【軍の支配からの転換】パキスタン総選挙で起きた国民の意地、生まれたいびつな連立政権、不安定続きIMF支援は不透明

2024.03.03 Wedge ONLINE

 ワシントンポスト紙の2月11日付け社説‘Pakistan’s shocking election result shows authoritarians don’t always win’が、2月8日のパキスタンの議会選挙で、大方の予想を裏切り、イムラン・カーンの党PTIの系統の候補が最大多数を獲得したことは舞台裏で政治の糸を引く軍に対するこれまでにない挑戦であること、PTIを排除した如何なる連立政権が出来ようともパキスタンの不安定性は継続することなどを論じている。要旨は次の通り。

2024年2月9日、パキスタンで、選挙の自由へ公正な結果を求める抗議行動(ロイター/アフロ)

 イムラン・カーンの権力奪取を阻止しようとする軍の試みは裏目に出た。数十年の間、軍の支配的地位がこれほどまでの挑戦を受けたことはない。

 昨年8月にカーンが逮捕されて以来、緊張は高まりつつあった。投票日の数日前に彼は追加的に二つの禁固刑を言い渡された。しかし、彼の政党PTI(パキスタン正義運動)が266議席のうち93議席を獲得してリードしている。

 PTIの得票は単独多数には満たない。しかし、長期の連立政権樹立を巡る取引に、そして恐らくはカーンが2022年に軍と仲違いして首相の座を追われて以来の更なる混乱に、パキスタンを転落させるには十分である。

 パキスタンの76年の歴史を通じて、軍は直接的にあるいは舞台裏にあって統治し、文民政府をその都合に応じて前面に押し出しあるいは倒壊させて来た。今回、軍は計算違いをしたかも知れない。

 軍はPTIの指導者達を拘束し、彼等の家庭を襲撃し、彼等の親族に嫌がらせをした。明らかに威圧の下で、多くの指導者がPTIを糾弾し、カーンから距離を置いた。ジャーナリストはPTIあるいはカーンの名前に言及しないよう命ぜられた。

 しかし、上記の努力にかかわらず(あるいは、その故に)、選挙は最も競争の激しいものとなった。初めて、軍の意中の候補が最多数の票を得ることに失敗した――今回の場合はPMLN(パキスタン・ムスリム連盟ナワズ・シャリフ派)のナワズ・シャリフであるが、得票数2位の75議席にとどまった。

 軍はカーンを気心の合う人間と当初見做していたが、程なくして彼の根強い人気、自由奔放な外交政策、敬意の欠如に、始めは苛立ち次いで我慢出来ないこととなった。カーンはますます反米に傾き、バイデン政権を苛立たせた。

 ロシアのウクライナ侵攻後、彼はモスクワにプーチンを訪問した。その間、パキスタンの民主主義あるいはその残骸に対する米国の無関心さの印象は避け難いものとなった。

 どのような連立政権がまとめ上げられようと――最も有りそうなのは反PTIの政党の支持を得てシャリフが率いる政権であろう――その正統性の問題に苦しむであろう。パキスタン経済は壊滅状態にあり、国際通貨基金(IMF)の緊急支援に頼っている状況であるので、更なる不安定性が最も有りそうな結果である。

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絶たれなかったカーンの政治生命

 議会下院の選挙前にはパキスタンの次の首相はナワズ・シャリフだと思われていた。彼は汚職事件で有罪判決を受け、ロンドンで4年の事実上の亡命生活を送っていたが、昨年10月に帰国した。そして、1月8日、最高裁は汚職事件を巡って公職資格を剥奪した2018年の最高裁の判断を取り消し、政治への復権を認めた。

 シャリフが4度目の首相に復帰するためのお膳立てが整いつつあるように見えた。彼には軍の支持が保証されていた。他方で、軍が敵視するイムラン・カーンは牢獄につながれ、彼の党PTIは軍の圧力で空洞化を余儀なくされ事実上解体されていた。