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結婚生活
ユーリお兄様
しおりを挟む離縁届を突きつける前の話。
旦那様と夜会に出たとき、久しぶりにユーリお兄様とお会いした。
「シャルロット」
「ユーリお兄様っ!?」
優しく声をかけてきたのは、長い間想いを秘めていたユーリだった。
「ユーリお兄様、帰国なさっていたのですか!?」
ユーリは数年前から近隣国に留学している。そのため、会うのは久しぶりだった。
「いや…ね、帰るなり、お前が結婚したと聞いて。…そんな話、聞いてなかったから」
確かに、ユーリからの祝いの言葉はなかったが。
「…お前の夫は醜いだの何だのと評判だったが…最近は夜会にも出るようになったと。既婚の女性にはあまり近付けないからな。お前も来ていると聞いたから、俺も来たんだ。長い休みに入ったからな」
「まぁ、そうなんですか。けれど、再従兄なのですから…」
「……シャルロット、大丈夫か?」
「え?」
「少し窶れて見えるが」
ユーリの方がしんどそうなのに、こんなときでも優しくシャルロットを気遣ってくれる。そんなユーリが今でも大好きだ。だから、心配かけたくない。
「ユーリお兄様、大丈夫ですわよ?旦那様はお優しいですし、ナカバも居ますもの」
昔からずっとシャルロットの付き人だったナカバは、ユーリもよく知っている。
ナカバ、と聞いた瞬間、ユーリが少し安心したような顔をした。
「そうか、ナカバがいるのなら心強いだろう。良かった、…本当に」
「…ユーリお兄様はルーラお姉様と婚約なさるんでしょう?式には是非、私もお呼びしてくださいね」
「………ルーラ?」
ユーリが何のことだ、と呟く。
「え?だって、ルーラお姉様がそう仰って…」
「…俺はルーラと婚約などしない。もちろん、結婚もしない」
だけれど、確かにルーラは婚約が決まったと言っていた。
「確かに昔、そんな話が出たらしいが…俺は、…俺はずっと、好きな女性がいる」
好きな女性。ずっと前から。
(知らなかった…)
ならば、私の思いなど最初から無駄だったのだ。そう考えた自分が嫌になった。
ただ、好きでいるだけで良かったはずなのに。
「そう…なのですか…。…では、その方と結婚なさるんですか?」
「…留学から帰ったら、結婚を申し込むつもりでいたんだけどな。まぁ、人生上手くはいかない」
「え?」
「…知らないうちに、他の男のものになっていたよ」
「えぇ…と…。それは…なんというか、その…」
災難でしたわね。というのは少し違う。
「俺の好きな相手はさ、綺麗で、美人で、優しくて、よく気が利く人なんだけどな。…そんな人を嫁にもらった幸福者の男の顔を見たくてな」
「見たのですか?」
「あぁ。…好きなヤツに、釣り合ったいい男だったよ。どちらも幸せそうだ」
「ユーリお兄様がそう言うなんて、よっぽどなのですね」
ユーリが人を誉めるなんてあまりない。
つまり、そんなにも綺麗な人と素敵な相手なのだろう。
(私も、幸せになりたかったな…)
いつも思っていた。ユーリお兄様のお嫁さんになって、幸せで温かい家庭を築きたい。
けれど叶わないことは分かっていたから、思うだけで我慢した。決して口には出さなかった。
「…シャルロット、俺は、」
ユーリが何かを言おうとしたときだった。
「シャルロット」
「!っ…旦那様…」
遠くで奥方様達に笑顔を振り撒いていた夫のゼイルドが、すぐそばに立っていた。
「…貴方は?」
ゼイルドが冷たい笑みでユーリに近付く。
「あ…シャルロットの再従兄の、ユーリ・クラウスと申します。初めまして」
「…再従兄?…初めまして、シャルロットの夫のゼイルドだ。気安くゼスと呼んでくれ」
やはり冷ややかな笑いをするゼイルドに、ユーリが少し固まった。そして次の一言に、余計に固まることとなる。
「シャルロットと二人になることは遠慮してくれるか?」
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