欧米エリートが使っている人類最強の伝える技術

職場で「悪いうわさ」を流された時の正しい対処法

Getty Images

悪いうわさが事実だった場合の弁明法1──「主観」の問題にする

では、さらに一歩進んで、悪いうわさが全くの事実であった場合はどうするのか? 例で言えば、実際に他社で部長の悪口を言っていた場合はどうすればいいのか? 
謝罪で済めばいいのですが、現実問題「認めたら終わりだ」という場合だってあるでしょう。

こうした場合でも、まだ争点を作る方法はあります。その一つが、次のように「主観」を利用して反論する方法。

「たしかに部長について冗談を言ったのですが、それが先方には悪口に聞こえてしまったのかもしれません」

つまり、こちらの不利な事実について、「そう見えたかもしれない」「そう聞こえたかもしれない」と、周囲の主観の問題にすり替えるのです。

こうした主観を利用した反論は、昨年よく目にしたパワハラの謝罪会見などでも利用されています。曰く、「パワハラだと“思われた”のなら謝罪する」といった具合に。

見方によっては見苦しい対応に思われるかもしれませんが、「意図してやったわけではない」と主張するための弁明としては確かに有効な面があり、だからこそ私たちもよく耳にするのです。

悪いうわさが事実だった場合の弁明法2──「正義」を持ち出す

全くの事実である悪いうわさに対して争点のつくるには、もう一つ代表的な方法があります。それが前回も解説した「正義」を持ち出す方法。例えば次のように。

「たしかに部長について軽口は叩きましたが、場を和ませようとしてのことです。先方との話をまとめるために必死だったんです」

これは、「部長の悪口は言った」を認めつつも、「話をまとめるためだった」という正義を持ち出して弁明する方法です。
このような、「私の小さな悪は、より大きな正義のためだった」という論法もまた、日常よく見られるものでしょう。

この正義を持ち出しての弁明の一つ注意点としては、持ち出す正義は当然、聞き手の認める正義でなければならないということ。例で言えば、「この交渉をまとめるためだった」という正義も、聞き手にとって正義でなければ「そんなことのために」と思われて終わりなのです。

うわさに対する「身の潔白度別」弁明術

最後に、また別のテクニックとして、弁論術の開祖・アリストテレスの著書『弁論術』を参考に、ギリシャ・ローマ時代から受け継がれている「うわさ・中傷・非難などに対する対処法」の一部を解説しておきましょう。

これは最も潔白な人間向けのレベル1から、ちょっと腹黒いレベル4まで「争点のつくり方」のテンプレートを紹介したもので、幅広いケースに当てはめて使える便利なものです。

ここでは、「総務の金子さんと付き合ってる」といううわさを流された状況で考えてみましょう。まずは事実じゃない場合、次に事実だがやましいことはない場合。

レベル1
「事実ではない」(全否定)
ex「それはデマだよ。だって、金子さんは別に恋人がいるんだから」

レベル2
「事実だが、実害はない」
ex「たしかに付き合ってるけど、それで誰かに迷惑をかけたわけじゃないだろ」

レベル2では、付き合ってること自体は認めたうえで「実害」という争点を持ち出し、批判をかわしています。このようにレベルに応じて争点を提示し、「うわさ・中傷・非難」を封じ込めていくのが、このテクニックのキモとなります。

では、実際に金子さんと付き合っているのを黙っていたことで誰かに迷惑をかけてしまった場合はどうすればいいのか。そうしたケースで非難をかわすのが次のレベルです。

レベル3
「実害はあるが、聞き手に対してではない」
ex「たしかに付き合ってるし、知らずに金子さんに告白した木村君には悪いと思ってるけど、無関係のオマエにそこまで言われる筋合いはないだろ?」

レベル4
「聞き手に実害はあるが、甚大ではない」
ex「知らずに告白したオマエには悪かったけど、そこまで言われなくちゃいけないほどのことをしたか?」

レベル3、4では実害があることを認めたうえで、「実害の対象」「実害の大きさ」に争点をずらしています。

この4段階が頭に入っていれば、「レベル1で弁明できなければ、レベル2に進んでそこで改めて反論する」という風に粘っていくこともできるでしょう。

このように、やましいにもかかわらず反論を積み重ねていくというのは、我々日本人の感覚からすると抵抗感があるかもしれません。しかし、マイナスを抱えながらも自らの正しさを丁寧に主張していく発想は、グローバルな現場のシビアな交渉などでも現実問題として必要になってくるものです。

もちろん、今回ご紹介したような技術は使う場面がないに越したことはありません。越したことはありませんが、そもそも、うわさ、中傷、非難というのは自分の行いとは関係なく出てきたりするもの。それならば、一種のお守りとして、こうした技術を頭に入れておくのも悪くないのでは、と今回ご紹介した次第です。

ご感想はこちら

プロフィール

高橋健太郎
高橋健太郎

横浜生まれ。古典や名著、哲学を題材にとり、独自の視点で執筆活動を続ける。近年は特に弁論と謀略がテーマ。著書に、アリストテレスの弁論術をダイジェストした『アリストテレス 無敵の「弁論術」』(朝日新聞出版)、キケローの弁論術を扱った『言葉を「武器」にする技術』(文響社)、東洋式弁論術の古典『鬼谷子』を解説した『鬼谷子 100%安全圏から、自分より強い者を言葉で動かす技術』(草思社)などがある。

著書

欧米エリートが使っている人類最強の伝える技術

欧米エリートが使っている人類最強の伝える技術

伝え方しだいで、どんな人でも思い通りに動かせる。その際、押さえるポイントは...
出版をご希望の方へ

公式連載