

「じゃあ始めるぞ」

 そう言って、シンは炉に火を入れる。
 現実ではありえない、魔力を帯びた炎が生じたのを確認して、アイテムボックスからオリハルコンとヒヒイロカネのインゴットを取り出した。
 それを炉に放り込み、待つこと数分。銀と赤の混ざった輝く金属が生成される。

「これって……」

 光世が感心した声を上げた。

「俺たちの間ではキメラダイトって呼ばれてるものだ」
「うーむ、まだ武器になったわけでもないというのに、奇妙な威圧感を覚えるのう」
「使用しても大丈夫なのか?」

 キメラダイトの持つ魔力を感じたようで、恒次と宗近は真剣な目でインゴットを見つめていた。

「問題ない。すでにこれと同じものを使用して、武器を強化したことがある」

 現実となった今なら、シンもその気持ちがわかる。普通の金属は魔力など帯びていないし、鍛冶用の特殊な金属類も、キメラダイトほど異様な魔力を発することはないからだ。

「ここからは集中して作業に当たる。話しかけられてもこたえられないと思うから、そのつもりでいてくれ」

 真剣な顔で言うシンに、鍛冶場にいた誰もが空気が変わるのを感じた。

「――始めるぞ」

 シンはまず『三日月宗近』をアイテムボックスから取り出し、つかを外して刀身のみの状態にする。はさみで持ち炉で熱すると、段々と刀身が白熱してきた。
 炉の炎が帯びている魔力は、火を入れた鍛冶師の魔力を基にしている。そのため、鍛冶師の意思で様々な効果を発揮させることができる。
 今回は武器を最も強化しやすい温度に、刀身を熱していく。

「…………」

 時間にして20秒ほど。シンは無言で炉から刀身を出し、金床かなとこの上に置いたキメラダイトのインゴットの上に置いた。
 刃を下にして白熱する刀身は、まるで豆腐でも切るようにキメラダイトにめり込んでいく。刀身がインゴットの中心まで来たところで、シンはつちを振り上げた。

「……ふんっ!!」

 振り下ろされた鎚が、インゴットを叩く。
 一打ごとに響くのは、キーンという長くんだ金属音。同時に、波紋が広がるように鎚に込められた魔力がインゴットと刀身に広がっていく。

「うわ、何この魔力……」
「ううむ、これはすごいのう」
「…………」

 鎚を振るうシンの姿を見て、響く音と魔力の波動を感じて、光世と恒次が驚きと感心の声を漏らした。
 宗近は、声も出さずにシンを見つめている。

「やっぱり、鍛冶をしてる時のシンって、すごい」
「そりゃそうよ、二つ名に鍛冶師ってつくくらいだもの」
「そうですね。どうしても強さに目がいってしまいがちですが、本来シンはこっちのほうが得意ですから」

 魔力の波動を感じて身震いするティエラに、フィルマはおかしげに、シュニーは自慢げに答えた。

「もうすぐ完成のようだぞ」

 何も言わずにうなずいていたシュバイドが声をかける。
 シュニーたちが視線を戻すと、シンの振り下ろす鎚の先で、刀身に吸収されるように小さくなっていたキメラダイトは、すでにほとんど残っていなかった。

「しっ!!」

 一際強く、金属音が響く。最後の一打で、キメラダイトは完全に刀身に吸収された。
 鋏で支えられていた刀身は金床には接しておらず、空中で保持されている。刀身を覆っている銀色のオーラは、強化前よりも明らかに濃い。

「ふぅ、完成だ」

 一息ついて、シンは外していた柄をつけ直す。
 見た目こそほとんど変わっていないが、攻撃力と強度が20パーセントほど増しているのがわかった。名前のほうも『三日月宗近・真打しんうち』と変化している。

「こんな感じだ。一応、大丈夫か確かめてくれ」
「ああ、わかった……大丈夫だ」

 鞘に収められた『三日月宗近・真打』を持って目を閉じていた宗近が、しっかりとうなずく。口角がわずかにつり上がり、少し興奮しているようにも見える。

「さっそく意識を移してみよう。光世、私の本体を頼む」
「わかったわ」
「では、いくぞ」

 宗近の体が銀色に発光し、数秒で光そのものとなって宙に溶ける。光の中からは、強化前の『三日月宗近』と寸分違わぬ太刀が現れた。
 宙に浮かんでいたそれを光世が掴むと、支えを失ったようにその手の中に収まる。
 一方『三日月宗近・真打』は、宗近が持っていた状態で宙に浮いていた。光世が宙に浮かんでいた『三日月宗近』を掴むのと同時に、『三日月宗近・真打』が光り始める。
 太刀の周囲に銀色の光が集まり、人の形を形成していく。
 しばらくすると完全に人へと変化した。

「……ふぅ、どうやら、問題なさそうだな」
「え、あれ?」
「ふむ」
「光世に恒次も、何を驚いている。ん? シンたちもか」

 人化した宗近を見て驚きを示していたのは、光世たちだけではなかった。
 しかしその反応は困惑を顔に出す者と、視線をシンに向ける者に分かれている。

「何か言ってくれないことには、どう反応すればいいのかわからないのだが」
「あーっと……そうだな。実際に見たほうが早いか」

 シンはアイテムボックスから手鏡を実体化させ、宗近に差し出す。
 首をかしげながらも、宗近は手鏡を受け取った。

「む? なるほど、そういうことか」

 手鏡に映る自身の姿を見て、宗近は納得した様子でうなずいた。

「はっ!? ちょっとこれどういうことよ! なんで宗近が前より綺麗きれいなってるの!?」

 宗近以外の全員が思っていたことを、光世が大声で代弁した。
 もともと美人であった宗近の美貌びぼうがさらに一段階上昇していたのだ。
 背中にかかる黒髪はつやを増して淡く輝き、肌の白さをより一層際立たせていた。きりっとした目元は、美しさの中に凛々しさを演出している。
 心なしか、具足を押し上げるふくらみも大きさを増しているようだ。

「どうやら、強化されたことで容姿にも影響が出たようだな」
「ちょっと宗近! 何あっさり流してるのよ! おかしいでしょ! なんで美人になってるうえに、スタイルまでよくなってるのよ!」

 武器といえども今は女性。綺麗になりたいという欲求はあるようで、光世が宗近に迫る。

「待て光世、それを私に言われても困る。シンは何かわからないのか?」

 強化した本人であるシンにも、こればかりは心当たりがなかった。

「わかるわけないだろ。そもそも強化した武器に意識を移したら美しくなるなんて、俺にだって予想できないっての」
「宗近さんが美人だから張り切ってたんじゃないの?」
「お、おいティエラ。そういう誤解を招きかねない発言は勘弁してくれ。ホントに! ホントに何も知らないんだって!」
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