種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

師弟対決

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「セイントフォース‼」


ズドォオオオオンッ‼


ミキが杖先を向け、先端から凄まじい光線が放たれる。以前に何度か目撃した事があるが、レノが知る生前のミキの砲撃魔法の数倍は誇る規模であり、聖剣の砲撃を想像させる威力である。ジャンヌは自分に放たれた光線に向け、戦斧を構える。


「ミラー・フォール‼」


ドォオオオオンッ‼


彼女は戦斧の刃が「鏡」のように煌めき、そのまま光線を受け止める。ジャンヌが使用したのは聖属性と無属性を掛け合わせた合成魔術であり、金属の表面を鏡張りのように変化させ、光線系の砲撃魔法を跳ね返す性質を持つ。


「はぁあああっ‼」
「なっ⁉」



ズドォオオオオンッ‼



レーザーが鏡に跳ね返されるかのようにミキのセイントフォースは方向を変化させ、そのまま上空に放たれて天空に飲み込まれていく。すぐにミキは杖を収め、光線の放出を中断すると冷や汗を浮かべる。


「私の魔法を……まさか、対策してきたのですか」
「違います。これは未来の貴女に教えて貰った技です」
「私が……?」


ジャンヌは戦斧を振り切り、ミキに構える。先ほどの技は教会時代にミキから教わった技であり、どうやら目の前にいる若かりし頃のミキの分身は本当に覚えていないようだった。


「なるほど……どうやら私も優秀な弟子を持てたようですね」
「どうですかね……私よりも優れた弟子はいますよ」
「どうしてそこまで卑下するような言い方をするのですか? 貴女は立派な……騎士ではありませんか?」


ミキの言葉に対し、ジャンヌは笑みを浮かべて首を振り、


「卑下ではありません。事実です……先ほどの銀の英雄にも言いましたが、今の時代は私よりも優れた人たちがたくさんいます」
「それは、本当ですか?」
「死んでしまわれた方もいますが、私は教会を離れた事で彼等と巡り合うことができました」



――鮮血のジャンヌと呼ばれた彼女は、教会を立ち去った際に様々な場所を放浪し、そしてバルトロス王国へとたどり着いた。そこで組織されたテンペスト騎士団の団長として就任し、アルトやリノン達と巡り合い、彼女は数多くの人間と関わってきた。



自分よりも確実に強い人物と言えばレノやホムラはもちろん、ゴンゾウやカノンもいる。今の自分と同等の強さを持つ者もリノンやアルト、ライオネルやポチ子といった者達が存在し、彼女は世間では魔王討伐の英雄の1人として名を知られているが、自分が英雄などという器ではないと内心思っていた。

ジャンヌが思い描いていた「英雄」とは、誰よりも強く、皆を守り、そして人を引き寄せる人物の事だと思っていた。その英雄こそが魔王を討伐を果たしたレノやアイリィ、六種族同盟という事実上の種族間の戦争を終わらせたアルトと先王であるバルトロス13世であり、彼等は間違いなく歴史に名を遺す程の偉業を成し遂げた。この2人以外にもいずれは未来の英雄と呼ばれるであろう人物を数多く知っており、自分も何時かは彼等と共にレノ達と対等の立場になりたいと憧れている。


「私は英雄ではありません……ですが、何時かは私の憧れた人々の元に辿り着くためにここまで来ました。今日、ここで貴女を打ち倒す事が出来ればきっとあの人たちに近づけると確信しています」
「……どうやら、今の時代もそう捨てたものじゃないようですね。ですが……」


ミキは杖を上に構え、魔水晶が光り輝く。その光景を見てジャンヌは表情を引き締め、彼女が歴史上でも「最優の聖天魔導士」と言われた理由が今から判明する事に冷や汗を流す。


「フィフス・マジック」


ボウッ……‼


ミキの周囲に五つの魔弾が形成され、風属性の魔弾、火属性の魔弾、水属性の魔弾、雷属性の魔弾、最期に聖属性の魔弾が出現し、ミキが複数の属性魔法を同時に発現させた事に観客達は動揺する。


「お、おい……まじかよ」
「五つの属性を操るなんて……あんな事出来るのか?」
「馬鹿言うな‼普通は2つの魔法を同時に発現させるだけでも数年の訓練が必要なんだぞ⁉それを五つもなんて……人間じゃねえよ‼」
「いや、人間じゃねえだろ。今のあの人は」
「あ、そうか……幽霊みたいなもんか」


観客達が騒ぎ出し、実況席のレノも動揺を隠せない。レノは自分の両手を確認し、随分前に鳳凰学園で初めて「風属性」と「雷属性」の魔法を組み合わせた事を思い出す。あの時は魔力が暴走して竜巻が生じたが、何とか二つの魔法を発現させるのに成功した。


(けど、五つの属性を同時に発動させるなんて……やっぱり凄い)


二つの属性を合成させて発現させる事はレノにも出来るが、これが同時に二つの属性魔法を発現させるとなると話は別である。例えばレノが「乱刃」と「紫電」を全く同時に発動させることはできない。今までに何度かこの二つの魔法を放出した事はあるが、魔法を発現させたときは必ずインターバルとも言える時間が存在し、レノの場合は一度魔法を使用した後はだいたい1~0,5秒ほどの間を必要とする。

事前に風属性と雷属性の魔力を合成させて発現させる「撃雷」は例外だが、基本的に彼は二つの魔法を完全な意味で別々に発動できない。魔力容量は問題なくても同時に魔法を発動させる事はそれほどに難しく、熟練の魔術師でも滅多に扱える者はいない。



――しかし、ミキが歴史上でも「最優の聖天魔導士」と言われた由縁は五つの属性魔法を操る事だけではなく、同時に五つの属性魔法を発現させる事が出来るからだった。彼女は生まれながらに人間でありながら森人族を凌駕する魔力と、それを操る魔法の才能があり、長い冒険者時代を経て、聖導教会によって長年の努力と才能を発揮した人物なのだ。



「マジック・アロー」
「くっ⁉」


ズドドドッ‼


五つの別々の属性の魔法が放出され、ジャンヌは構える。先ほどのように戦斧を鏡に変化させて跳ね返すか考えたが、光線系ではない魔法に対しては効果は薄く、彼女は戦斧に魔力を蓄積させる


「フォトン・レイ‼」


ズドォオオオンッ‼


そのまあ刃に聖属性の魔力を集中させ、先ほどのように三日月状の光刃を放出するが、ミキの五つの魔弾と衝突して爆発を引き起こす。


ズガァアアアアアンッ‼


「くぅっ⁉」


想像以上の爆発が発生し、試合場全体が震える。観客席は結界によって守られているが、ジャンヌはその振動で体勢を崩し、片膝を突く。


「なんて威力……真面に受けていたら……」


爆発の原因は魔弾同士の衝突ではあるが、ジャンヌのフォトン・レイが原因ではない。五つの異なる属性魔法が衝突した事により、反発作用が生じて爆発したのだ。もしも仮にジャンヌが受けていたとしたら、無事では済まなかっただろう。


「よそ見とはいい度胸ですね‼」


上空から声が聞こえ、振り向くとそこにはまたもや背中に光翼を生やしたミキが浮かんでおり、彼女は上空を飛行しながら杖を構え、今度は聖属性の砲撃魔法を発現させる。


「スターダスト・レイン‼」


ズドドドドッ‼


杖先から無数の白い魔力の塊が次々と放たれ、まるで流れ星を想像させる光景にジャンヌは見惚れる暇もなく、戦斧を背に試合場を駆け抜ける。


ズガガガガガッ……‼


「くっ……‼ 試合場を壊す気ですか‼」


後方から聞こえてくる破壊音にミキは肉体強化で身体能力を上昇させ、逃げ続ける。ミキは執拗に彼女に向けて魔弾を連射し、やがて試合場の隅に追い込む。


「これで終わりです‼」


マシンガンのように光弾を放出し続けながら、ジャンヌに向けてミキは杖を構えるが、すぐに異変に気付く。彼女の背にしていた戦斧が光り輝いており、試合場の隅に移動すると同時にジャンヌは笑みを浮かべ、そのまま立ち止まる。


「……この技は、貴女に教わっていません‼」
「なっ……⁉」


ジャンヌは叫ぶのと同時に戦斧を握りしめ、そのまま槍投げの選手のような体勢に入り、勢いよく上空に浮かんでいるミキに投擲する。


「聖天、砲天撃‼」



――ズドォオオオオンッ‼



ワルキューレ騎士団の総団長であるテンから基本を教わり、その後は幾千もの戦闘によって極めた自分の最大の一撃を放つ。まるで閃光を想像させるその一撃は真っ直ぐにミキの元に放たれ、彼女は咄嗟に杖を構え、最高クラスの防御を誇る魔方陣を展開する。



「プロト・アイギス‼」



――ズガァアアアアアアアンッ‼



ミキの目の前に巨大な魔方陣が展開され、そのまま戦斧を受け止める。防御魔法陣の中でも最高レベルの防御を誇る魔法であり、聖痕所有者の砲撃さえも受け切れるほどの頑丈さと耐久力を誇る魔方陣だが、



ビキィイイイッ……‼



「なっ……くぅっ‼」



戦斧が魔方陣にめり込み、亀裂が生じる。ミキはすぐに魔方陣に魔力を送り込むが、まるでロケットのように戦斧の柄から魔力が噴出し、遂には魔方陣を破壊する。


バリィイイイインッ‼


「きゃあぁあああああああっ⁉」



魔方陣が崩壊し、そのまま戦斧はミキに向かって突進し、彼女は咄嗟に体勢を屈めて避けようとするが、背中の功翼が貫かれて落下してしまう。
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