<インフレ率200%超の退治>アルゼンチンの経済改革は奏功するのか?

2024.04.04 Wedge ONLINE

 アルゼンチンのミレイ大統領の抜本的な経済改革に関する法案が議会で承認を得られず、大統領令で実施可能な措置に留まっており、インフレの継続や景気の後退が進む中で、国民がどこまで耐えられるか。ウォールストリート・ジャーナル紙コラムニストのオグラディが、アルゼンチン情勢の今後の展望に関し懸念する論説‘Does Argentina’s Milei Fear Dollarization?’を投稿している。要旨は次の通り。

アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領(ロイター/アフロ)

 2月、アルゼンチンの下院で664条からなるオムニバス法案が否決されたことを受け、ミレイ大統領は、その改革アジェンダを前進させるため、州知事たちを巻き込む新たな政治戦略を打ち出した。知事の多くは、政府が享受している国民との蜜月関係のお陰で、ミレイを支持してはいる。

 特別な利害関係者に支配される議会を迂回し、国民と直接話をするのは賢明な行動だ。しかしそれは、金融安定化を遅らせるという決断を伴っている。

 ミレイは、まず政府の財政均衡を優先し、それによってペソがより安定すれば、それに伴ってあらゆる良いことが自然についてくることを期待している。その間、国民は、彼が退治すると約束した高インフレを我慢しなければならない。彼は成功するかもしれないが、リスクを犯している。

 アルゼンチンの舵取り役として、市場の道徳性や自由の実利的な意義を主張する人物がいるのは結構なことだ。

 しかし、年間3桁のインフレは依然として継続しており、ミレイの選挙公約であるドル化と中央銀行の閉鎖は、現在では中期的な目標となっている。1月に達成された財政均衡は持続可能ではなく、景気は後退しており、市場の予想する年間200%を超えるインフレ率は自慢できるものではない。

 外貨準備が90億ドル増加したと言っても、これで自信が急上昇したとはいえない。これは、ペソを刷ってドルを買い、高金利で国債を発行してペソを吸い上げた結果なのだ。

 インフレは、貯蓄者、労働者、消費者及び年金受給者に対する隠れた税金だ。ペソの物価が高騰するにつれて、国民の購買力が低下し、国民はより貧しくなっている。しかし、ペソの対ドル価値が下がると、政府のバランスシート上のペソ債務も減少する。

 通貨切り下げは、税金に加えて国民から資金を引き出す秘密の方法である。政府から供給業者や公共事業への支払いも実質的に価値を失う。

 従ってインフレは、多額の負債を抱える政府にとっては好都合だが、それ以外の人々にとっては不利な条件となる。もしかすると、カプート経済相やかつての失敗政権からの再就職組は、ペソ印刷機を持たない政府の一員であることを恐れているのかもしれない。

 ミレイが受けた変革の授権は永遠に続くものではない。インフレ解決に時間がかかればかかるほど、別の問題が生ずる可能性が高くなる。

 アルゼンチンが繁栄を取り戻すには、銀行システムにドルが流入する必要がある。それは ミレイが為替、資本、貿易の規制を撤廃し、国民が選んだ通貨で貯蓄、投資、ビジネス、消費ができるようになれば実現する。アルゼンチンが自らをドル化することになる。

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持続可能性はない

 この論説は、ミレイ大統領のとりあえずの経済対策が一定の効果をもたらしていることを評価しつつも、インフレの継続や景気後退の兆候から持続可能性が無く、国民がいつまで耐えられるかは疑問であり、早期に為替、資本、貿易の規制を抜本的に緩和すべきと主張している。

 しかし、そのような措置を実施するには議会の協力が必要であるが、ミレイが既成政治家を過度に攻撃する政治姿勢が障害となり、むしろ自らの手を縛っているようにも見える。ミレイは、議会対策よりも各州知事の協力を得る方向に重点をシフトしたが、引き続き議会での支持基盤を拡大することと、市場や投資家の信頼を得る努力が必要であろう。