「日経平均株価最高値」を現時点で喜んではいけない3つの理由 日本経済、東証が抱える根が深い問題とは?

2024.03.11 Wedge ONLINE

 3月4日の東京株式市場で、日経平均株価は史上初の4万円台を乗せた。その後は、米国市場の下げに引きずられて4万円を割り込んだが、6日になると、再び終値では4万90円と4万円台に戻した。とにかく、34年にわたって回復できていなかった1989年12月29日の20世紀の最高値(3万8915円87銭)を更新し、当時は届きそうで届かなった4万円台が実現したのである。

日経平均株価の4万円突破は、それ自体を喜ぶことではない(森田直樹/アフロ)

 このニュース、久々の明るい話題として報じられており、岸田文雄首相などは「日本経済に勢いが出てきた」などと?はしゃいで?いるが、冗談ではないと思う。この話題自体、現時点で喜んではいけない。何が問題なのか、今回は、3点にわたって議論してみようと思う。

国内経済にはまわらない好業績

 1つ目は、今回の株高は日本国内の経済が好調であることを反映したものではないということだ。まず、自動車産業に代表される日本発の多国籍企業の多くは、極端なまでの空洞化を進めている。

 空洞化とは、まず売上の海外比率が8割とか9割という海外市場への依存があり、また徹底した現地生産化のために最終組立もほとんどが海外となっている。自動車の場合は、その結果としてデザインも国外で開発するし、自動運転車(AV)、電気自動車(EV)などの開発もテック人材の豊富な海外で行う場合がある。

 いわゆる総合商社にも似た構図がある。かつては輸出入のノウハウを一手に引き受けて、国内企業と国際市場を仲介して日本の国内総生産(GDP)に貢献していた商社だが、現在は違う。世界に広がるさまざまな投資案件を管理する、いわば業界別に深く関与するタイプの投資ファンドの集合体となっているのだ。したがって、その業績は海外の景気動向に依存している。

 このように極端に海外依存体質を持つ日本発の多国籍企業は、現在の円安の利益を享受している。それは、円安が国内のコストを下げて、外貨建ての売上を大きくするといった、かつての「世界の工場」であった日本経済の構造とは異なる。

 海外で発生した売上利益が「円安のために膨張して見えるだけ」ということだ。多くの企業が「史上空前の好決算」だとしている一方で、国内の賃金は上がらず、非正規労働が減らないのにはこのためだ。

 また、そもそも日本国内での旺盛な設備投資需要がない中では、海外で得た利益は海外に再投資されるのであり、国内への還流は限られる。昔はそれでも、日本で採用された人材が、世界各国に駐在して現地法人の経営を行っていたが、現在は「現地人材に任せる」のが主流となっており、荒稼ぎをする海外駐在員というのもいなくなった。

 つまり、日本株を構成している中で大きな割合を占める日本発の多国籍企業の場合は、市場も、製造元も、そして利益の再投資も、人件費もすべて海外に落ちる。その業績は国内経済、つまり日本のGDPとはダイレクトにはリンクしていないのである。史上最高の好業績、とか株価の新記録といっても、国内経済が一気に明るくならないのはこのためだ。

4月以降に様相は変わるか

 2点目は、株価の形成も海外に依存しているということだ。まず、現在旺盛に日本株へ投資している欧州の投資家、そして米国の投資家の場合は、どうして日本株に投資しているのかというと、これは純粋に投資目的である。もっと具体的には、日本株の場合は「株価と為替レートの掛け算」になるので、ボラタリティ(上下の変動)が大きく取れるということがある。

 そのような外国人投資家は、どうして強気で日本株に投資しているのかというと、現在は円安が進行しているからだ。円安のうちに日本株を仕込んでおいて、円高になったら売る、そうすれば利益を確定できる。もちろん、円高になればすべてが反転するので日本株は下がるが、その前に売り抜ければ稼げるという思惑は確実にある。