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1巻

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 広大な世界ラ・エミエール。今、俺達がいる街アースは通称「始まりの街」と呼ばれ、冒険者となったプレイヤーは例外なく、この地点からのスタートになるらしい。
 何故かと言われても、それは運営と大人の事情……とのこと。
 冒険者として魔物を倒し名声を得るもよし、商売を始めて富を築くもよし、鍛冶屋かじやになろうが農業をしようが構わない。極端な話、王様にも魔王にもなれる。
 自由度が高過ぎて、何かしら目的がないと駄目な人にはオススメできないゲームらしい。
 システム面では未成年への配慮はいりょが施され、ゲーム内での飲酒は20歳以上、そして全面禁煙。
 どうやって年齢を見分けるのかと言えば、高速演算と脳波測定を用いて、最後のとりでであるAIが頑張るとのこと。……AI頑張れ。
 18歳以下へのハラスメント行為は1発退場、つまりアカウント削除になる。1人1アカウントしか取得できないらしいので、2度とプレイ不可能みたいだ。
 18歳以下にビクビクしなきゃいけないのか、という論争もあったらしいが、プレイを監視するAIがいるらしく、公平な判断を下してくれるとか。
 こっちもAI頑張れ。超頑張れ。でも結局、最終決断を下すのは運営だからな、運営も頑張れ。
 ゲーム世界での1日は現実世界の30分で、連続ログイン可能時間は7時間。
 健康への考慮から、直前にログインしていた時間と同じだけ間を置かないと、再ログインできない仕組みになっている。ゲーム内では元気でも、現実で病気になったら世話がない。
 そのためか知らないけど、R&Mの料理全般はあまりおいしくないらしい。
 ゲームの食事で満足して、現実をおろそかにするな、っていう警告かな?
 話はれるが、病気などで身体が不自由な人向けに、病院がこのゲームを導入してたりもするらしい。実際には足が動かなくても、脳の電気信号を読み取ればゲーム内では歩ける。技術の発達はすごいな。
 PvPは、最初の設定で不可にチェックを入れた俺達は申し込まれない。
 またPK不可なので、攻撃を受けても、1ダメージも入らないんだと。子供プレイヤーは狙われやすいらしいし、そうしておいてよかった。
 残酷な描写も抑え目の設定。魔物を攻撃しても血は出ず、倒した際は光の粒となって消える。
 あと、魔物の姿かたちがちょっと可愛らしくなるとか……これはプレイヤーも同様だ。
 最後にステータス画面を開くと、右下に【R&M攻略掲示板】【運営へのお問い合わせ】【ログアウト】というボタンが並んでいた。
 攻略掲示板は、ゲーム内で閲覧したり書き込んだりできるらしい。
 めちゃくちゃお世話になると2人が言っていたので、暇な時にでも目を通しておこう。


「……ふぅ。今私が言えるのはこれくらい」
「ありがとう、ヒタキ。あとは疑問が出た時に、質問させてもらうよ」
「じゃあ話は終わりだね! 道具屋に行ってアイテムを揃えて、早速街の外に行こう!」

 長い説明を終え、ヒタキは少々疲れた様子で息をついた。
 俺がいたわるように頭を撫でるのと同時に、ヒバリがぴょんっと立ち上がる。どうやら長い話に退屈していたようだ。
 俺とヒタキも、ヒバリに急かされるように腰を上げ、歩きながら話す。


「フレンド登録完了。PT固定化済み。所持金は私達が1500ミュずつ。ツグ兄が6000M」
「ん? 俺の方が断然多いな? 成人済みの人間が財布のひもを握れ、ってことか?」
「そうかもねー。私は無駄遣いしちゃうと思うし、ツグ兄ぃに任せとこー」

 ゲーム内通貨は何とも可愛らしい呼び名のM(ミュ)だ、覚えないと。
 ステータス画面を開きながら色々と確認しているヒタキを横目に、あたりを見渡す。
 噴水広場から続く大通りには大勢の人が繰り出し、露店の数もすさまじい。活気溢れる場所なんだろうけど、初心者の俺は圧倒されてしまう。
 ……何だか周りの冒険者にジロジロ見られている気がするんだが、妹達はお構いなし。
 5分ほど歩いているとヒバリが道具屋を見つけ、中に入って行く。
 ドアには小さなウェルカムベルが付けられており、可愛らしい音を鳴り響かせた。


「わぁぁぁー、ファンタジーのお店だねぇ!」
「満腹度と給水度の回復用に携帯食料、水筒すいとうは必須。ポーション、状態異常回復薬、ツグ兄のスキル上げ用に錬金れんきん、調合、料理セットが欲しい」
「薬草、毒消し草ねぇ……。意外にいい値段するし、何を買うかちゃんと吟味ぎんみしないとな」
「あ、私は光魔法メディ(小回復)があるから、あまりポーション要らないかも?」

 木造の道具屋は都会のコンビニ程度の広さ。壁の棚には雑多ざったに物が並んでおり、ヒバリは目を輝かせた。
 もちろん道具にお金を掛けるのはいいが、破産はさんしては元も子もない。それくらいは俺でも分かる。


【下級ポーション】×3
 薬草をせんじた汁を硝子瓶がらすびんに入れた物。HP30%回復。売値250M。

【毒消し草】×3
 魔物の毒を治す草。苦い。売値80M。

【携帯食料】×6
 栄養満点。満腹度回復。味はない。売値50M。

【水筒(小)】×3
 300ミリリットルの容量。給水度回復。売値300M。

【初級錬金セット】×1
 釜、台、かき混ぜ棒が付いたお得な初級錬金セット。売値500M。

【初級調合セット】×1
 乳鉢、薬研やげん、薬包紙、秤が付いたお得な初級調合セット。売値500M。

【初級料理セット】×1
 包丁、まな板、フライパンが付いたお得な初級料理セット。売値500M。


 これら全部で3690Mなり。初期投資にはお金が掛かるので、これくらいは仕方ないだろう。
 日向ぼっこしながら店番をしていた優しげなおばあさんに、水筒に水を入れてもらった。
 道具屋を出て、3人で均等にポーション類を分けた俺達は、街の門へ向かう。その際、俺はアイテム欄の見方を教わった。何とかなりそうだ。
 重機などがないこの世界では、長い年月をかけて石を積み上げるしかないであろう立派な街壁に近付くと、ますます喧噪けんそうが増していく。


火魔職ひましょくです! PT拾ってくだしあ~」
「鉄装備売ります! 値段は交渉で」
「ギルド【南瓜かぼちゃの煮っ転がし】に入りませんか? 初心者歓迎です!」

 様々な冒険者プレイヤーが、街の外に向かう同じ冒険者へ叫んでいる。よく分からない俺は、妹達の後ろに付いて行くしかない。


「まずは3人でレベル上げしたいよねぇー。無理にPT人数増やして、嫌な思いしたくないしさっ」
「近寄って来る人はきっと15歳以下目当て。ロリコン、駄目、絶対」
「俺は何したらいいか分からないし、ヒバリとヒタキが楽しければそれでいいぞ」
「えへへ。のんびりまったりやろうね! 弱い敵探して、素材採取もしよう~」
「最強とかお金じゃない、楽しければOK。のんびりやる」

 街の外には広大な草原があり、その向こうには木々のしげる森が見えた。
 巨大な鉄製の扉をくぐり、俺達は歩を進める。
 鉄製の扉は完全に上がりきっており、夜になっても閉まらないらしい。この付近には弱い魔物しか出ないからだとか。
 直近の狩場は他の冒険者で埋まっているようで、それを避けるため、森の近くまで足を延ばす。
 先ほど買ったポーションの素材などが採れるので、一石二鳥だと2人は言う。へぇ、なるほど。


「お、ウサギがねてる。ちょっと可愛いな」
「あれはホップラビだね。草食系の魔物だから、こっちから攻撃しなきゃ敵対はしないね。倒すと兎肉うさぎにく、兎の毛皮をドロップするよ!」

 視界の端で白い物体が飛び跳ねるのが見えたので、そちらに顔を向けると、体長20センチくらいの兎が多数、草を食べていたり休んでいたり。
 リアルの兎より足が発達しているかな? それ以外は、特に違いは見られないと思う。


「初戦闘……? スキル【忍び歩き】。行って来ます」
「……俺はここで見とくわ。鞭なんて使ったことないし」
「ははっ、そうだね。使ったことがあったらびっくりだよ。私達の勇姿を見てて、ツグ兄ぃ!」

 ヒバリが腰に提げた石の剣を抜くと同時に、ヒタキはスキルを発動させて、ホップラビの死角から忍び寄って行く。
 邪魔しても悪いので、俺は少し離れた場所で待機することにした。そのついでに、何か収穫しゅうかくできるものがないか茂みを探ってみようか……。



 ★ヒバリ視点★


 目の前には草をんでいるホップラビ達。私は近付いても逃げないギリギリの距離に立ち、スキル【忍び歩き】で回り込んでいるひぃちゃんを待つ。
 草食系の魔物も1回攻撃を当てれば、逃げずに戦うようになるから、上手くやらないと……。
 挟み込むように2人で立ち、私はひぃちゃんと目を合わせる。準備ができたようなので、ゆっくりと頷く。
 ふわふわした毛並みと可愛らしい外見をしたホップラビに罪はないけど、私だって強くなりたいもん。右手に持った剣をギュッと強く握る。
 私が頷いたのを見たひぃちゃんは、ホップラビに石の短剣を叩き付ける。弱い武器だけど、不意打ちだから多めにHPが削れた。
 ひぃちゃんのスキル【不意打ち】は、敵の死角から攻撃を当てた場合、ボーナスとしてその一撃の攻撃力が1・5倍になる。


「っ、【不意打ち】成功」
「追撃するよっ!」

 短剣を叩き付けられたホップラビ以外の仲間が、我先に逃げて行く。
 それに気を取られないように注意しつつ、短い悲鳴を上げてひぃちゃんの方へ身体を向けたホップラビの背中に、私は全力で石の剣を叩き付けた。
 ドカッという鈍器どんきなぐったような音が響き、ホップラビは私への敵愾心ヘイトを剥き出しにする。
 まだ装備が弱いから、何回か叩かないと倒せないみたい。鉄の武器が欲しいけど、今の私達には手が届かない高嶺たかねの花だ。
 与えたダメージはひぃちゃんより私の方が上だったので、確かにヘイトは私に移った。木の盾でホップラビの突進を受け止めながら、ひぃちゃんに叫ぶ。


「盾になるから、ひぃちゃん、こっち来て!」
「ん」

 ひぃちゃんが私の斜め後ろに来るのを横目で見ながら、自分のHPを確認。
 あ、防御したのに6も減ってる! 確かに初めてで押され気味だけど、ちょっと不本意な気がしてならない。


「むー……ツグ兄ぃよりHP高いから気にしない。気にしないもん……」
余所見よそみしない。ホップラビのHPは残り3分の1。コンボで終わり」
「うん……はぁっ!」

 ちょっとねたら、ひぃちゃんに怒られちゃった。でも、まだまだツグ兄ぃよりHPが高いのは確か。あ、そう考えたら気分浮上した。
 気合いを入れ直し、ホップラビ渾身こんしんの突進を受け止めて、剣で叩く。そして私の攻撃に続き、ひぃちゃんも短剣を叩き付けた。
 するとホップラビの動きが止まり、キラキラした光の粒となって消えていく。
 その間、わずか数秒。どうやら今の攻撃で、ホップラビのHPを削り切ったみたい。


「はっ、初勝利!?」
「やった。おめでとうヒバリちゃん」
「ひぃちゃんの不意打ちがあったからだよぉー」
「ん、2人の勝利」

 ステータスやアイテム確認を後回しにして、私達は初勝利を喜んだ。
 嬉しくてひぃちゃんの手を握り、ぴょんぴょんと飛び跳ねてしまう。少し子供っぽいけど、表現としてはこれが一番。ひぃちゃんも嬉しいのか、微笑んでいる。
 一頻ひとしきり喜んでから、ふと気付く。ツグ兄ぃは? 勝ったら声を掛けてくれそうなのに。
 私はあたりをキョロキョロと見渡しながら思う。って言うか、いなくない?


「ひぃちゃん、ツグ兄ぃがいなくなっちゃった!」
「……ツグ兄、迷子?」
「ふはっ、私じゃないのに珍しいねー……って違う!」
「ヒバリちゃん自虐じぎゃく

 ど、ど、どうしよう、どうしようっ! こんなネタ披露ひろうしても、笑い取れないよ!
 ツグ兄ぃまだ魔物をテイムしてないから攻撃手段ないし、死に戻りしてたらどうしよう! 
 しょぱなから嫌な思いしてR&Mに来たくなくなったら困るし、せっかく久し振りに兄妹で遊んでるのに、離れ離れになるのも……。


「大丈夫。ステータスでPT位置情報見れるから」
「あ、そ、そうか。それならツグ兄ぃ探せるね!」
「ツグ兄の位置は……」

 ひぃちゃんがステータスを開き、ツグ兄ぃの位置を確認してくれた。困った時のひぃちゃんは、すごく頼りになる。
 ひぃちゃんがゆっくり指差ゆびさした方向に顔を向けると、人の腰ほどの高さまで草が生えた茂み。
 ……え、何してんの?


     ◆ ◆ ◆


 ホップラビに戦いを挑む妹達の姿が視界の端に映るように気を付けながら、茂みを覗き込む。
 少し見ていたが、2人ともさすが無類のゲーム好きとあって、手慣れた様子だ。
 んで聞いた話によると、こういう場所に薬草とかが生えてるらしい。


「……お、ビンゴ」

 目をらしてあたりを見渡せば、先ほど道具屋に置いてあった薬草と同じ形をした草を発見した。その隣には、毒消し草と酷似こくじした草も。
 近くに色んな草が生えているので、気を付けてむしる必要があるな。
 ヒバリ、ヒタキ、お兄ちゃんやっと役に立ちそうだよ。そんなことを思いながら、しゃがみ込んでブチッと引っこ抜く。
 抜いた直後の草は匂いがよく、気分が上昇。これなら飽きずにやれそうだ。


【薬草】
 軽度の傷口に薬草を塗ると、たちまち治る優れもの。HP10%回復。

【毒消し草】
 魔物の毒を治す草。苦い。おひたしにすると苦味が緩和かんわされ、うまい。

【雑草】
 何故抜いたし。基本何も役に立たないゴミ。

【ハーブ】
 肉との相性抜群。色々な臭みを消すため、大人気。


 おぉ、抜いた瞬間ウィンドウが開いて、何の草なのかを教えてくれるようだ。便利。
 ただのゴミで何の役にも立たない雑草を捨てながら、その他を……えっとアイテムボックス? インベントリか? に収納しゅうのうしていく。雑草は自然にかえるといいよ。
 そう言えば、量はどれくらい必要なんだろうか? いや、考えるより、たくさん集める方がよさそうだ。回復アイテムは、いくらあっても邪魔になるなんてことはないはず。
 休日の親父のように、無心で草を毟り尽くしてくれる!
 ――――――ぼとっ。


「ん? な、何だ……?」

 もはや戦っている双子のことを忘れ、ひたすら草を集めていた俺。30枚くらいずつ集まった頃、まるでそれは、見計らったかのように俺の近くに落ちて来た。
 音はあまり大きくなかったが、俺は思わず驚いて、ビクリと肩を跳ねさせてしまう。不意打ちだったし仕方ない。何かが茂みで一生懸命ゴソゴソしている。


「シュ、シュッ~」
「あー……蜘蛛くもか?」

 茂みを掻き分けたその先では、引っくり返った蜘蛛がもがいていた。どうやら自分で身体を戻すことができないらしい。体長は30センチほどあるが、もともと可愛らしいハエトリグモをデフォルメしたような外見をしている。
 ちょっと可哀想なので、俺は手伝ってあげることにした。多分敵の魔物なんだろうけど、助けるんだから攻撃するんじゃないぞ。
 ちなみに、手触てざわりはいぐるみのような柔らかさだった。


「ほら、直ったぞ」
「シュシュ~ッ!」
「ん? 帰んないのか?」
「シュッ、シュ~?」

 どうやら立ち去る気なし。真ん丸な目を俺に向け、首を傾げている。
 まぁ、可愛らしいからよしとしよう。攻撃してこないみたいだし、今にどこかに行くだろうと、俺は蜘蛛に背を向けて草毟りを再開した。
 すると蜘蛛が俺の背中を伝い、ローブのフードにもぐり込んでしまう。フードは大きくゆったりと作られているので、蜘蛛が入ってもまだまだ余裕があった。


「シュ~シュッ」
「何だお前……変な奴」

 害がなければ構わない、の精神で放っておいた。人間の俺が、出会ったばかりの蜘蛛とコミュニケーションを取れる訳でもないし。
 草毟りを再開した直後、俺はまたも邪魔されることになる。今度は忘れていた妹達の声によって。


「ツグ兄ぃ、いた!」
「もう。見えない場所に行くなら一声掛けて」
「そうだよぉ。戦闘見てるって言ってたのに、いなくて焦ったんだからね!」
「ツグ兄、反省」

 どうやら俺は茂みの奥にまでもぐり込んでしまい、心配させてしまったようだ。
 プリプリ怒ったヒバリと静かに怒りをにじませるヒタキ。ゲームだと言っても、これは反省しなければ。俺は素直に謝った。


「ご、ごめん」
「ん。次気を付ける」
「まあいいけど。それにしてもツグ兄ぃ、こんな茂みで何してたの……?」

 謝れば万事OKな2人なので、後腐あとくされなくこれで終わりだ。
 俺は2人に収穫物を見せようと、慣れない手つきでウィンドウを開いて、アイテム欄を押す。
 俺の草毟り成果は【薬草】31個。【毒消し草】27個。【ハーブ】38個。
 2人の表情を眺めていると、ヒバリは驚きの声を上げ、ヒタキからは拍手をもらった。
 ちなみに現実世界のハーブには様々な種類があるけど、ここでは全部纏めてハーブらしい。意外と大雑把おおざっぱだ。


「スッゴ~い! これで調合スキルのレベル、いっぱい上がりそうだね!」
「ツグ兄ぃお手柄てがら。いい子いい子してあげる」
「はは、ありがとう。こういうところで貢献こうけんしないとな。2人はもう戦わないのか?」
「んにゃ、夕方くらいまで色々狩って、職業ジョブとスキルレベル上げたい!」
「私、魔法使ってみたい。闇魔法はダークボール、攻撃する魔法」
「まだいてもいい?」
「ツグ兄、いい?」

 褒めてくれるのは嬉しいんだが、この歳になると少し恥ずかしさを感じるな。
 両腕に引っ付いた双子を落ち着かせ、ゲームと現実の時間を計算する。
 ウィンドウの端っこに表示されているのは、現実の時間とゲーム内時間。結構便利な機能だ。
 現実では正午前か。夕飯の準備もしたいし、ここの1日が30分だから……滞在1週間が妥当だとうか。 
 今日は土曜日だし、2人の喜ぶ顔がもっと見たいお兄ちゃん心ゆえだ。今日が平日だったら許してないよ。


「よし、滞在1週間だな。現実時間の午後3時半に、ゲームからログアウトとやらだ。異論は認めん」
「十分だよツグ兄ぃ! やったー、ありがとう!」
「ふふ、たくさん戦える」

 言うや否や、嬉々とした表情を浮かべる2人に、俺は茂みから草原へ連れ出された。
 戦えない俺は見学になるってこと、分かってるのかね? ま、まぁ、2人が楽しければそれでいいか……。楽しそうな2人を見て、思わず笑みがこぼれる。
 余談よだん。好きな時間にアラームを鳴らせる機能も教えてもらった。これでいちいち時間を気にせずに済むから、もっとゲームを楽しめそうだ。


     ◆ ◆ ◆



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