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第2章

絡む視線と繋いだ手

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 オズワルド皇子の気迫(覇気?)に充てられ、怯え腰を抜かしていたゲス夫AとBを憲兵に引渡し、私達は黙々と街中を歩いていますわ。無言。オズワルド皇子と二人きり。二人っきりって・・・・いつ以来かしら。顔を合わせれば口喧嘩ばかりで、天敵な山猿。傲慢で幼くて、いつも不機嫌そうな顔ばかりしているオズワルド皇子。見えないけど、きっと今も不機嫌な顔をしているに違いありませんわ。それに・・・・無理矢理繋がれた手。それが先程から熱い。

「お前は、ふらふらしてて危なっかしいからな。俺・・・・俺様が掴んでおいてやる。有難く思え!」

っとそれはもう、盛大にふんぞり返りながら握られたのです。何度振りほどこうとしても、外れない。何かしら。コレ、新手の嫌がらせ?繋がれた手から、熱が伝わるのか・・・・何故か頬が熱いのですわ。私の精神をガリガリと確実に削っていきますわ。ドキドキと鼓動が速まるのは、さっき襲われた所為よね?それ以外考えられない。

いつもなら、「私に触れないで下さる?」とかなんとか言って無理矢理にでも離れれるのに・・オズワルド皇子のしっかり掴んだ手が、あったかくて怖かった気持ちを包んでくれているようで。ホッとしてしまう。・・・・オズワルド皇子、あの頃より手も大きくなったのですわね。仲直りの時に握った掌。あの時は、私の方が大きかったのに。




「お前は・・・・馬鹿か。」

 沈黙を破ったのは、オズワルド皇子の低い声。怒りを孕んだ声色。馬鹿?それは私に言っていますの?

「馬鹿って!いきなりなんですの!」

思わず繋いでいた手を振りほどき、オズワルド皇子に言い返しますわ。

「馬鹿に決まっているだろう!護衛も付けずに街にでて・・・・あまつさえレオニダスとはぐれ路地裏で暴漢に襲われるなど・・・・」

 振り返ったオズワルド皇子は、私を睨み付けながら苦々しく吐きますわ。

「俺が間に合わなかったらどうなっていた!?何故ハンスがいない!彼奴は、お前の御守だろが!!」

矢次早にまくしたてられ、言葉を飲みますわ。ハンスが居ないのは・・・・それは・・・・。

顔色を変える私に、オズワルド皇子が深く溜息を付きますわ。

やだ。泣きそう。今日は何度目?泣きたくなんてありませんわ。私、弱くありませんもの。ヴィクトリア・アクヤックですもの。涙なんてやすやすと流したりなんてしませんのよ。

ーきっ!とオズワルド皇子を見返しますわ。泣かない。貴方の前でなんか絶対泣かない。私を死に追いやる貴方の前では、絶対に絶対に涙なんて流してやらないんですから!

乙女ゲームの悪役は、天敵に弱味なんて見せませんのよ!




 拳を握り、口元を結んだ私の顔を見つめるオズワルド皇子。また沈黙が流れますわ。・・・・何をしているの・・・・私・・・・。オズワルド皇子を睨み付けて・・・・助けてくれたのは、彼なのに。お礼をちゃんと言うべきなのに。オズワルド皇子が相手だと、素直になれない。

「悪かった。」

 ブスっとした顔で、オズワルド皇子が私に謝りましたわ。

「え?」

何故貴方が謝るの?
謝るべきなのは、お礼も言えない私の方なのに・・・・。

 目を丸くし見上げる私を、オズワルド皇子はその紅い瞳で見つめ返してきますわ。私を殺さんばかりの熱の篭った紅い瞳。

「もっと早く駆けつけてやれば、お前が怖い目に遭わずにすんだ。途中見失うし・・・・。こんな事になるなら、カフェで一人になった時点で、声をかければよかったんだ。俺様・・・・いや、俺が臆病なばっかりにお前を危険な目に遭わせた。」

ーカフェ?
ー臆病?

なんの事?

「オズワルド皇子・・・・カフェって?それに、そういえばレオニダスの事も言っていましたわよね?何故私が、レオニダスと一緒に居たのを知っていらっしゃるの?」

何気なく聞き返した私の言葉に、オズワルド皇子はあたふたと慌てますわ。

「あっ!?いや、別に俺はお前の付き纏いをしてるわけじゃなくてだな・・」
「付き纏い?」
「違っ!!単純にお前の事が気になって気になって仕方ないから、見てるだけで・・・・って違う!婚約者(候補)としてお前の行動を知っておく必要が俺にはあってだな・・やましい気持ちは少しもなく正当な権利でありそれは・・・・」

顔を真っ赤にさせながら、必死に何かを仰ってますわ。


・・・・なんて事・・・・度重なるオズワルド皇子からの視線は、やはり気の所為ではなかったのですわね。

「・・・・オズワルド皇子」
「なっ・・・・なんだ!」

私の声に、ビクッと身を逸らすオズワルド皇子。
・・・・貴方・・・・やましい事があるのね。
私の目は誤魔化せませんわよ。


「・・・・いつも貴方の視線を感じていましたけど・・・・その理由が今わかりましたわ。」
「なっ何!?いや、気付いたのか!?気付いていたのか!?」

複雑そうな顔をしてらっしゃいますわね。

「ええ。貴方・・・・私の事を監視していらっしゃったのね?」
「あぁ。そうだ。・・・・って、はぁ!?」

やっぱり。
私は、余程オズワルド皇子に恨まれているのね。婚約者候補としていつでも監視できる立場に置いて、私の弱味を握ろうと目を光らせていらっしゃるのね。

今回助けてくれたのも、あれね。私を殺すのは俺様だ!ッ的な思いからですのね。だって、何度も私を殺したそうに紅い瞳に熱を込めて睨んできますもの。

「私・・・・貴方に弱味は絶対に見せませんわ。」
「あ?」

「貴方は、私を殺そうとする人ですもの!絶対に絶対に弱味なんて見せたりしませんわよ!いくら監視したって無駄無駄無駄無駄ァ!!ですわよー!!」

思いっきり叫び睨み付けると、ハトが豆鉄砲を喰らったような顔のオズワルド皇子が。


「いや、殺すって・・俺がお前をか?・・・・むしろ殺されてるのは俺のほうだ・・・・お前に何度心臓を撃ち抜かれ殺されかけたか・・・・  」

忌々しげに呟きますわ。


「ほらやっぱり!貴方、私の事殺したくて仕方ないのね!でも御生憎様ですわ!私、図太くしぶとい悪役ですの!貴方や運営の思い通りになんて、なってやらないんですわ!」


ビシッと決め顔で言い放つ私に、オズワルド皇子は遠い目をして何かを呟きましたわ。ホホホ。負けを認めたのかしら?私、一筋縄ではいかなくってよ!







「・・・・思い通りになるわけがないだろ・・・・こんなの。」

哀愁漂いながら吐き出されたオズワルドの心情は、虚空に向かい消えるのであった。





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えっと。
頑張れ!不憫皇子!
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