健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

仲良し老夫婦は幻想!?――歳をとると夫婦仲が悪くなる訳 

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歳をとればとるほど、夫婦の仲は悪くなる?

私の診療所には、高齢のご夫婦がたくさん通ってきます。そんな患者さんからよく耳にするのは、「旦那とは合わないね」「俺の話をなんでも否定するんだから」といった愚痴です。一見仲のいい夫婦に見えても、いまだに「合わない」という言葉を聞くと、夫婦円満の難しさを感じます。
年齢も重ねれば人間もできてきて、相手を受け入れられるようになると思いがちですが、実際は逆のようです。

高齢になればなるほど相手の意見を受け入れられなくなってしまうのには、理由があります。
新婚の頃であれば許せた相手の言葉や態度が、歳をとってくると許せなくなってしまう、というのはよく聞く話ですが、関係が落ち着いているはずの熟年夫婦でもそれは起こります。ついこの間まで「いいね」と同意されていたことが、何を言っても否定されるようになった、といったことが起きるのです。

これは、歳をとるほどその人の本来の性格が強く出るようになってしまうためです。
遺伝子の影響は子供のときに強く出るように思ってしまいますが、子供のときは「親」という環境要因が大きく影響して本来の性格は出てきにくいのです。その一方で、大人になってさまざまな制約がなくなってくると、その人本来の遺伝的な要素が強く出てきます。高齢になって理性的な部分の抑制が利かなくなるというのもあり、その人の本来の性格が強く出てきてしまうのです。
歳とともに、以前はやさしかった人が怒りっぽくなり、否定などしない人が何を言っても否定してくるようになるというのは、じつはよくあることなのです。

それに加えて、この「否定してくる」というのは、じつは人間が本来持っているリスクを管理する本能のようなものでもあります。
新しいことには危険が伴い、自分を守るためにまずは否定から入ってしまうのです。
家族が何を言っても否定してくるようになったなら、その人本来の性格が出てきているのかもしれませんし、高齢になってリスクを下げるために、まずは否定しているのかもしれません。「新車を買おうと思う」と旦那さんが言えば、「いまさら新車などもったいない、どうせぶつけてしまうでしょ」というような言い方をされるわけです。

否定から同意へ

新車の例で言えば、「最新の車は安全装置があって、暴走しないようになっている」と説明することで相手の理解が得られ、否定から同意に変わってくれることもあるでしょう。相手は、ただ感情的に言っているわけではなく、心配や不安から否定しているだけということも多いのです。
なので、否定されたことでカッとなってはいけません。なぜ相手が否定するのか考えてみましょう。逆に、否定に対して怒りで反応すれば、同意を得られることは少ないでしょう。

ただし、こうしたすれ違いから対立状態になってしまうことは、高齢になればなるほど起きやすくなってきます。これは先ほども書きましたが、新しいことに対しての理解力が低下しているためです。また、新しい情報に触れる機会がそもそも少ないことが根底にあると言えます。だれでも知らないことには不安を抱くものです。

では、どうすればいいのでしょうか。
会話をする相手が夫婦だけではなく、たとえばお子さんでもいれば、いろいろな情報を手に入れることができます。触れる情報が多ければ、新しいことに対しても寛容になれるのです。

子供や孫との交流は、老夫婦の孤立を防いでくれるだけではありません。情報に触れさせてもらえるという意味でも、重要な意味を持ってくるわけです。
スマホを買うことはできても、ちょっとした使い方がわからないときはあるでしょう。そんなときでも、子供たちと接点を持っていれば簡単に解決できるはずです。こうしたささいな交流が、老夫婦の対立を防ぎ、脳の衰えを防ぐ可能性があるのです。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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