真中流マネジメント

真中流2軍論――山田哲人に見る2軍での育成

2016.08.26 公式 真中流マネジメント 第11回

なぜなら試合に出続けること自体が体力強化になりますし、例えばシーズン後半の、疲れがたまってきた体でも結果を出し続けるということを覚えるには、疲れた状態で試合に出る以外に方法はないのです。選手達は、そうした状態でどういうプレーをしていくべきかを学んでいくわけですね。
疲れたからいったん休ませ、体調が万全になったらまた試合に使う、という起用法では、将来的にもっとプレッシャーのかかる1軍という舞台で年間140試合以上を戦うことは難しいでしょう。
そこで、もちろん故障していない前提ではありますが、特別声をかけたりせずに試合に使い続けました。そのような環境でも、伸びる選手は勝手に伸びていくのです。

山田に関して言えば、6月にバテ始めたあとも、結局1年間試合に出続け、最終的にはクライマックスシリーズで1軍の試合にも出場するに至りました。
その後はしばらく控え選手という立場で1軍にいましたが、正直なところ、この間も2軍でみっちり鍛えるという方法もあったとは思います。
その後、結果としていいタイミングで三木コーチと出会って「盗塁」を覚え、また杉村コーチとの様々なティーバッティングのトレーニングを通じて、バッティング技術を飛躍的に伸ばしました。この辺りの出会いは、彼の「引き」の強さによるものでしょうね。

2軍だからできた経験

打席で繰り返す試行錯誤
「勝つことを最優先としない」環境が生んだ成長

彼がすごいスピードで成長した要因は、この引きの強さもあるものの、それ以上に実戦の中で様々なやり方を経験し、自分のものにしていったことだと私は考えています。

具体的には、球種の見極め方や、打球方向のコントロール法などですね。
打席に立つたびに、こうしたことを経験して、感覚を掴み、血肉にしていく。もちろん彼が持つ感性によるところも大きいでしょうが、そういう試行錯誤を続けたからこそ、現在のレベルにまで成長することができたのだと思います。

このような経験は、「チームとしての勝利」が優先される1軍では難しかったでしょう。「勝つことを最優先としない」2軍という環境に身を置いていたから、ということが大きいと思います。
山田の例は、2軍というある種特殊な環境が、選手の成長を生んだという好例と言えるかもしれませんね。

さて、次回のテーマも引き続き2軍です。入団1年目のルーキーから、経験豊富なベテランまで様々な立場の選手が集まる2軍という環境において、「監督としてどのように選手達を起用すべきか」ということを中心に、お話ししていきたいと思います。

取材協力:高森勇旗

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プロフィール

真中満
真中満

1971年栃木県大田原市出身、宇都宮学園高等学校を経て日本大学卒業後1992年にドラフト3位で東京ヤクルトスワローズに入団。
2001年は打率3割を超えリーグ優勝、日本一に貢献。2008年現役を引退。
2015年東京ヤクルトスワローズ監督就任1年目にして2年連続最下位だったチームをセ・リーグ優勝に導く。
2017年シーズン最終戦をもって監督を退任。

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