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事例2 美食家の悪食【解決篇】
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あぁ、そうか。縁の切り札はこっちのほうだったのだ――。さすがの尾崎も縁が言わんとしていることが分かった。第三の事件で発生したイレギュラー。それを引き起こすことができたのは、ただ一人しかいなかったのである。
「先生、貴方はあの時、電話に出るために席を外していましたよね? だから、安野警部が名前の間違えを指摘したことも知らなかったし、ミサトさんの本名が大田美里ではなく太田美里であることを知り得なかった。そして、彼女が配った名刺は新調したばかりで、それを受け取ったのは私達に限定されています。つまり、彼女の名前が左右対称であると間違えることができたのは、新しい名刺を受け取っておきながら、そこに書かれた名前の漢字が、実際の漢字と異なることを知らなかった人間――。たまたま席を外していて、安野警部が指摘した時に居合わせることができなかった先生に限られるんですよ」
縁がはっきりと言い切ると、明らかに周囲の空気が変わったような気がした。これまでは辛うじて言い逃れをしてきたが、こればかりは言い逃れをしようがない。第三の事件にて発生していた勘違い。その勘違いをすることができたのは――先生しかいないのだ。
これは確実なる決定打。これは覆すことができないだろう。縁と先生の間で行われていた、架空上でのチェスは、見事なまでに縁がチェックメイトを決め、次の一手を打てない状況にまで先生を追い込んだ。
「改めて、署のほうでお話を伺いましょうか。ご同行――願えますよね?」
先生はうつむくと、言葉を完全に失ってしまったのであろう。まんじりともせずに黙り込む。しかし、しばらくすると大きく溜め息を漏らし、そして髪の毛をかきあげながら顔を上げた。
「どうして? 私は何も悪いことなんてしていないのに――。玄関口で靴が揃えられていなければ、それを直すのが普通でしょう? 部屋が散らかっていたら、綺麗に片付けるでしょう? それと同じじゃない。私のしたことって、こんなに大ごとになるようなことなの?」
笑っていた――。どんな表情を見せるのかと思ったら、彼女は笑っていた。自分のやったことの重大さも理解できず、またそれに対する罪悪感も一切ないように見える。
「罪もない三人もの人間を殺害しているんです。これで大ごとにならないと思っているほうが、どうかしています」
その態度に、縁の視線がさらに鋭くなった。別に暴れ出すわけではないし、こちらに危害を加えようとするわけではない。静かに狂っている――そう表現するのがしっくりくるだろう。
「先生、貴方はあの時、電話に出るために席を外していましたよね? だから、安野警部が名前の間違えを指摘したことも知らなかったし、ミサトさんの本名が大田美里ではなく太田美里であることを知り得なかった。そして、彼女が配った名刺は新調したばかりで、それを受け取ったのは私達に限定されています。つまり、彼女の名前が左右対称であると間違えることができたのは、新しい名刺を受け取っておきながら、そこに書かれた名前の漢字が、実際の漢字と異なることを知らなかった人間――。たまたま席を外していて、安野警部が指摘した時に居合わせることができなかった先生に限られるんですよ」
縁がはっきりと言い切ると、明らかに周囲の空気が変わったような気がした。これまでは辛うじて言い逃れをしてきたが、こればかりは言い逃れをしようがない。第三の事件にて発生していた勘違い。その勘違いをすることができたのは――先生しかいないのだ。
これは確実なる決定打。これは覆すことができないだろう。縁と先生の間で行われていた、架空上でのチェスは、見事なまでに縁がチェックメイトを決め、次の一手を打てない状況にまで先生を追い込んだ。
「改めて、署のほうでお話を伺いましょうか。ご同行――願えますよね?」
先生はうつむくと、言葉を完全に失ってしまったのであろう。まんじりともせずに黙り込む。しかし、しばらくすると大きく溜め息を漏らし、そして髪の毛をかきあげながら顔を上げた。
「どうして? 私は何も悪いことなんてしていないのに――。玄関口で靴が揃えられていなければ、それを直すのが普通でしょう? 部屋が散らかっていたら、綺麗に片付けるでしょう? それと同じじゃない。私のしたことって、こんなに大ごとになるようなことなの?」
笑っていた――。どんな表情を見せるのかと思ったら、彼女は笑っていた。自分のやったことの重大さも理解できず、またそれに対する罪悪感も一切ないように見える。
「罪もない三人もの人間を殺害しているんです。これで大ごとにならないと思っているほうが、どうかしています」
その態度に、縁の視線がさらに鋭くなった。別に暴れ出すわけではないし、こちらに危害を加えようとするわけではない。静かに狂っている――そう表現するのがしっくりくるだろう。
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