健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

老眼の始まりは30代!?――ホントは怖い「目のかすみ」との向き合い方

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スマホで文章を読んでいると目がかすんで、「ば」なのか「ぱ」なのか、はっきり見えない。爪を切ろうとして、爪先がよく見えない。そうしたことが年齢とともに増えてきます。
目がかすみが頻繁に起きるようになると、歳をとってきたのを実感すると同時に、「目の病気なのかも……」と心配になります。

目がかすむ原因は老化だけではなく、いくつかあります。中には、治せるもの、早く治療が必要なものがありますので、ちゃんと原因を調べる必要があります。

目がかすむと何が起きてくるのか

脳には、五感からいろいろな情報が入ってきます。そんな中でも、目を通して入ってくる「視覚からの情報」は、五感からの情報の中でも重要なものです。というのも、人間の感覚の中で視覚がもっとも発達した感覚と言えるからです。

大勢の人の中から瞬時に友人を探しだせるのは、人間の視覚情報処理の能力が発達したためです。多くの動物は嗅覚で仲間を識別しますが、人間のように複雑な社会の中で生活をしていく場合は、嗅覚よりも視覚の識別能力を使うほうが有利です。
たとえば、毎日生活をともにしている家族を「本当に昨日の人と同じ人なのだろうか……」と疑い、動物のように匂いで判断することはないでしょう。人間の顔の識別能力は非常に発達しているので、目で見ただけで、瞬時に意識することなく認識できます。それほど視覚というのは人間にとって重要な機能なのです。

そうであるからこそ、目がかすんでくると素早く認識することができず、誤った判断をしてしまう原因になります。さらに脳に十分な情報が入ってこないことになり、脳の老化を早めてしまうことになりかねません。このように、目がかすむのを「歳だから仕方ない」でごまかしていてはいけないのです。

目がかすむ主な原因

1)白内障

眼球でレンズの役目をしている水晶体が濁ってくるのが、白内障です。50代の約半数、60代の7~8割、70代の8~9割、80代以上になるとほぼ全員に白内障が見られます。歳とともに白内障になる危険性は増え、毎年100万人以上が手術を受けています。

なぜ白内障になるのか、まだはっきりとわかっていません。
初期の段階では目薬など使いますが、なかなか効果は期待できません。結局、手術しか方法がないようです。ただし手術のタイミングを自分で決めるのは難しく、自己判断ではどうしても先送りになりやすくなります。
なお白内障が進行すると、水晶体が石のように硬くなり、手術が難しくなります。もし手術をする必要があるならば、あまり高齢になる前にしたほうがいいでしょう。

2)緑内障

緑内障は、眼球の後ろにある視神経が障害を受ける病気です。症状としては、気づかないうちに視野の一部が次第に失われ、さらに症状が進行していくと見えない範囲が広がっていきます。
眼圧(眼球の硬さ)が高いと緑内障になりやすいと考えられていますが、必ずしもその限りではありません。じつは、日本人には眼圧が正常な正常眼圧緑内障がとても多いのです。
緑内障自体は視野検査をすれば診断ができますが、そもそも病気の初期では患者さんが視野の欠けたことを自覚することはまれです。
こうした事情から、緑内障はなかなか早期発見が難しいのです。白内障と同じように、いまのところはっきりとした原因もわかっていません。治療も点眼薬で眼圧を下げていくのが主体になります。

3)糖尿病網膜症

白内障、緑内障のほかにも、目のトラブルの原因になるものがあります。その一つが糖尿病です。糖尿病は、からだの中でも細い血管に影響が出る病気です。眼球の網膜は高血糖の影響を受けやすい箇所で、糖尿病によって視力が低下した人の眼底を調べてみると、網膜の血管に影響を受けていることがわかります。
目がかすむという漠然とした症状であっても、糖尿病性網膜症ということもあるのです。

4)老眼

年齢とともに目のピントを素早く合わせられなくなってきます。これは眼球のレンズの調節がうまくいかなくなっている証拠です。加齢によってレンズの役目の水晶体が硬くなってきて、近いところが見にくくなってくる、これが老眼の症状です。
老眼は早い人では30代半ばから出てきます。手元が見にくくなって、目のかすみという自覚症状が現れます。これは老眼による副次的な症状ですが、無理をして近くを見ていると、肩こりの原因になったりします。また、眉間にシワを寄せて見ることになり、老け顔で険しい顔つきになって印象が悪くなるようです。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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