【中東の難しさ】アラブ諸国がガザ戦争に冷たい理由 一方的な中東への見方では、問題を混迷化させる

2024.02.29 Wedge ONLINE

 ワシントン・ポスト紙は、バイデン政権の中東政策は複雑すぎて上手くいかない、優先順位を決めるべきであり、まずイランの問題に対処するべきであるとする、トランプ政権時の安全保障問題担当の大統領補佐官だったボルトンの評論‘Biden’s biggest problem in the Middle East is of his own making’を2月6日付で掲載している。要旨は次の通り。 

殺害された米兵3人の遺体の帰還を見守るバイデン大統領(AP/アフロ)

 中東における現在の困難な状況はバイデンが自ら招いたものである。彼は、余りにも多くの間違った、混乱した、矛盾する戦略目標を追求し、全ての目標について不十分か望まない結果をもたらすだろう。米政府は、目標について願望でなく、優先順位をつけて実現するための明確な戦略を持つ必要がある。

 バイデンの戦略目標は多過ぎ、かつ欠点がある。例えば、パレスチナ自治政府にガザを統治させるとのことだが、パレスチナ自治政府は旧態依然で腐敗にまみれていて弱体化し、ますます不人気だ。このような自治政府にガザの統治を任せられるのか。

 サウジとイスラエルの国交正常化はイランへの脅威を共有しているがゆえに進んでいた。現在の紛争により交渉は破綻してはいないが、イスラエルに対するイランの「抵抗の枢軸」が強まっている。これは、イスラエルとサウジの脅威認識が正しかったことを意味している。

 サウジと他のペルシャ湾岸のアラブ諸国は、今回の衝突がアラブ・イスラエル紛争やパレスチナ・イスラエル紛争ではなく、イランによるイスラエルの戦争であると公に発言するべきである。また、パレスチナ独立国家の樹立が実現しなくても、サウジの一部の隣国がイスラエルを承認する妨げとならなかったし、サウジがイスラエルを承認する妨げともならないだろう。

 昨年の10月7日以降、米国とイスラエルは、紛争の拡大に直面している。問題は、その原因がイランだということだ。

 イランの介入――テロリストへの武器の供与、訓練、資金援助――と核武装を止めさせなければならない。さもなければ中東の永続的な平和と安全は来ない。イランは痛い目に遭わない限り米国の力を恐れないであろう。

 優先順位を決める事が極めて重要であり、かつ、バイデン政権とは真逆にストレートに対応するべきである。米国とイスラエルは最初にイランの多方面の妨害工作に焦点を絞り、しかる後に他の問題に積極的に取り組むべきだ。

 公式に何と言おうとアラブのリーダー達はイスラエルとの関係を強化することが、自分達の安全保障にとって重要だということを理解している。イランに対抗する同盟を形成せずにいることで、バイデンが求める多くの目標の実現をより困難にしている。

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サウジとイスラエルは国交樹立できるのか

 トランプ政権時の国家安全保障問題補佐官でアンチ・イランの急先鋒であるボルトンの論説であるが、中東の諸問題を解決するためにはまずイランに対処しなければならないというのはアンチ・イランの真骨頂だ。

 3人の米兵が殺害されたことへの報復に際してバイデン政権が色々な問題に気を配り過ぎていて効果が減じているというボルトンの指摘は正しい。特に、バイデン政権が予めイラン本土は攻撃しないと宣言してしまったので、イランに対する抑止力の回復にはならないであろう。

 イランは米国との直接衝突を恐れているのでイラン本土が攻撃されるかも知れないと思えば、その行動はある程度抑制されたと思われる。

 他方、ガザの衝突が続いているために停滞しているがパレスチナ独立国家を認めなくてもサウジとイスラエルの国交樹立は可能であるというのはどうであろうか。実際、2月6日にサウジ外務省はパレスチナ独立国家が承認されるまでイスラエルとの関係正常化は無いという声明を出している。