マクロンがウクライナへの派兵も示唆した”真意”、支援の手詰まり露呈と欧州分裂の恐れ

2024.03.29 Wedge ONLINE

 2024年2月28日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、ウクライナ支援のために派兵も選択肢として排除されないとのマクロン仏大統領の発言が、その意図に反して、欧州諸国内の分裂を露呈しているとLeila Abboud同紙パリ支局長が論じている。

EU首脳会議終了後、記者会見に臨んだフランスのマクロン大統領(AP/アフロ)

 フランスのマクロン大統領は、ロシアの脅威に対する欧州で最もタカ派的発言者の1人となった。2月26日、彼はタブーを破ってウクライナへの地上軍派遣を否定することを拒否し、欧州連合(EU)諸国首脳とロシアを驚かせた。欧州諸国は慌ててマクロンの示唆を否定したが、これは外交政策上の失言ではなく、記者団からの質問に対する意図的な回答だった。

 パリでウクライナ支援国会議を主催した後、マクロンは、「ロシアがこの戦争に勝てないようにするために、必要なことは全てやるつもりだ」と述べ、軍隊の派遣については「コンセンサスは得られていない」と認めつつも、同盟国の間では議論されており、この考えを排除すべきではないと主張した。

 マクロンがロシアの侵攻を食い止めようとプーチンと最後の交渉をした22年2月とは大違いだ。ロシアによる攻撃の後でさえ、彼は、ロシアに「屈辱」を与えてはならず、和平の見返りとして西側が安全を保障することが必要だと主張していた。その消極的な姿勢は、東欧同盟国のフランスに対する信用を失墜させた。

 ロシアのウクライナに対する容赦ない攻撃は、マクロンの考え方を一変させた。彼は、ウクライナがいずれ北大西洋条約機構(NATO)に加盟するという考えに傾き、東欧諸国に対してプーチンの脅威について彼らが正しかったとして謝罪した。

 マクロンの問題は、フランスにはウクライナを守るために「必要なことなら何でもする」手段がないことだ。フランスは中規模の軍隊を持ち、EUで唯一の核武装国であるが、財政が逼迫しているため他の支出を削減しない限り防衛に資金を投下する力はない。

 ドイツをはじめ同盟国は直ちに派兵の可能性を否定して、マクロンの構想と距離を置いている。マクロンは一貫性を欠いている。

 フランスは数カ月にわたって、ウクライナがEUの資金を使ってEU域外から砲弾を購入することに反対してきた。マクロンは2月26日になってようやく域外から購入するというチェコの計画を支持した。

 フランスはウクライナへの武器供与がドイツ、北欧諸国、英国等よりも少ないとして批判されている。今年フランスがウクライナに約束した軍事援助はドイツの半分以下とさえ言われる。

 マクロンは、西側諸国が軍隊をウクライナに派遣することを否定しないのは、「戦略的な曖昧さ」を再確立し、西側の支援が弱まるというロシアの想定を再考させるためだと述べた。しかし、この事は、もっと懸念すべきこと、即ち、ウクライナをどこまで支援すべきかで、同盟国の意見が分かれていることを明らかにしてしまったようだ。

 *   *   *

際立たせた欧州の分裂

 マクロン仏大統領は、ウクライナへの派兵という選択肢を排除しないと述べたのは、戦略的曖昧さを再構築し、西側がウクライナに派兵することはなく西側の支援は弱まって行くとのロシアの想定を変えさせるためだと説明した。これに対して、ドイツ、英国、イタリア、スペイン、ポーランド、チェコ等からは、マクロンの発言を否定して、ウクライナへの軍隊の派遣や駐留の可能性はないとの発言が相次いだ。

 米国のバイデン大統領は、ロシアによるウクライナ侵攻の前に早々と米軍の派遣の可能性を否定している。他方、ロシアは、西側がウクライナに介入すればロシアとNATOの直接衝突となると脅している。