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婚約破棄されました。
10 姫巫女の記憶(説明回)(7)
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VRMMORPG説明回。読み飛ばし可です。(まるまる設定回なので番号がずれそうで適当な処置になってます、すみません。)
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『まさかの入れ子状態』
友人は私の前世の記憶の面倒さに、「伝心」 越しに絶句していた。
「ええ、まあ、複雑で申し訳ないんだけど……私の記憶の元であるゲームは、色々と関連商品があってね……」
私は友人に、ちょっと長い、しかし状況を理解するのにどうしても必要な基礎知識を説明した。
なので私は、彼に急遽レクチャーをする事になったのだけれど……。
◆◆◆
私は記憶の再生を止め、彼に前世の私が遊んでいたコンテンツについて説明する。
「そもそも、私が遊んでいたゲームは乙女ゲーではないの。いや、乙女ゲーも遊んではいたのだけれど、その元になったゲームがあったのよ」
『うん? どういう事です?』
「ええと、私何度か貴方に説明をしたでしょう? 私の前世は、魔法技術でなく科学技術が発展していて、あたかも魔法のように動いていたことを」
私が生きていた二十一世紀後半。
二十一世紀前半にはゴーグルタイプのVR機器が流行り、シューティングゲームやアドベンチャーゲーム、音ゲー等々が、PN10……プレイニュージェネレーション10など、コンシューマ機から広がっていったものだった。
それに続いたのが、五体没入型といわれるダイブイン型のゲームだ。
「どう言えば分かりやすいかしら……仮想の空間……空想の世界を体験するのが、VR、ヴァーチャルリアリティって技術なのだけれど」
『それは、また。凄い技術ですね。まるで天地創造のような……』
「あはは、電子の世界とはいえ、確かに空間を創造しているんだから大したものよね」
そんな友人の驚嘆を耳にしながら、私は説明を続ける。
仮想空間へ意識のみでなく五体を投入し、我が身を操るかのようアバターを操って遊ぶのが、ダイブイン型ゲームだ。
二十一世紀も後半になってようやく実現したそれは、軍事産業から工業系、医療系のリアルなシミュレーターを経てようやく民生品へと落とされる。
……新し物好きのコアゲーマーから始まったダイブイン型ゲームだが、二十一世紀前半に起こったそれと同じように、コンシューマ機へとダウングレードされて数が出回るようになってきてからは、一般にも受け入れられた。
その頃には、ダイブイン型ヘッドセットは、まだまだ学生の小遣い程度でおいそれと買えない程度には高価だった。
とはいえ、五体没入型のゲームは直接に見て、手に触れられるというのが求められたゆえに、工数が増え開発費も嵩む。まあ、ある程度のプログラムならばAIによって自動化し、基礎を組んでくれるようになった為に、二十一世紀後半のプログラマーは、「機能をどう積み込み、何を削る」 かを判定し、あるいはバグを削る、最適化係だというのが正しいのだけれども。
膨大になったライブラリ、年々リッチ化していくコンテンツ。まあ、どの業界もだけれど、便利になった世界ってどんどん複雑化していくのよね。
……と、横道に逸れた。
とにかく、制作運営にお金が掛かるVRMMORPG業界は、早期にプレイヤーが増えてくれる事が、運営継続の為にも急務だったのよね。
そうそう、ここからが本題よ。例の四月馬鹿のお話。
そんな時期に、本格ダイブイン型VRMMORPGのプロモーションの一環として作られたのが、男性向けには美女NPCとのいちゃらぶ恋愛ゲーで。
女性向けに作られたのが、「フォーチュン・ラブ~乙女と英雄候補と恋の夢語を」 通称、「ととのを」だった。
わりとガチゲーマーだった私が、兄のお古のミニタワーPCで兄と共に遊んでいたVRMMORPG、「ヒーローズVSヴィランズ」 もまた、運営八年目にして、新規プレイヤー参入の少なさに悩んでいた。
今時珍しい月額課金制のゲームだから、プレイヤー人数の増減がそのまま運営に響くのよね。
で、プレイヤー人口の中でも数少ない女性へ視線を向けたわけ。
とあるゲーム系情報サイトのインタビュー記事によると、まずは女性をターゲッティングするとして、女性がよく遊ぶゲームをリサーチしたという。
リサーチ結果は、スマホゲーの中でもカジュアルゲームとして、乙女ゲーがよく遊ばれ、比較的に課金率も継続率も高いという結果を得たそうで。
二十世紀後半に一ジャンルを築き、二十一世紀後半となってもゲームジャンルとして立派に生き残っている乙女ゲーにゲーム内資産である3Dアバター、優秀かつファジーなAI、
作り込んだ背景素材を転用したのが、ことの始まり。
「……貴方に分かりやすいように言うなら、高度な判断能力と言語能力を持った見目良いゴーレムあるいはオートマタを作ったものの、利用機会が少なかったのを惜しんで、別のプロジェクトで再利用したというところかしら」
『ああ、魔法研究でもよくある事ですね。偶々良く出来たものの使い所が少ないものを、商業ギルドに売り渡す等』
「ええ。何処も研究資金は有限だものね……」
で、いざゲーム内容といえば。
イケメン英雄NPC達のたった一度だけ過去描写で使った、少年モデルの出来を惜しんだCG制作チームがメインとなり制作した為に、背景もキャラクター造形も異様に凝ったリッチな作りになっていた。
こちらなら、まあ、無駄に装丁が凝ってて美麗な挿絵が入っている美術品のような本、とでも考えてくれればいいわ。ちょっと、凝りすぎなのが分かるでしょう?
それはもう豪華で、普通ならがっつりと、それこそ五桁に近いお値段でパッケージで出せそうな内容のものではあったのだけれど、そこは飽くまでもVRMMORPGの市場拡大の為に行ったもの。
学生にも気軽に遊べるよう、媒体は基本無料、チケット課金型スマホゲーとなったのだ、とはプロデューサーである女性のお話。
VRゴーグルも、イベントや雑誌等で配布される段ボール製の簡易なものでも遊べるような、それはもうお手軽な仕様のものだったわ。
……ええ? VRゴーグルの仕様が気になる? その辺りは後で説明するから、今は飛ばすわよ。
ちゃちなゴーグルでも、ちょっと音質のいいヘッドホンを付けて、VRゴーグルを覗き込めば……。
そこには幻想的でリアルな中世ヨーロッパ風世界が広がっており、上下左右と見回せば、等身大のイケメンがこちらへ微笑んでいて、息づかいが感じられる程の距離で見つめ合えるものだから、それはそれは人気が出たものだったの。
――物語のヒロインになりきって、ファンタジー世界で夢のような恋愛を。
僕らとふれあいたいなら……思い切ってVRMMORPGにおいで、と。
何せ、乙女ゲーには数人程ピックアップされただけだけれど、その他にもイケメンNPCは豊富に用意されていますから、なんて。
運営一年目に行ったVRMMORPG内放送ブースからの生放送で、賢いAI搭載な、等身大の美少年達からVRゴーグル越しに笑顔で誘われたのだから、それはもう、乙女ゲープレイヤー達は黄色い悲鳴を上げたものでした。
そんな風に、攻略対象キャラクターご本人から巧みに勧誘されてしまい、高価なダイブイン型ヘッドセットを購入した女性達が増えたこと、増えたこと。
期間限定、ビギナーエリアに限りだけど、若い彼らをNPCとして従えてクエストに出掛けられる、「乙女向け☆新人強化キャンペーン~あの彼とのどきどきお出かけもあるよ」 というイベント開催時は、好評につき、JPサーバーがダウンさえ起こったとかなんとか。
ちなみに、乙女ゲームの時代設計は、元となったVRMMORPGのグランドクエスト、千年紀を描く物語の中でも、最も群雄割拠した時代、聖世紀五百年。
神が存在し、光と闇が未だ混じり合った世代のお話だ。
ええ、そうよ。この時代。
私達が生きている、今を描いていたの。
のちに英雄となる青年達の、若かりし頃をフィーチャーしたそれは、一部マニアックな裏設定が垣間見えるということで、本編であるVRMMORPGファンもかじりついた。
かくいう、私もその一人である。
……攻略対象の英雄達の中には、VRMMORPG内でストーリー中で仲良くなった人も居たものでね、彼らの青春時代を見てみたくなったのよ。
と、うっかり全然関係ないことを思い出しちゃった。そうじゃない、肝心の乙女ゲーのストーリーといえば……。
彼らは仮にも、のちに英雄となる立派な若者達。
ヒロインである田舎領主の娘が、彼らの嫁になれるわけもなく。
――それは一夏の淡い恋で、終わる。
物語の最後は、英雄候補生らしく、突如として避暑地に起こったモンスター大量発生を対処すべく、指揮官として向かう「彼」 へと、勝利を願いキスを送って、武運を願い……。
そして、傷つきながらもヒロインの元に帰ってくる彼を抱きしめて終わる。
という、とてもオーソドックスで切ない初恋のお話、だった筈なんだけれど。
「だったのだけれど、ね……」
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『まさかの入れ子状態』
友人は私の前世の記憶の面倒さに、「伝心」 越しに絶句していた。
「ええ、まあ、複雑で申し訳ないんだけど……私の記憶の元であるゲームは、色々と関連商品があってね……」
私は友人に、ちょっと長い、しかし状況を理解するのにどうしても必要な基礎知識を説明した。
なので私は、彼に急遽レクチャーをする事になったのだけれど……。
◆◆◆
私は記憶の再生を止め、彼に前世の私が遊んでいたコンテンツについて説明する。
「そもそも、私が遊んでいたゲームは乙女ゲーではないの。いや、乙女ゲーも遊んではいたのだけれど、その元になったゲームがあったのよ」
『うん? どういう事です?』
「ええと、私何度か貴方に説明をしたでしょう? 私の前世は、魔法技術でなく科学技術が発展していて、あたかも魔法のように動いていたことを」
私が生きていた二十一世紀後半。
二十一世紀前半にはゴーグルタイプのVR機器が流行り、シューティングゲームやアドベンチャーゲーム、音ゲー等々が、PN10……プレイニュージェネレーション10など、コンシューマ機から広がっていったものだった。
それに続いたのが、五体没入型といわれるダイブイン型のゲームだ。
「どう言えば分かりやすいかしら……仮想の空間……空想の世界を体験するのが、VR、ヴァーチャルリアリティって技術なのだけれど」
『それは、また。凄い技術ですね。まるで天地創造のような……』
「あはは、電子の世界とはいえ、確かに空間を創造しているんだから大したものよね」
そんな友人の驚嘆を耳にしながら、私は説明を続ける。
仮想空間へ意識のみでなく五体を投入し、我が身を操るかのようアバターを操って遊ぶのが、ダイブイン型ゲームだ。
二十一世紀も後半になってようやく実現したそれは、軍事産業から工業系、医療系のリアルなシミュレーターを経てようやく民生品へと落とされる。
……新し物好きのコアゲーマーから始まったダイブイン型ゲームだが、二十一世紀前半に起こったそれと同じように、コンシューマ機へとダウングレードされて数が出回るようになってきてからは、一般にも受け入れられた。
その頃には、ダイブイン型ヘッドセットは、まだまだ学生の小遣い程度でおいそれと買えない程度には高価だった。
とはいえ、五体没入型のゲームは直接に見て、手に触れられるというのが求められたゆえに、工数が増え開発費も嵩む。まあ、ある程度のプログラムならばAIによって自動化し、基礎を組んでくれるようになった為に、二十一世紀後半のプログラマーは、「機能をどう積み込み、何を削る」 かを判定し、あるいはバグを削る、最適化係だというのが正しいのだけれども。
膨大になったライブラリ、年々リッチ化していくコンテンツ。まあ、どの業界もだけれど、便利になった世界ってどんどん複雑化していくのよね。
……と、横道に逸れた。
とにかく、制作運営にお金が掛かるVRMMORPG業界は、早期にプレイヤーが増えてくれる事が、運営継続の為にも急務だったのよね。
そうそう、ここからが本題よ。例の四月馬鹿のお話。
そんな時期に、本格ダイブイン型VRMMORPGのプロモーションの一環として作られたのが、男性向けには美女NPCとのいちゃらぶ恋愛ゲーで。
女性向けに作られたのが、「フォーチュン・ラブ~乙女と英雄候補と恋の夢語を」 通称、「ととのを」だった。
わりとガチゲーマーだった私が、兄のお古のミニタワーPCで兄と共に遊んでいたVRMMORPG、「ヒーローズVSヴィランズ」 もまた、運営八年目にして、新規プレイヤー参入の少なさに悩んでいた。
今時珍しい月額課金制のゲームだから、プレイヤー人数の増減がそのまま運営に響くのよね。
で、プレイヤー人口の中でも数少ない女性へ視線を向けたわけ。
とあるゲーム系情報サイトのインタビュー記事によると、まずは女性をターゲッティングするとして、女性がよく遊ぶゲームをリサーチしたという。
リサーチ結果は、スマホゲーの中でもカジュアルゲームとして、乙女ゲーがよく遊ばれ、比較的に課金率も継続率も高いという結果を得たそうで。
二十世紀後半に一ジャンルを築き、二十一世紀後半となってもゲームジャンルとして立派に生き残っている乙女ゲーにゲーム内資産である3Dアバター、優秀かつファジーなAI、
作り込んだ背景素材を転用したのが、ことの始まり。
「……貴方に分かりやすいように言うなら、高度な判断能力と言語能力を持った見目良いゴーレムあるいはオートマタを作ったものの、利用機会が少なかったのを惜しんで、別のプロジェクトで再利用したというところかしら」
『ああ、魔法研究でもよくある事ですね。偶々良く出来たものの使い所が少ないものを、商業ギルドに売り渡す等』
「ええ。何処も研究資金は有限だものね……」
で、いざゲーム内容といえば。
イケメン英雄NPC達のたった一度だけ過去描写で使った、少年モデルの出来を惜しんだCG制作チームがメインとなり制作した為に、背景もキャラクター造形も異様に凝ったリッチな作りになっていた。
こちらなら、まあ、無駄に装丁が凝ってて美麗な挿絵が入っている美術品のような本、とでも考えてくれればいいわ。ちょっと、凝りすぎなのが分かるでしょう?
それはもう豪華で、普通ならがっつりと、それこそ五桁に近いお値段でパッケージで出せそうな内容のものではあったのだけれど、そこは飽くまでもVRMMORPGの市場拡大の為に行ったもの。
学生にも気軽に遊べるよう、媒体は基本無料、チケット課金型スマホゲーとなったのだ、とはプロデューサーである女性のお話。
VRゴーグルも、イベントや雑誌等で配布される段ボール製の簡易なものでも遊べるような、それはもうお手軽な仕様のものだったわ。
……ええ? VRゴーグルの仕様が気になる? その辺りは後で説明するから、今は飛ばすわよ。
ちゃちなゴーグルでも、ちょっと音質のいいヘッドホンを付けて、VRゴーグルを覗き込めば……。
そこには幻想的でリアルな中世ヨーロッパ風世界が広がっており、上下左右と見回せば、等身大のイケメンがこちらへ微笑んでいて、息づかいが感じられる程の距離で見つめ合えるものだから、それはそれは人気が出たものだったの。
――物語のヒロインになりきって、ファンタジー世界で夢のような恋愛を。
僕らとふれあいたいなら……思い切ってVRMMORPGにおいで、と。
何せ、乙女ゲーには数人程ピックアップされただけだけれど、その他にもイケメンNPCは豊富に用意されていますから、なんて。
運営一年目に行ったVRMMORPG内放送ブースからの生放送で、賢いAI搭載な、等身大の美少年達からVRゴーグル越しに笑顔で誘われたのだから、それはもう、乙女ゲープレイヤー達は黄色い悲鳴を上げたものでした。
そんな風に、攻略対象キャラクターご本人から巧みに勧誘されてしまい、高価なダイブイン型ヘッドセットを購入した女性達が増えたこと、増えたこと。
期間限定、ビギナーエリアに限りだけど、若い彼らをNPCとして従えてクエストに出掛けられる、「乙女向け☆新人強化キャンペーン~あの彼とのどきどきお出かけもあるよ」 というイベント開催時は、好評につき、JPサーバーがダウンさえ起こったとかなんとか。
ちなみに、乙女ゲームの時代設計は、元となったVRMMORPGのグランドクエスト、千年紀を描く物語の中でも、最も群雄割拠した時代、聖世紀五百年。
神が存在し、光と闇が未だ混じり合った世代のお話だ。
ええ、そうよ。この時代。
私達が生きている、今を描いていたの。
のちに英雄となる青年達の、若かりし頃をフィーチャーしたそれは、一部マニアックな裏設定が垣間見えるということで、本編であるVRMMORPGファンもかじりついた。
かくいう、私もその一人である。
……攻略対象の英雄達の中には、VRMMORPG内でストーリー中で仲良くなった人も居たものでね、彼らの青春時代を見てみたくなったのよ。
と、うっかり全然関係ないことを思い出しちゃった。そうじゃない、肝心の乙女ゲーのストーリーといえば……。
彼らは仮にも、のちに英雄となる立派な若者達。
ヒロインである田舎領主の娘が、彼らの嫁になれるわけもなく。
――それは一夏の淡い恋で、終わる。
物語の最後は、英雄候補生らしく、突如として避暑地に起こったモンスター大量発生を対処すべく、指揮官として向かう「彼」 へと、勝利を願いキスを送って、武運を願い……。
そして、傷つきながらもヒロインの元に帰ってくる彼を抱きしめて終わる。
という、とてもオーソドックスで切ない初恋のお話、だった筈なんだけれど。
「だったのだけれど、ね……」
応援ありがとうございます!
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