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公爵令嬢セラフィーナは、十年にわたり王国外交局の全書簡を代筆してきた。署名欄に記されるのは常に婚約者である外交局長の名前。三千通を超える書簡が隣国との和平を支え、通商条約を結び、同盟を維持してきた。
「代筆係ごときが出過ぎた真似を」——外交局長の側近にそう告げられ、セラフィーナは追放される。十年間の功績は全て婚約者の手柄として歴史に刻まれていた。
だが彼女が去った翌週から、外交が音を立てて崩れ始める。隣国の大使は文体の変化に気づき不信を抱き、通商交渉は暗礁に乗り上げ、同盟国は離反の構えを見せる。
やがて発覚する真実——セラフィーナは先王が密かに配置した「影の外交官」であり、三千通の書簡には、彼女と隣国の宰相だけが読める暗号で、本当の外交が綴られていた。
文字数 54,378
最終更新日 2026.10.24
登録日 2026.10.12
「お姉様は金遣いが荒いから」——妹はそう言って、わたしの婚約者を取りました。父も母も頷きました。
十一年。わたしは月に一度、家の借金を返し続けていました。百三十二回。自分の名義で、自分の持参金で、誰にも言わずに。
家族はその出金を「長女の浪費」だと思っていたのです。
わかりました。では帳簿と鍵をお返しします。名義も一緒に。
三月後、オルグレン伯爵家は破綻しました。返済していたのがわたしだと、誰も知らなかったからです。
——けれど本当に恐ろしかったのは、そのあとでした。返済先の商会に足を運んだわたしに、若き会頭はこう言ったのです。
「その借用書、十一年前から一度も有効になっていません」と。
わたしが返し続けていた借金は、最初から存在しませんでした。
文字数 127,290
最終更新日 2026.10.11
登録日 2026.09.12
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