こんな仕事絶対イヤだ!

人形劇で物を乞うさすらいの職人――長松小僧

2017.05.14 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第23回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

人形片手にアポ無しお宅訪問、かわいく物乞い

安永・天明(1772~1789年)の頃に出現した物乞いの一種。左手に『長松小僧(ちょうまつこぞう)』と名付けたおよそ60センチくらいの人形、右手には恵んでもらった米代を入れる酒樽を持っていた。各戸を訪ね回っては「長松小僧が参りました」と言って、人形を舞わせるパフォーマンスを行なった。

感覚的には腹話術師に近いだろうか。我々が連想する“物乞い”のイメージとはかなりかけ離れていると言えるだろう。また、わざわざ人形を使って間接的にお願いするあたりに、ちょっとした奥ゆかしさも感じさせる。「長松小僧もおなか減ってマジ死にそうだよね~?」的な。

ただ、その事情を勘案しても、「長松小僧が来る→米代をあげる」という関連性がいまひとつピンと来ず、「だからどうした」的ツッコミを禁じ得ないところである。ちなみに、“長松”というのは商家の子供や丁稚(でっち)によく付けられた名前のこと。“腹話術人形のヨシ坊”みたいなノリで呼びかけていたのだろうか。

この商売、10年以上もその姿を見ることができたというのだから、そこそこウケてはいた様子。気前のいい江戸っ子に助けられたり、ひょっとしたら子供たちの間でちょっとした人気者になっていたのかも知れない。小僧の人形を小道具として使う、というチョイスには可愛さを狙った意図があるのだろうが、どうせだったらもう2~3体用意しておけばバトルものとか、政界裏工作もの、実録不倫ものなどパフォーマンスの幅が広がったのに、と悔やまれてならない。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

著書

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