官邸幹部「核保有発言」の背景には何があるのか?日本でも韓国でも続く核協議、安全保障政策の実情

2025.12.25 Wedge ONLINE

 日本の官邸幹部が核保有を容認する発言を行った。発言の背景には、周辺国の核保有やそれに向けた動きがある。

 実は日韓とも、発言の少し前に米国との核協議を行っていた。今回は米韓、日韓それぞれの核協議を比較することで、安全保障の上流政策について見ていきたい。

トランプ政権の思惑とかみ合う李在明政権

 12月11日、米国ワシントンDCで第5回米韓核協議グループ(NCG)会議が開かれた。前回から11カ月ぶり、李在明政権とトランプ第2次政権という新体制下での初開催だ。政権が変わっても米韓の「核ベース同盟」は揺るがない――そんなメッセージを内外に発信する重要な場となった。

ワシントンで行われたNCG会議(韓国国防部より)

 NCGが生まれたのは2023年4月の「ワシントン宣言」がきっかけだ。北朝鮮が戦術核配備を進め、先制核攻撃も辞さないと公言する中、韓国国内では「独自核武装を」という声が高まっていた。

 そんな不安に応えるため、米国の核運用に韓国が計画段階から関与できる仕組みとして誕生したのがNCGである。従来の「米国が一方的に提供する核の傘」から、「共に計画し、共に実行する」体制への大転換だ。

 そのため協議の中身は多彩だ。核戦略情報の共有、核・通常兵器統合(CNI)の作戦立案、机上演習やシミュレーション、米戦略爆撃機や原子力潜水艦の朝鮮半島展開による抑止力の"見える化"などが含まれる。24年7月には核作戦に関する指針が策定され、同年10月には韓国戦略司令部が誕生。米戦略軍との実務連携体制が整った。

 押さえておきたいのは、NCGは北大西洋条約機構(NATO)の「核シェアリング」とは違うということ。NATOでは米国の核兵器が同盟国に物理的に配備されるが、NCGでは核兵器の配備は行わない。核運用の計画・意思決定プロセスに韓国が参画する形をとることで、核拡散防止条約(NPT)体制との整合性を保ちながら、実効的な抑止力を高めている。

 今回の会議で注目すべきは、「韓国が朝鮮半島の通常兵器防衛において主導的役割を担う」という文言が初めて公式声明に盛り込まれた点だ。トランプ政権が求める同盟国の負担増と、韓国の安保主導権強化が見事にかみ合った。さらに26年前半に第6回会議を開くことも決まり、NCGが持続的な協議体として定着していく道筋が見えてきた。

日本の核保有論議と日米拡大抑止協議の現実

 日本の官邸幹部が12月18日、非公式の場で「私は核を持つべきだと思っている」と発言し、波紋が広がった。北朝鮮の核・ミサイル開発と中国の軍事的台頭という安全保障環境の激変を背景に、日本国内でも「核抑止」をめぐる議論が水面下で熱を帯びつつある。

 では、日本には米韓のNCGに相当する枠組みがあるのか。実は「ある」のだ。

 それが10年から続く「日米拡大抑止協議(EDD)」である。米韓NCGが23年生まれの「核特化」協議体であるのに対し、日米EDDは15年の実績を持つ。核だけでなくミサイル防衛や通常戦力を含む包括的な枠組みだ。

 25年12月10日から12日に東京で開かれたEDDでは、日米の外務・防衛当局幹部が核戦力の可視化やミサイル防衛との統合について議論した。日米間では近年、核使用を想定した机上演習を実施しており、24年末には「日米拡大抑止に関するガイドライン」が策定された。平時、危機、有事の各段階での情報共有や意思決定プロセスを文書化し、「米国の核運用に日本がどう関与するか」という曖昧だった部分にルールを設けた画期的な合意だ。

25年6月に行われたEDD(外務省HPより)

 もちろん日本は核兵器を保有・配備するわけではない。米国の核運用の「計画と協議」に関与する度合いを強めているに過ぎない。25年6月のEDDでは日本側代表団が米国でB-52戦略爆撃機を視察するなど、現場レベルでの"見える化"も進んでいる。

 このように北東アジアの安全保障情勢が緊迫する中、米韓NCGと日米EDDの連携強化が急務となっている。官邸幹部の核保有発言は現実的な抑止力強化の議論とは一線を画すべきだが、日本が直面する安全保障上の難題を改めて浮き彫りにしたことは間違いない。