種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

閑話 〈シュン〉

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――剣乱武闘の第二次予選は3時間も経過しないうちに合格者人数が規定を満たし、予選を終了すした。合格者の殆どは謎の遭遇したある青年の助言を受け、闘人都市内に存在する闘技場に向い、木札を提出して最終予選に必要な「銀のメダル」を入手した。

結局、誰一人として予選闘技場に戻る事は無く、カリナの説明に騙される事なく闘技場に辿り着き、観客側としてはつまらない形で終了した形になるが、次の最終予選からいよいよ予選を免除されていた者達も参加し、総勢128名の実力者が集う事になる。

最終予選からはジャンヌとリノンも参加し、他の種族からも実力者が出場する。ここからが本番と言っても過言ではなくそのために5日目からは予選闘技場ではなく、闘人都市の増築工事がされた本場の闘技場で予選が開始される予定だった。

レノ達は休息日の4日目をそれぞれが別々に過ごす事を決め、最終予選の内容によっては仲間同士でも対戦する可能性がある以上、馴れ合い続けるわけにはいかず、準備を整えている。




――その一方、バルトロス王国の国王であるアルトは急遽他の種族代表と共に召集され、闘人都市の闘技場に訪れる。彼等は大会側の者達に案内され、応接室に移動した所、今回の剣乱武闘の責任者である闘人都市の都市長を務める老人が現れた。




「今回はお集まりいただき、誠にありがとうございます」
「ふんっ……老けたなロウガ」
「これはこれは……お久しぶりですなレフィーア様」


種族代表の6人が円形の机に座り込み、ロウガと呼ばれた老人が彼らの前に立つ形となる。アルトはロウガに視線を向け、何度か立ち会ったことはあるが相変わらずテラノとは正反対の雰囲気の老人であり、何処にでもいる老人にしか見えない。

これでも一応は若い頃は腕利きの冒険者として名を馳せ、世界に10人しかいないS級冒険者の1人であり、現役を退いたが彼の孫がS級冒険者に最近昇格したばかりであり、この剣乱武闘にも参加しているはずだった。


「ほう……ロウガとはもしや嵐王と謳われたあのロウガか?俺の親父が世話になったそうだな」
「ん? おお、もしやそこにいるのはライオットの息子さんか?親父殿には何度も殺されかけたよ」
「ふっ……親父も同じことを言っていた気がするがな」
「久しいなロウガよ。壮健でなによりだ」
「ダンゾウ殿もお変わりなく……という事もないな。その両足はどこぞの強者に持っていかれたのか?」
「ああっ……息子と少し喧嘩してな」


ロウガに対して次々と種族代表が話しかけ、アルトは内心驚きを隠せない。まさか目の前の老人がここまで交友関係があったことは知らされておらず、先王からは腕利きの冒険者だったとしか聞かされていなかったため、もしかしたら自分が想像しているより凄い人物かもしれない。


「それよりさっさと説明してよ~こんな陰気臭い場所に呼び出しておいてさ~」
「同感だな……ここは気に入らん。花ぐらい飾れ」
「それもそうですな……それでは世間話はこれくらいにして、皆様を呼び出した理由の説明に入りましょう」


ロウガは何処からか椅子を取り出し、他の代表達と共に座り込む。仮にも種族を代表とする王達を前に委縮せずに堂々と座り込むなど肝っ玉が太い老人であり、説明を行う。


「まずは机の上に置いてある結晶を見て下され」
「これはミラークリスタルなのか? 随分と古ぼけているが……」
「この闘技場に代々伝わるクリスタルでしてな。映像が少しぼやけますが、記録容量は相当な物ですぞ」


獣王の質問に応えながらロウガはリモコンの代わりの小さな魔水晶を取り出し、机の中央部に設置されたミラークリスタルに映像が流れる。


「まずはこの男を見て欲しいのですが……見覚えはありますかな?」
「む? こいつは……」
「さっき第二次予選に出てた子だよね~?」


クリスタルに表示されたのは第二次予選にてレノ達と遭遇した「シュン」であり、アルトは彼の顔を見るのは初めてなので首を傾げるが、他の代表達の何人かは顔を顰める。


「こいつは……あの時の」
「ちっ……気に喰わん」
「この男がどうかしたのか?」
「どうやらその反応から察するに何人かは知っておるようですな?」


ライオネルが顎に手を当て、レフィーアは舌打ちし、ダンゾウがロウガに視線を向けて尋ねる。彼等の反応に他の者達は不思議に思い、彼等とこの青年の間に何があったのか気にかかる。


「この青年は今回の第二次予選で少々問題を起こしましてな……まあ、規則を破ったわけではないので注意に留めましたが、調査を進めると色々と不審な点が多く、少しばかり気になりましてな……」
「それで何故私達をわざわざ呼び出した?まさか、こんな男の事で相談するために呼び出したわけではないだろうな?」
「その前にお尋ねしますが……皆様方はこの青年と既に邂逅しているのですかな? 先ほどの反応から察するに何人かは心当たりがありそうだと思うが……」


ロウガの質問に対し、最初にライオネルが答えた。


「うむ。俺が魔人族の同胞を保護するためにこの大陸に訪れていた時、いきなり現れて妙な事を聞いてきた男で間違いない」
「妙な事?」
「アルト、お前に話すべきか悩んだが……こいつはレノとソフィアの事を俺に尋ねて来た」
「はい?」


ライオネルの答えにアルトは呆気に取られ、どうして二人(同一人物だが)の名前が出てくるのかと疑問を抱くと、先ほど反応した他の2名も驚いた表情を浮かべる。


「なに?お前も聞かれたか?」
「お前も?どういうことだダンゾウ?」
「俺も同じことを尋ねられた。あれは療養のために「和国」の温泉街に立ち寄った際、何処からか現れたこの少年が俺の息子の友人であるレノという少年の事を訪ねて来た。あまり面識がないからよく分からないと答えたら姿を消したが……」
「……お前たちもか」
「お前たち……という事はお前もかレフィーアよ」
「気安く私の名を呼ぶな……アトラス大森林でこいつを見た。人間が神聖な我等の領土を侵す事自体が許せんが、それだけでなくレノの事を私に尋ねるために侵入してきたことが信じられん」
「アトラス大森林に……⁉」


基本的に特定の領土を持たない森人族ではあるが、アトラス大森林とはこの大陸の西側に存在する巨大な森林地帯の事であり、1000年以上の歴史の中で森人族以外がこの森林地帯に訪れたのはあの魔王リーリスとその配下の当時の魔人族以外に存在せず、彼等が保護する4つの神樹が存在する場所だった。

アトラス大森林は深淵の森同様に巨木で形成された密林であり、生息するのは殆どが大型の魔獣であり、森人族以外の種族の出入りは禁止されている。レフィーアの生まれ故郷でもあり、最も監視が厳しいはずの領土だが、そんな場所にクリスタルに映し出されている青年シュンが訪れたという事に誰もが驚きを隠せない。


「この男が何者か知らんが、我等の領地を侵しておいて堂々と大会に姿を現した時は殺してやろうかと思ったが、大会を壊すわけにもいかんから我慢したが……脱落次第、刺客を送り込んで捕縛し、カイザンを送り込んで私自らが拷問してやる……」
「うわ~……この人、目がマジだよ~」
「まあ、落ち着いて下され。ですが、この者の正体が少しだけ掴めましたな」
「どういう事ですか?」
「この者、どういう理由か特定の人物を探っているようでしてな……先ほど名前が上がった雷光の英雄レノ殿と、大将軍のソフィア殿の事を嗅ぎまわっているようでしてな」


ロウガは震える指で魔水晶を握りしめ、今度はクリスタルの映像が切り替わり、レノとソフィアの姿が映し出される。ソフィアの方は大会期間中に撮られた姿であり、レノの方は2年前に撮影されたと思われる彼が大会に出場した時の写真だった。


「先日、この闘技場の歴代の参加者の情報が収められている資料室に侵入者が入った形跡がありましてな……盗まれた資料というのが前回に開催された時の大会の英雄レノ殿の資料でしてな。十中八九、この青年の仕業で間違いなかろう」
「え、何それきもい」


即座にミズナが素の反応で返し、確かにここまで来ればストーカーを通り越してあまりにも不気味な存在であり、アルトも冷や汗を流す。彼が何の目的で執拗にレノとソフィアの事を調べ回るのかは不明だが、唯一彼が抱いた感情はミズナ同様に嫌悪感だけだった。


「まあ、証拠がないので現時点でこの青年を捕まえる事はできませんが、何かありましたら私達に報告してください。大会に勝ち残った有力選手が一人退場するかもしれないのならば、皆様にもそんなに悪い話ではないでしょう」
「なるほど……つまりはこいつの正体を暴き、不正の証拠を掴んで失格させればいいんだな」
「それは大会側の儂からは何も言えませんが……あまり無茶な行動は慎んで下され」


ロウガの暗黙の許可が降りたところでその場を解散し、それぞれがレノとソフィアの事を調査する青年の事を伝えられ、どのように対応するか悩み処である。ひとまずアルトはこの事をレノ達に伝えるため、今回も黒猫酒場で盛り上がっているだろう彼等の元に訪れることにした。
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