種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

西部地方

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いつも通りに転移魔法による視界の景色の入れ替わりを体験し、転移魔方陣の上に待機していたソフィア達は闘技場の試合場から見渡す限りの草原が広がる場所に移動すると、彼女達の足元の魔方陣が消失する。


「わぅんっ……? ここは何処でしょうか?」
「無事に転移したようですね。ですが、ここがかの有名な放浪島ですか?思っていたよりも随分と美しい場所ですね」
「余裕でいられるのも今のうちだよ。それにしても……どうやら私の知らない場所みたい」
「ソフィアも知らないのか?」


周囲を見渡した限り、ソフィアでも見覚えのない草原地帯であり、遠くの方で北部山岳らしき雪山が見えるが、どうやらソフィアが今までに訪れた東部、南部、北部ではないらしく、恐らくここが彼女も一度も訪れた事がない西部地方なのだろう。


「多分、ここは島の西側だよ。となると厄介だな……ここいらの魔物の生態は詳しくないや」
「ほほう、ソフィア様はこの島の事をよくご存じなのですね」
「2人は戦えるの?」
「大丈夫です」
「問題ありません」


シュンを無視しながら彼の従者の2人組に話しかけると、カオリとカナはソフィアに頷き、一応は彼女達を信じて先に進むしかない。


「確かこの地方は……大型の魔物が多いんだったけ」
「うむ。確かそう言っていたな……」
「大型というと……トロールとかオーガでしょうか?」


以前に調査に訪れたときは西部地方には大型種の魔物が生息していると聞いていたが、この大型種の魔物の事に関しては具体的には聞いていない。ちなみにゴーレムキングや白狼種の成獣も大型種であり、腐敗竜やバジリスクのような規格外の魔物は超大型種として認定されている。


「……ん? なんでしょうかあれは?」
「なにか見つけたの?」
「いえ、あちらの方からやけに土煙が舞い上がってまして……」


シュンが指差す方向には確かに派手に土煙が舞い上げながら近づいてくる存在があり、ソフィアの優れた視力で確認してみると、それは巨大なマンモスを想像させる象型の魔物であり、ソフィアも初めて見る主だった。



――パオォオオオオッ‼



体長は軽く10メートルを超えており、マンモスのように生やしている牙は槍のように突起状に尖っており、こちらに向けて突進してくる。ソフィアはその光景を確認し、どうやら自分たちの方向に向けて駈け出している事に気が付く。


「……なんか、マンモスみたいのが近づいきてる」
「マンモス……? なんだそれは?」
『聞いたことがないな……』
「わふっ?」
「ああ、分かるわけないよね……」


今の世界の住民はマンモスの事は知らないらしく、ソフィアの言葉にゴンゾウ達は首を傾げ、どのように伝えようかと考えている間にも土煙は大きくなり、こちらに近づいてくる。


「おや……私達にも見えてきましたよ。あれはどうやらパオーですね」
「え、今なんて言った?」
「パオーだと⁉絶滅した魔獣か⁉」
「聞いたことがあります‼昔、私達獣人族の領土で生息していた種ですけど、魔王の乱獲によって絶滅した魔獣です‼」
『パオー種の生き残りがこの島には生息していたのか……腕が鳴るな』
「お爺様から聞いたことがありますわ……私が得意とする氷属性の魔法にも対抗があるようですから厄介ですわね」
「その名前に誰も違和感は抱かないの?」


外見は完全にマンモスにも関わらずに象みたいな名前が付けられており、全員がマジメに「パオー」などという可愛らしい名前を告げる中、ソフィアは確実にこちらに向かってくるパオーに視線を向ける。



パォオオオオオオッ……‼



「確かにパオーだ」
「鳴き声から名付けた名前だそうですよ」
「マジ?」
「マジです」


先ほどよりも距離が縮まっており、こちらに向けて疾走してくるパオーは恐らく10秒後ほどには到達するだろうが、群れではなく単独で突っ込んでいるようであり、これならば十分に対処できる。


「さてと……腕試しに狩るとしますか」
「腕が鳴る……大型種の狩猟は、巨人続の領分だ」
「がるるるっ……‼ 血が滾ります‼」
『待て』


ソフィア達が構えようとした時、デュラハンが三人の前に腕を差し出し、大剣を握りしめて前に出る。彼女だけでなく、それに続く様にシュンと2人の従者も前に出ると、慌ててリオも習って後に続く。


「ここは我々にお任せください。同じチームとなった以上、我等の力を見て貰わないと後々困りますからね」
『こいつに同意するのは釈然としないが……ここは我等に任せろ』
「パオーは寒さにも強いと聞いていますが、あの女狐を倒すために修行した成果を試す時ですわ‼」
「私達はソフィア様たちの護衛を行います」
「どうぞこちらへ」


シュン、デュラハン、リオが前に出ると残りの2人はソフィア達の元に近づき、彼等を守るように武器を握りしめる。ソフィア達は顔を見合わせ、確かにこれからチームとして行動するならメンバーの実力を知っている必要があり、ここは任せる事にする。


「まずは私からですわ‼ ほぁあああああっ‼」
「それは掛け声なのですか?」
「い、今は集中しているから話しかけないで下さいまし‼」



ビュオォオオオッ……‼



リオの周囲に冷気が発生し、彼女の杖の魔水晶が光り輝くとのと同時に粉雪が発生し、リオが向い来るパオーに向けて杖を振り下ろすと、冷風が放たれる。


「ブリザード‼」


ゴォオオオオッ‼


彼女の杖先から文字通りの吹雪が発生し、そのまま雪が混じった突風が間近にまで迫ってきたパオーに衝突し、体全体に雪が覆われて速度を落とす。



パオォオオオッ……⁉



予想外の攻撃でパオーの進行速度は低下したが、やはり相性が悪いのか寒さを物ともせずに停止する様子は見えず、リオは両手で杖を握りしめて吹雪を強めるが、徐々に接近してくる。


「と、止まりませんわ‼」
『任せろ』


デュラハンが彼女の横で大剣を背に戻して両手を地面に押しやり、次の瞬間に彼女の掌から影のような物が発生し、そのまま地面を伝ってパオーの元にまで接近する。


「パオゥッ……⁉」


パオーの足元まで伸びたデュラハンの影が、そのまま相手の身体に蛇のように絡みつき、パオーは先ほどまでの勢いはどうしたのか唐突に停止してしまい、苦しそうに悶える。ソフィアはデュラハンが使用した魔法に見覚えがあり、闘人都市でソフィアを襲った魔術師や、魔王が使用していた「影の聖痕」の魔法と酷似していたのだ。


「この魔法は……闇属性の魔法ですわね⁉」
『そうだ。とは言っても、せいぜい十秒も持たないが……』
「問題ありませんよ」


ドォンッ‼


デュラハンの影によって拘束されているパオーに向け、シュンは長剣を握りしめて接近し、そのままレノの「瞬脚」のように高速移動しながらパオーの顔面に向けて「居合」を想像させる斬撃を放つ。



「せいっ‼」



バキィイイインッ‼



「パオォオオオオッ――⁉」


パオーの左側に生えていた刃物のように研ぎ澄まされた牙が意図も容易く切断され、その直後に身体を拘束していた影が消え去り、怒り心頭のパオーは普通の象の二倍近くの長さの鼻を震わせ、そのままシュンに向けて鞭のようにしならせて攻撃する。


ドォオオンッ‼


「おっと」


シュンは降り下ろされるパオーの鼻を躱し、そのまま回避を続ける。だが、どういう事か彼の従者である2人組はその光景を見ても特に動じず、依然変わりなくソフィア達の前から動かない。


「ねえ、ちょっと……君たちの主人が危なさそうなのに助けに向かわないの」
「問題ありません」
「ここで死ぬような御方なら我等の主人は勤まりませんから」
「で、でも……」
「いや、大丈夫だろう。あの男、本当に強い」


ゴンゾウの言葉通り、シュンはパオーの鼻を全て危なげもなく躱し続け、そのまま円を描くようにパオーの周りを動き続ける。


「パォオッ……⁉」
「こちらですよ」



ドォンッ‼ ドォオンッ‼



やがて、シュンの動きに付いて来れなくなったパオーが無茶苦茶に鼻を振り回し、周囲の地面が薙ぎ払われ、その光景にソフィアは眉を顰めるが、ここは彼等に任せると決めた以上は動かない。


「隙だらけですわ‼ アイシクカノン‼」
『ほう、そんな魔法まで覚えていたのか』



ゴォオオオオッ……‼



リオの頭上に巨大な氷柱が誕生し、そのまま杖を振り下ろすのと同時にパオーに向けて巨大な氷の弾丸が放たれる。以前にアルトと決闘した時よりも大きさが増しており、先端部が尖っていた。彼女なりに修行したらしく、無詠唱で発動させた辺りは彼女の魔術師としての才能を感じさせる。


ドゴォオオオンッ‼


「バォオオオオッ⁉」


パオーの側頭部に氷柱は衝突し、そのまま氷の残骸が周囲に飛び散らせながら激しく転倒し、パオーの巨体が倒れこむ。その隙を逃さず、今までソフィア達の前に居た2人組が駆け出し、それぞれが刀と杖を抜き放ち、倒れているパオーの頭部に向けて接近する。


「カナ、赤を」
「了解」


走りながらカオリが刀の刃をカナに差し出し、彼女は五つの魔水晶が取り付けられた杖先を向けた瞬間、火属性を象徴させる赤い魔水晶が輝き、そのまま刃に異変が訪れる。



ジュワァアアアッ……‼



日本刀の刃が赤く輝くのと同時に煙が舞い上がり、そのままカオリは刀を握りしめながら加速し、パオーの上空に跳躍すると刃を振り下ろす。


「火の太刀」
「パオッ――⁉」



ズバァアアアアンッ‼



彼女の振り抜かれた刃がパオーの額から突き刺され、刃が貫かれた個所からは煙が舞い上がり、パオーは暴れる事も出来ずに絶滅する。それを確認したカオリは剣の刃を引き抜くと、彼女の刀身に張り付いた血液が沸騰するように蒸発してしまい、ソフィアはその光景にリノンの火炎剣のように彼女の刃に火属性の魔力が纏っている事に気が付く。


「あれは……魔法剣なの?」
「いや、どちらかというと魔力付与に近い。だが、リノンの火炎剣には劣る」
「ですけど……今、あちらの方では無くてあのお姉さんが刃に魔力を送り込んだように見えました」


ポチ子の言葉通り、先ほどの一連の動作を見る限りはカナがカオリの武器に魔力を送り込み、火属性の付与が付いた刃でカオリが攻撃したように思えた。
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