ストレスに強く、自己肯定感が高くなる おばけメンタル

もう後悔しない! 最高の決断をするためのヒント

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はじめに

「事実は小説よりも奇なり」
現実世界に起こる出来事は、往々にして小説の世界に起こることよりも不思議で、奇怪である。そんな意味の言葉だ。
昔の人の言うことは、なかなか馬鹿にできない。本当にそう思う。
私の場合は、社会人になってから「いや、そうはならんやろ」「どうしよう、説明されてるのに謎が深まる」などの感想を抱くような、様々な奇々怪々とした出来事に見舞われるようになった。

最近もあった。
都内の喫茶店で、アイスコーヒー片手に休憩を嗜んでいた最中のことだ。
私の隣のテーブルに、老齢の夫婦が座っていた。静かだが、少しだけヒステリックに、奥さんが旦那さんを責め立てていた。

「どうするんです。この出費」
「……」
旦那さんはうつ向いている。奥さんが続ける。
「信じられません。こんなことで財産を失うなんて……」

奥さんは半ば呆れ気味に、椅子に力なく寄りかかり、辟易とした表情で旦那さんを詰(なじ)った。
旦那さんはチカラなく、
「申し訳ない……」
とだけ、まるで虫の鳴き声のように発して、また地上1メートル程度の虚空をうつむき眺めている。もしかしたら、何か良からぬ詐欺や、トラブルに巻き込まれたのかもしれない。当事者でも関係者でもない、周辺のテーブルに座る別の客たちが、目と耳を背けるように手元のアイスコーヒーを一斉に口に運び始めた。

一呼吸程度の時間を置き、奥さんが吐き捨てた。
「いくら孫がアイドルになったからって、孫の全国握手会に100万使う人、初めて見ましたよ」

私を含む夫婦の周辺のテーブルすべての客がアイスコーヒーを噴き出した。
全員口元を拭えど、拭えない奥さんのコメントの謎。圧倒的な情報量と破滅的な意味の不明さである。なんだこのインパクトは。説明されてもないが、仮に説明されても理解できる気がしない。学生時代の苦手科目であってもここまでの強い疑問はなかった。試験に出てもきっと解けない。

旦那さんは続けた。
「いや、孫と推しが一緒というのも、ある意味では幸せかと思って……」
「推した相手は間違ってませんよ。でも握手会なら個人的にやってください、孫なんですから。会いに行けば握手くらいしてくれるでしょう」

旦那さんに勝ち目はない。小さく頷き、反省の色がうかがえる。
愛ゆえに飛び出た100万円、孫に伝われ100万円、間違ってるぞ100万円。
しかし、どんな思考回路なんだ旦那さん。年齢の割に「推し」だなんて現代的な言葉を使いこなし、かつ愛ゆえの握手会課金100万円。重い、重すぎるわ。胃にもたれる愛の重さである。もし愛に二日酔いがあるなら明日絶対にトイレから離れられない勢いの質量の愛である。まさに100万円の破壊力がある二日酔いである。

奥さんが背筋を伸ばしながら、小さく発した。
「次からは、勝手に使わないで。しっかり色々な目線で考えてあげてください」

浅草にある小さなレトロ喫茶店での、奇怪で愉快な出来事だった。

これは極端な例かもしれないが、面倒なことに、選択肢を選べる時に限って人間は間違える。
世の中には、独善的な考えや独走の勢いで、選択ミスや過ちを犯す人がいる。哀しいかな、私もあなたもきっとその一人だ。

しかし、そもそもおかしい。
この旦那さんのように、はじめは「これは正しい!」と思ったのに、なぜいつの間にか間違っているのか。
最善で最速で最高の答えを出しても、間違っていることは多い。さらに、選択の余地が少ない時に限って、間違った選択肢を選んでしまうケースもある。

そんな中で、どうすれば正解に至る確率が少しでも上がるのか? それを今回はテーマとして取り上げたいと思う。

今の自分の行動は、いつどう見ても正しいかを考える

私は、普段都内のコンサルティング会社に勤めているが、入社当時、先輩から「何かしらの決断を迫られた際に、常にその決断や結論に理由をつける癖をつけろ」と教わった。
それは「コンサルティングサービスの提供において、顧客に提案の根拠を説明できるようにするべき」という考え方に基づくもので、まあ面倒なコンサルティングサービスの進め方の基礎手法である。

一方で、見方を変えるとこれは「必ず自身の決断や結論に疑いの余地を持て」という意味も孕んだ、人生単位でも役立つライフハックでもあったのだ。

なぜかというと、自身の出した結論が本当に正しいかどうか、多角的な視点で結論を見つめると、視野が広がるだけでなく結論の根拠も補強できるからだ。

人というものは都合のいい生き物で、自分が出したい結論に対して根拠や意味をつけるのは得意だ。しかし、無意識のうちにそれ以外の結論を考えないようにする仕様も備えている。
直感による判断に従うと言えば聞こえはいいが、十分に吟味されていない結論を出しやすい生き物とも言える。
吟味されていない結論は、抜け漏れを孕む確率が高く、結果として結論の不確実性が増す。
それが最終的に選択ミスや大きな損失に繋がっていく。しかし、これが回避できるとしたら? 自分の出した結論を少し疑うだけで、ミスや損失を撲滅できるとしたら、どうだろうか。

今日はそんな技術を皆さんに伝授したい。

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プロフィール

おばけ3号
おばけ3号

作家・コラムニスト&インフルエンサー。1990年生まれ。
X(旧Twitter)にて、フォロワー数10万人超のインフルエンサーとして日常の愉快な話や、人々や社会とのコミュニケーションの関わり合いの手法を発信。聡明かつ鋭い視点と分析力に富んだ意見で、多くの企業・メディア・働く若年男女層の評価を得ている。
その実像は都内のコンサルティング会社に勤務する、現役のコンサルタント。
大手上場企業に対するSNS活用コンサルティングサービスの提供や、SNS活用セミナー登壇など多くの実績を擁する。
2020年より、タウンワークマガジン(リクルート社)へのコラム掲載や、株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーションとのコラボレーション商品の開発販売等を実現し、自著『「お話上手さん」が考えていること 会話ストレスがなくなる10のコツ』をKADOKAWA社より発売。

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