こんな仕事絶対イヤだ!

18世紀パリのメガ盛りヘアスタイル――メルラン

2017.11.01 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第72回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

特技はメガ盛り。お値段安めの髪結い見習い

18世紀後半のフランスでは、髪結い見習いのことを『メルラン』と呼んだ。女性はもちろん、男性も髪を三つ編みにしたり、何重にもカールさせたり、ポニーテールにしたりと様々なヘアースタイルを楽しんでいた。だからこそ、メルランにとって仕事の機会はそこかしこに転がっていたと言える。召使や見習いコックなど身分の低い者は、お手頃価格で髪をセットしてくれるメルランをこぞって利用した。

メルランの日常的な業務のひとつとして、染髪が挙げられる。髪粉(小麦粉)を髪にふりかけ、白く色付けするのだ。もともとは白髪をごまかすためだったようだが、次第にファッション化していき、いつしか若者であっても髪を真っ白にするのが当たり前になったという。髪粉を散らすときには、お客がむせないよう円錐形のマスクを装着させた。これは、えらく滑稽な光景であるとともに、オシャレ上級者への道が険しいことを物語る場面でもある。

そして、彼らの業務に欠かせないのが整髪である。この業務が骨の折れるものだった。なにせ、平成のキャバ嬢が髪を盛るがごとく、当時のパリジャン&パリジェンヌも高層建築のように髪を盛っていたのだから。もしこの時代にファッション誌があったらどんなキャッチコピーが付いたのか、意地の悪い想像を巡らさざるを得まい。我々が思いを馳せるファッションの都の実態は、想像以上にアレな感じだったということだ。まさに、革命前夜を彩ったひとときの狂騒であった。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

著書

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金持ちの道楽として庭で飼われた「隠遁者」、貴族の吐いたゲロを素早く回収する...
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