社員成長の決め手は、人事が9割

人事のプロが明かす、面接で「リーダーシップ力・マネジメント力のある人材」の見抜き方

2024.03.27 公式 社員成長の決め手は、人事が9割 第21回

リーダーシップ人材の見抜き方

リーダーシップに関しても、基本的にはマネジメントと同じく「具体的な経験」を掘り下げて聞いていくのがいいでしょう。新規事業や業務の大改革など、以下の例のように実際にやったことについて質問してみてください。

■リーダーシップに関する質問
「あなたが新しく始めてうまくいったことや大きく変えたことは何ですか?」
「うまくいかなかったことは何ですか?」
「新しいことや変革をするときに、どうやって人を巻き込みましたか?」
「周囲の人たちを同じ方向に向けるには何が必要ですか?」
「当社で新しい事業を起こすとしたら、どんなことが考えられますか?」
「あなたの夢は何ですか?」

Getty Images

ぜひとも聞いておきたいのは、上記の質問にあるような「周りを巻き込む力」の有無です。新規事業も業務の大改革も1人ではできません。部下やメンバーに仕事の意味や目的を伝え、モチベーションを高め、チームを活性化できる「動機づけ」のスキルがリーダーには不可欠です。その経験やノウハウを聞くことによって、リーダーシップ人材としての適性が判断しやすくなります。

また、自社の事業について伝え、新しい事業を起こすとしたらどんなことが考えられるのか、3つくらいアイデアを出してもらうといいでしょう。「〇〇もあるし、△△もあるし、□□というのも考えられますね」と、どんどん新しいアイデアが出てくるような人なら、リーダーシップ人材として期待が持てます。

そして、組織のリーダーは「夢」を語れることも重要です。利益や売上などの数字だけが目標では、部下やメンバーはなかなか付いてきません。リーダーが語る夢に共感し、同じ夢を抱けるどうか。これが組織のパフォーマンスを大きく左右します。自社の仕事を通じて叶えたい夢についても聞いてみてください。

採用すべきか悩む人材は、社長の判断に委ねる

以上が「リーダーシップのある人材」と「マネジメント力のある人材」を見分ける基本的な方法ですが、リーダーシップ人材に関しては、これだけで見極めるのは難しいかもしれません。

というのも、リーダーシップ人材は「非常識な人」に多く見られるタイプです。非常に癖が強く、個性的な言動をして、服装も変わっていたりします。一方、採用担当者は「常識人」であることが多いため、いわゆる「変わり者」については理解しにくく、どのように判断したらいいのか戸惑ってしまうのです。

実は常識にとらわれない超優秀な人材なのか、ただ単に常識に欠けたダメな人なのか…。この違いを見抜くのは、非常に困難です。たとえ超優秀な人材だったとしても、入社後に軋轢を起こすことも想定しておかなくてはなりません。

では、どうしたらいいのでしょうか? 採用すべきどうか迷ってしまう個性的な応募者に関しては、自分で判断せず、社長に会ってもらいましょう。経営者は、そもそもリーダーシップ人材だったりします。「非常識な人」を見抜けるのは、同じ「非常識な人」だけかもしれません。社長の判断に委ねるのが最善策です。

私は前職で採用担当をしていたとき、新卒を20人採るとしたら4人ぐらいは社長に相談して「非常識な人」を採用するよう心がけていました。成功率は、50%くらい。やはりリスクは高いので、そういう人を採用しようと思ったら、「こいつと心中してもいいや」と思えるぐらいの覚悟が必要になります。

しかし異端をすべて排除して、出る杭を抜いていたら、画期的な事業を生み出したり、世の中を変えることなんてできません。「自分には見抜けない」と思ったら「ごめんなさい、どっちに転ぶかわかりません」と言って社長に会ってもらって、採るかどうかの決断をしてもらいましょう。

私が採用したリーダーシップ人材も、半分くらいはやっぱり凄い人たちでした。その後、社長や役員になって活躍しています。独立して起業するケースも多いですが、業務委託や副業という形で関わってもらうこともできます。

今はもう「定年まで正社員として働いてもらう」という考え方ではなく、「○年いてもらえばいいや」くらいに思って、そういう凄い人たちと「ご縁をつくっていく」という発想でもいいのではないでしょうか。

優秀な人材であればあるほど辞める確率は高くなりますが、他社では通用しない辞めなさそうな人材を採るのはそれ以上のリスクです。安定期における「リーダーシップ:マネジメント比率」は、上級マネージャークラスだと「2:8」とされます。2割ぐらいは思い切った賭けをしてみることをおすすめします。

次回につづく

ご感想はこちら

プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

著書

人事はあなたのココを見ている!

人事はあなたのココを見ている!

西尾 太 /
空前のリストラ時代、ビジネスマン人生の明暗を分けるのは、人事の評価である。...
人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準

人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準

西尾 太 /
「頑張っている」はもはや無意味。「成果」こそが揺るぎない価値になるこの時代...
出版をご希望の方へ

公式連載