ビジネス書業界の裏話

作家のための著作権の基礎知識

2017.10.26 公式 ビジネス書業界の裏話 第42回
Getty Images

「コピペ」は違法か合法か!?

20~30年ほど前のビジネス書には、誇張ではなく「糊とハサミ」でつくられていたものがあった。実際、原稿用紙にコピーを貼り付けて「原稿です」と渡されたことは、一度や二度ではない。まさに文字通りのコピー&ペーストだった。さらに、その本がそのままベストセラーになったことさえある。

昭和の時代のビジネス書は、オリジナル理論のノックダウン(普通のビジネスパーソンに理解しやすいよう、やさしくかみ砕く)が基調だったので、著作権に対してややゆるやかに捉えていた傾向があった。簡単に言えば、作家も編集部もあまり深く気にしていなかったのである。

といって事件がなかったわけではなく、著作権侵害でクレームが来るということは何回かあった。本当に著作権を侵害していたケースもあれば、訴えたほうに無理があるというケースもあったように記憶している。しかし、いずれも何10万部を回収という大事件には至らなかった。不思議なくらい謝れば解決したのである。

当時に比べれば、現在はビジネス書出版社も著作権に神経を使うようになった。その理由は知的財産という概念が一般化したことがひとつ、もうひとつは、コピーペーストがしやすくなったため、著作権侵害の頻度が高くなっていることが背景にあると思われる。

実際、いい原稿だからと編集作業を進め、発刊寸前までいったところで大幅なコピーペーストが発覚し、急遽出版取りやめとなった話は、ほぼすべての出版社で耳にする。言うまでもないが、不正なコピペで自分の本をつくることは、オリジナル作家の権利を侵害することになる。コピペという言葉からは罪悪感の響きに乏しいところがあるが、コピペは剽窃(ひょうせつ)、盗作に限りなく近い。剽窃、盗作は「犯罪」である。

とはいえ、コピペにも不正なコピペと、そうでない許される範囲のコピペがある。作家を志す人は、この違いは知っておくべきだろう。

著作権侵害にならないコピペ

コピペのすべてが違法というわけではない。コピペにも違法、合法がある。しかし、一般には合法なコピペはコピペとは言わず、違法なほうを総称してコピペと言っているように見える。では、合法なコピペは何と言えばいいのか。それは引用である。

引用だけは、オリジナル作家の許諾をもらわずとも、オリジナル作家の書いたある部分を勝手にコピペすることができる。引用は無断でもよいのだ。ただし、引用には定められたルールがある。

最も肝心なのは表記のルールだ。簡単に言うと、出所(誰が書いた何という書物か)を明示する、引用した箇所がどこからどこまでか、「 」でくくる、行を分け書体を変えるなどして、明白に引用文であることが識別できるように表記すること、などなどが引用する時のルールである。

自分の文章と他人の文章をはっきり区別し、他人の文章には出所を明記するということだが、それだけを満たせばOKかというと、そうはいかない場合もある。著作権は文章だけなく、イラストや写真にも生じる権利だ。もし、ページのクオリティを上げようと有名イラストレーターや写真家の作品を複製して使おうと思ったら、イラストレーター・写真家の名前や出所を明示すれば勝手に使えるのか。当然ながらそんなことはできない。もしやれば、立派な著作権侵害である。引用が許されるのは、その文章なりイラスト、写真なりが、研究または論説の対象である場合だ。

「手塚治虫の研究」というテーマであれば、論文に必要なイラストのカットは引用扱いで使用することができる。しかし有名な絵だからと、飾りとして使うことは引用扱いとはならない。いくらオリジナル作家の名前を出しても、出所を明らかにしてもダメなものはダメなのだ。では、研究対象であれば無制限にOKかというと、それもそういうわけにはいかないことがある。

引用のルールには、引用した部分は「従」であるという定めがある。つまり、引用は自分の意見や考えを補完する、あるいは対比させる、または事例として示すためなどの目的で行われるものであって、「主」はあくまでも自分の文章であることが条件となる。したがって、引用ばかりで本をつくることはできない。

引用のルールで代表的なものは、もうひとつある。それは引用できるのは公開されたものという点だ。公開されていない手紙などの私文書は引用できない。引用できなければどうすればいいか。本人か遺族の許可を得るしかない。引用は著作権者の許可を得なくてもできるところが便利なのだが、著作権者の許可を得ることができるならば、今度は引用のルールに縛られる必要はなくなる。

ご感想はこちら

プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

出版をご希望の方へ

公式連載