不登校はなぜ増え続けるのか?不登校35万人時代が問いかける存在意義…学校は通うものではなく“学びの拠点”へ

2025.12.11 Wedge ONLINE

 文部科学省が公表した令和6年度「児童生徒の問題行動・不登校等に関する調査結果」に対し、報道各社は一斉に「全国の小中学校における不登校児童生徒が35万人を超え、過去最多を更新した」と報じた。単に「多い」といった感覚的表現を超え、学校制度の持続可能性そのものを問い直す数字であると言ってよいだろう。

(takasuu/gettyimages)

長期欠席者と不登校者

 文科省がそのポイントをまとめた「令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」によれば、まず、病気・経済的理由を含む、すべての理由による長期欠席者(年間30日以上)は、全国の小・中学校で50万6970人となり、過去最多を更新した。このうち、調査上「不登校」と定義される、病気や経済的理由以外の理由で年間30日以上登校しない、またはできない児童生徒は35万3970人で、前年度の34万6482人からさらに増加している。

 不登校児童生徒が在籍児童生徒全体に占める割合は3.9%、中学校に限れば6.8%に達する。別の見方をすれば、中学生およそ15人に1人が「不登校」であるという計算になる。

 不登校の推移(図1)を見ると、2013年度以降12年連続で増加し、ほぼ3倍に近い水準まで伸びている。もはや単年度の変動だけでは説明しきれない構造的な変化が生じていると見るべきであろう。

「一部傾向の変化」は改善なのか

 一方で今回の調査結果について、文部科学省は、「不登校児童生徒数の増加率の低下等、一部傾向の変化がみられる」とコメントしている。それは以下の2点を踏まえた分析である。

・不登校数の増加率が前年度の15.9%から24年度には2.2%へと大きく鈍化している。

・不登校児童生徒のうち「前年度は不登校としてカウントされていなかった新規不登校」の数も、小学校で7万419人(前年度7万4447人)、中学校で8万3409人(前年度9万853人)と、いずれも減少に転じている。

 単に「過去最多」という見出しだけでは見落とされがちなポイントである。

 ただし、こうした「増加率の鈍化」や「新規の減少」は、「12年度以降の長期的トレンド」と比較すると、まだ微細な変化の範囲にとどまる。すなわち、「増加という大きな流れは続いているが、その伸び方に変化が出始めている」というのが現時点での冷静な分析といえるだろう。

「登校拒否」から「不登校」へ:概念と定義の変遷

 不登校をめぐる議論を理解するには、用語・定義の変遷を押さえておく必要がある。筆者が教員として現場に立ち始めた昭和60(1980)年代は「登校拒否」という言葉が一般的であった。そこには、「本人の「拒否」=意思の問題」「家庭の養育姿勢の問題」といったニュアンスが色濃く、社会・学校環境の側に潜む要因は十分に可視化されていなかった。

 転機となったのは、98年の「不登校(登校拒否)に関する調査研究協力者会議報告書」である。従来の「登校拒否」という呼称は、本人の意思や性格に原因を求める誤解を生みやすく、背景の多様な要因が見えにくくなるとの指摘がなされた。

 そのため、より中立的で包括的な概念として「不登校」という用語を用いることが提案された。こうした流れの中で、「不登校は子どもの心のSOS」であるという考え方が社会に広がっていくことになる。

 近年では、19年の通知(元文科初第698号「不登校児童生徒への支援の在り方について」)において、不登校の定義を改めて確認するとともに、病気や経済的理由による欠席とは区別して扱うことが示された。また、不登校を問題行動として否定的に捉えるのではなく、背景にある多様な要因を踏まえ、学校復帰を前提としない支援に努めることが強調されている。