いずれにしても、悩む自分から目をそむけ、奥さんにも相談することもありませんでした。ですが、奥さんは、私のささいな変化に気づいていたようです。
変化の兆しは、私の「黙ってしまう癖」でした。仕事のことが頭を離れず、つい押し黙る時間が多くなっていたのです。そもそも私は、自分の会社の指針として「毎日上機嫌」を掲げ、家庭内でも機嫌よくいることを心がけていたのですが、無意識のうちの黙り、不機嫌さを出していたようでした。
私が黙っていると、奥さんは「いま何考えてるの?」と聞いてきます。「別に何も」と返答すると、「絶対うそ」と言って許してくれません。「機嫌悪いの?」「落ち込んでるの?」「そういうの言葉にしたほうがいいよ」「言わないとわかんない」と言われます。
そういうやりとりをしばらく経ていると、不思議と自分の悩みを、奥さんに吐き出せるようになってきました。やがてそうした会話は、いわば「お悩み相談室面談」と化していきました。そして、その1on1を通して、私は自分が悩んでいたことに気づかされ、問題と向き合うことができ、すごく気持ちが楽になっていったのです。
たとえば、クライアントからの理不尽なクレームで自責し続けていたことへの、奥さんの解答は明快でした。いわく、私は「人の悪いところを見ないようにしすぎてる」。そして「それを見なかったら、本当の解決はできないのでは?」とのこと。自分の息苦しさの原因を言い当てられ、まさにその通りだと思いました。
実際に私は、ネガティブな面から目をそむけてしまう傾向があり、それによって問題解決できなくなって身動きが取れなくなっていました。家庭内でも同様で、たとえば奥さんが「保育園の先生がおかしい」と言ったとき、その保育園の先生の問題について話すことなく、「人を悪く言うのはよくない」と奥さんに伝えてしまうほどです。
「自己肯定感」という言葉があります。これは、自分の良い面も悪い面も受け入れたうえで、自己を価値ある存在として肯定する感覚のことです。「自信」と似ていますが、ちょっとニュアンスが違います。私はこれまで、自分に自信があると思っていましたが、それはカラの自信に過ぎず、自己肯定感は低かったのだと思います。負の感情を抱く自分を、ダメな自分として肯定できずにいたのです。
その一方で、私の奥さんは自己肯定感が高く、揺らぐことがありません。世の中とどんなにズレていようと、他人に意見がぶつかることがあろうと、自己を肯定し続けることができます。
私は、そんな自己肯定感の高い奥さんとの1on1を通して、悩みや弱さをさらけ出すことができるようになり、結果としてそれは仕事にもよい影響をもたらしてくれるようになりました。
私は、よい意味での奥さんのしつこさによって、悩みや弱さをさらけ出せる「お悩み相談室面談」という1on1を家庭内につくることができました。私はそれで救われましたが、そうした環境を求めない人もいるでしょう。
「悩みを聞かれても面倒くさい」「自分の悩みは相手に理解されない」「悩みを相談しても軽くあしらわれるだけ」、そうした考えを持ってしまうのもわかります。そもそも男性は、他人に悩みを相談するのが得意ではないものです。同性の仲の良い友人にも相談しない人が大半でしょう。
ですが、やはり夫婦間で「お悩み相談室面談」ができるようにしておくべきです。理由は2つあります。
1つは、「お悩み相談室面談」を夫婦間で行うことで互いの弱みや悩みを認め合えるようになり、心理的安全性を確保できるからです。心理的安全性というのは、「自分の意見や気持ちを言っても拒絶・非難されない」「失敗しても大丈夫と確信し、安心して率直な発言や行動ができる」状態を指します。端的に言うと、「お悩み相談室面談」によって夫婦は互いに自分はここにいてよいという安心感を得て、自由に気兼ねなくなんでも言えるようになります。つまり、夫婦関係がギクシャクしづらくなるのです。
もう1つは、悩みをすべて吐き出すことで、ようやく目標や課題を共有できる下地が作れる、からです。
夫婦には、協力して向き合わなくてはいけない目標・課題があります。たとえば、子どもの教育問題、家のローン問題、老後の資金の問題など、それ以外にも日常的に無数にあります。そうした諸問題に向き合う際、互いの負担の偏りなどから夫婦は対立し、いがみ合ってしまうことも少なくありません。
いがみ合いの種は、相手への無理解から生まれます。だからこそ、互いの弱み、本音をさらけ出せる「お悩み相談室面談」が効果的なのです。