真中流マネジメント

常に冷静な判断を下し、俯瞰する自分を保つ

2016.04.08 公式 真中流マネジメント 第2回

自分の考えを具体的かつ明確に伝える

9連敗を経験しつつもコーチ陣としっかり話し合い
意見交換を重ねてきたことでチーム全体が変わった。

監督就任からキャンプに向けて、チームの土台を整えていきました。投手を中心とした守りにフォーカスすること。プラスαにトライして、新たな可能性を見つけること。そして、自主性。最後までグラウンドに残って練習をするのが美徳とされている古い風習を撤廃し、自分の考えで練習する。すべては「負けグセ」を消し去り、勝つ喜びを手に入れるために。そんな方向性で2015年シーズンはスタートしました。

しかし、そんな準備だけで最下位だったチームが勝ち続けられるほど、勝負の世界は甘くありません。シーズンがはじまると、やはり負けグセが顔を見せはじめます。
2015年の5月4日のベイスターズ3連戦で3連敗、ドラゴンズ戦で2敗と連敗を止めることができず、続く阪神戦でも2敗、そして2015年5月16日巨人との3連戦の第2戦まで負け続け9連敗を記録してしまうという事態になってしまいました。

連敗が続くと、まるでこれからずっと勝てないかのような雰囲気になるんです。私としては、「まだ5月じゃん、シーズンはこれからも続いていくんだから、なんとかなるだろ」という気持ちでしたから、ひたすらそれを口に出していましたね。大丈夫、大丈夫、と、ひたすら言い続けることです。これは決して何かの救いを求めるように言っていたわけではなく、本心で大丈夫だと思っていました。
ただ大丈夫というわけではなく、「今日の試合は、先発が早々に崩れて追いつけなかっただけで、つまらないミスをして負けたわけじゃない。だから、大丈夫」という風に、具体的に何が大丈夫なのかを伝えていました。監督がいつも大丈夫、大丈夫と言っているから、「まぁ監督が大丈夫と言っているから、なんとかなるのかもしれないね」という感じで、その言葉が徐々に浸透していったのだと思います。

監督だけが「大丈夫」と言い続けていればいいのかというと、そうではありません。監督がいくら言い続けても、コーチの誰かが違う方向を向いていると、そこからほころびが出てくるものです。その点、ウチのコーチ陣は三木ヘッドコーチをはじめ、非常にしつこいコーチ陣でした。どんな状況でも「諦めるな」と、チームを勝つ方向に向かわせ続けてくれました。このコーチ陣のしつこさは、2015年の成果の要因の一つです。
このしつこさを生み出すために僕がやったことというのは、特別これといったことはないんです。ただ、僕は毎日コーチ会議をやるのですが、そこで全員から本当の意見が出るような場にするように工夫しました。

コーチが、チームや采配に関して思っていることを口にできない状況にいると、それがときに愚痴となってグラウンドに落ちていきます。それを選手が聞いて、不協和音が生まれはじめます。なので、ウチのコーチ会議は、

「監督、なんであそこ代打出さなかったんですか?」
「あそこはピッチャー交代のほうがよかったんじゃないですか?」

という声がバンバン出てきます。そのとき、
「なるほど、オマエはそう考えるのね。俺はこう考えて、あの代打を出したんだ」
というように、とにかくその意見を受け入れました。そのうえで、自分の采配に関しての意図を共有する。その順番を徹底しました。
もし、「俺があそこは代打と言ったら代打なんだ。俺の采配に口出しするな」。
とまではいかないにせよ、せっかくの意見を受け入れない態度をとると、そのコーチからは二度と意見が上がってこない。それが積もり積もって、先ほども述べたようにグラウンドに落ちてしまう。毎日コーチから意見が出るような環境をつくることで、コーチ陣との意思疎通が強くなったのだと思います。結果的に私がいつも言う「大丈夫」という言葉も、コーチの中に浸透していき、最後まで「しつこく」勝つことに執着してくれたのだと思います。

常に視野を広く持ち自分を俯瞰する

目の前のプレッシャーや責任にもがき苦しむより
今の立場で物事を考えられることに喜びを感じている。

これは次回の記事で具体的に触れるつもりですが、このコーチとの関係性というのも、就任当時から随分と気を遣ったところです。例えば、選手とのコミュニケーションにも、コーチの存在は不可欠です。監督自らが直接選手に伝えるよりも、あえてコーチから選手に伝えさせたほうがいい場面って結構あるんです。そういう意味では就任当初から、私自身が何でもかんでも選手と直接会話をする、というのは控えるようにしていましたね。もちろん、まったくしないわけにはいきませんが、意識的に会話の量を減らしました。

それに私は選手の生活を握っています。私が試合に使うか使わないかでその選手の給料が決まるわけです。特定の選手と会話をすることを、面白く思わない選手も中にはいるでしょう。バレンティンのようなバリバリのレギュラー選手と大笑いし合いながら話す、というのは例外として、基本的には選手とは会話をしません。私も人間ですからね、本心は会話をしたいんですよ。それでも、チームがよい方向に進むための行動を選びます。

そうはいっても、シーズン中は自分自身も方向性を見失うときが何度もきます。チームの勝敗、相手チームの状況、シーズンの大局的な流れ、コーチ陣との連携、選手の調子、誰を2軍に落として誰を上げるか、など、さまざまなことを同時に考えますから、視野が非常に狭くなるときがきます。そんなときは、とにかく自分を俯瞰してみることに徹します。私の場合は、自分の体を神宮球場の客席に移動させ、そこからヤクルトスワローズの監督である真中を見つめます。そうすると、

「お、立派に監督やっているじゃないか」
「そんなに硬くなるなよ。シーズンは長いじゃないか」

というように、不思議と抱えている問題も割と大したことはないんじゃないかと思えてきます。こちらが連敗していて、対戦相手も連敗しているときなどは、自分の采配そっちのけで相手監督の采配を注意深く観察したりします。
「まさかここでバントはしないよな。あっ! したよ! ウソだろ」
と、びっくりするときがあるのですが、連敗中は恐らく自分もそのような采配をしている可能性が高いのです。たまには相手の監督になってみると、それによって自分が見えるときもありますね。
なので、自分を俯瞰してみること。どんな方法でもいいですから、自分なりの俯瞰の方法を見つけてみると、視野が狭くなったときには効果的です。

プレッシャーや責任が多くかかると、人は視野が狭くなりがちです。
なぜ、そうなるのでしょうか。それは、開き直れないからだと思うんです。
私はプロ野球の監督という仕事をしていますが、いい意味で開き直ることができています。自分のやりたいようにやって、それで結果がでなくても、「人生で一度でもプロ野球の監督をやれたんだから、すごいことじゃないか」と思って、開き直るようになりました。
目の前にあるプレッシャーや責任を何とかしようともがき苦しむより、今の立場で物事を考えられることに喜びを感じ、そこでしかできないことだけにフォーカスすることです。

取材協力:高森勇旗

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プロフィール

真中満
真中満

1971年栃木県大田原市出身、宇都宮学園高等学校を経て日本大学卒業後1992年にドラフト3位で東京ヤクルトスワローズに入団。
2001年は打率3割を超えリーグ優勝、日本一に貢献。2008年現役を引退。
2015年東京ヤクルトスワローズ監督就任1年目にして2年連続最下位だったチームをセ・リーグ優勝に導く。
2017年シーズン最終戦をもって監督を退任。

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