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四十代後半、独身、彼氏なし。
傷つくのが死ぬほど怖くて、小心者でコミュ障な自分を隠すために、四十数年かけて着込んできた「偉そうな鎧」。おかげでちっともモテないし、損ばかりしてきた。
週末の夜、缶チューハイ片手に、私はいつも同じことをする。「もしあの時、別の選択をしていたら」という、あり得たかもしれない未来の妄想だ。
貧乏な元彼と結婚していたら? 出会い系で会った自称起業家と結ばれていたら? 浮気を知った夜、鎧を着込んで岩盤浴に突撃していたら? 年下男子に本気で色気を出していたら?
どの妄想も、重すぎる鎧のせいで、なぜか斜め上の結末に転がり落ちていく――。
孤独は消えない。答えも見つからない。それでも今夜も、鎧を着たまま、私は缶チューハイのプルタブを開ける。
文字数 8,612
最終更新日 2026.09.17
登録日 2026.09.17
見沼の畔に棲む竜神には、誰にも語ったことのない、二つの恋の記憶がある。
遠い昔、身分違いの恋に自ら幕を引いた娘。戦火の中、彼の手を拒み、見沼に散っていった寿能城の姫。二度の喪失を抱えたまま、彼はただ、水底で長い時を過ごしていた。
そんなある夏、幼い少女と出会う。彼女の翳りに、遠い記憶の面影を重ねかけた竜神は、しかし出雲での過酷な日々を見守るうちに、面影ではなく、彼女自身に焦がれていることに気づいていく。
奪わず、急かさず、ただ待つこと。二度の喪失の果てに辿り着いた、不器用な愛し方で。
これは、『蛍を待つ』の"彼"が辿ってきた、誰も知らない道のりの物語。
文字数 21,050
最終更新日 2026.09.04
登録日 2026.09.04
母を亡くし、居場所のない家で育った少女は、ある夏の日、禁足地とされる氷川神社の「蛍の池」で、不思議な男の子と出会う。二人だけの秘密の時間は、しかし理由も告げられないまま、唐突に引き裂かれてしまう。
継母のもとを離れ、出雲の見知らぬ土地で過ごした奉公の日々。そばにいてくれたのは、なぜか懐かない野良猫と、不器用な一人息子だけだった。
やがて大人になった彼女は、蛍の季節、再びあの神社の参道に足を向ける。そこで待っていたのは――記憶の中の、あの人だった。
名前も、素性も、確かめないまま。それでも、確かに感じる温もりだけを頼りに、二人は再び、少しずつ歩み寄っていく。
これは、確かめることより、待つことを選んだ女性の、静かな再生と恋の物語。
文字数 25,259
最終更新日 2026.08.26
登録日 2026.08.26
登録日 2026.08.26
総務部で働く35歳の奥田さつきは、趣味でデジタルイラストを描き、SNSに投稿していた。誰の記憶にも強く残らない日々の中で、絵を描くことだけが「今ここにいる」という感覚を与えてくれた。
あるとき、さつきのフォロワーに「haru_sketch」というアカウントが現れる。「見るたびに静かになれます」と言うharuは、やがてさつきにとって唯一の創作仲間になっていく。
しかしある日、さつきはharuの絵に、自分だけが知るはずの「筆癖」を見つける。不透明度三十二パーセントの影。右上がりに歪む線画の癖。サブアカに呟いただけの日常の欠片。
これは影響なのか、模倣なのか。悪意があるのか、ないのか。証明できる。でも証明できない。
さつきは一人で、その問いの中に立ち続ける。
愛されることの暴力を、静かに描いた心理サスペンス。全23話・約8万字。
登録日 2026.08.26
完璧なアリバイ
職場の備品が消えている。田中さおり(32歳)は職場一の「しっかり者」として知られる女性。犯人を特定すべく、同僚全員の行動を密かに観察し始めた。
怪しい人物もリストアップした。証拠も積み上がってきた。完璧な捜査だった。
でも——なぜか自分のデスクの引き出しが、日に日に重くなっていく。
そして隣のデスクの木村は、毎日楽しそうに何かを記録していた。
完璧な目撃証言
職場に不審者が出た。夜八時以降、誰かが各フロアをうろついているという。田中さおりは完璧な張り込み計画を立て、ついに犯人を目撃した。完璧な記録もある。完璧な目撃証言だ。
でも——なぜか佐藤さんも「完璧な目撃証言」を持っていた。
しかもさおりの毎晩の行動が、さおり自身より詳しく記録されていた。
完璧な密室
会議室の鍵がない。中には今日の会議に必要な重要書類。スペアキーも見当たらない。
田中さおりは密室の謎を解くべく、関係者全員への聞き込みを開始した。「この完璧な密室を作れたのは、鍵を不正に持ち出した犯人だけよ」
完璧な推理だった。
——自分のポケットから鍵が十二本出てくるまでは。
登録日 2026.08.26
夏休みの初日、中学1年生の佐藤蓮は、亡くなった祖父の遺品からアイヌ語の地名が並ぶ一冊のノートを発見する。最後のページには「コタンコロクルの子孫を見つけたら、このノートを渡してほしい。声は、消えてはいけないから」という走り書きが残されていた。
地名の意味を調べるうち、ノートが日高・十勝・釧路方面に集中していること、そして何ページかが抜き取られた「索引」であることに気づいた蓮は、父が住む帯広へ向かう。
そこで出会った金子正さんから、祖父の友人・カネさんがアイヌの血を引く人物だったこと、そして失われかけたユーカラ(口承文学)の断片を祖父が文字に記録していたことを知る。
地名は単なる住所ではなく、その土地で生きた人々の記憶だった。蓮は声の持ち主の子孫を探し、日高山脈の奥地・ルペシペへ向かう。悪人はいない。ただ、時代と記憶の断絶があっただけだ。声を返す旅が、今始まる。
登録日 2026.08.26
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