1月14日に開催された米国とデンマーク、グリーンランド政府間の交渉でも、ハイレベルのワーキンググループの設立以外の成果はなく、根本的な意見の相違が残った。
トランプ大統領は、会議前に「ロシア、中国が侵攻した場合に犬ぞり2台ではグリーンランドは守れない。米国の力なくしては北大西洋条約機構(NATO)の軍事力は効果的にならない」とグリーンランドに駐留しているデンマーク軍に犬ぞり部隊があることを揶揄し、グリーンランド領有を諦めない姿勢を明らかにした。グリーンランドのデンマーク軍には犬ぞり部隊も配置されているが、小規模とは言え船舶も航空機もある。
デンマークはNATO加盟国だ。米国が領有しない限り、ロシアあるいは中国の侵攻を防げないというのであれば、NATO軍事同盟に意味がないことになるが、トランプ大統領からの説明はない。
諦めない米国への牽制もあり、NATOの主要加盟国もグリーンランドでの軍事演習のため軍の派遣を始めた。ドイツ、フランス、スウェーデン、ノルウェーの先発隊に加え、英国、オランダ、フィンランドも演習への参加を決めた。
1月17日に、トランプ大統領は米国の領有に反対するデンマークと演習に参加する7カ国に2月1日から10%の関税を課すと発表した。
昨年合意された米国とEU間の相互関税については、1月下旬に欧州議会で承認される予定だったが、この発表を受け白紙になるようだ。同盟関係のひび割れの拡大が止まらない。
グリーンランドは、300年前からデンマークの植民地だったが、1953年にデンマークに併合された。79年に自治領となり、その後2009年に自治が拡大され、天然資源の管理も自治政府の管轄になった。
デンマークが外交、防衛、金融を担い、デンマークからは自治領に対し23年に53億クローネ(850億円)の補助が行われている。
グリーンランドの人口は先住民族のイヌイットを中心に5万7000人。世界で最も人口密度が低い国、自治領だ。その内2万人は首都ヌークに住み、多くの人は南西部に住んでいる。島の8割は厚い氷におおわれている。
北極を中心にした地図(図-1)を見ると、グリーンランドの安全保障上の重要性が分かる。グリーンランド(G)、アイスランド(I)、英国(UK)を結ぶ線は、GIUKラインと呼ばれる米国の北大西洋の防衛ラインだ。
このため、米国は19世紀から何度かグリーンランドの購入を公式、非公式にデンマークに持ち掛けている。トランプ大統領の前には、1946年に、ハリー・トルーマン大統領が1億ドルでの買収を提案した。デンマークは提案を全て拒否している。
米国は第二次世界大戦中に、ドイツからの防衛のためグリーンランドに基地を作り、現在でも北部に基地を維持している。北極圏からの攻撃を早期に感知することが可能な重要な基地だ。
軍事上の重要性に加えレアアース獲得の狙いも当然ありそうだ。
レアアース(希土類元素-REE)は、原子番号57のランタンから71のルテチウムまでの15の元素にスカンジウム イットリウムを加えた17元素を指す。地殻中には多く存在しレアではないが、集中的に存在する鉱床は限られる。
生産に加え、難しいのが元素の分離、精錬工程であり、さらに生産、精錬時には放射性物質を含む廃棄物が生じることがある。1960年代から80年代半ばまでは、米国・カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山が世界のREEの主要な供給地であったが、80年代半ばから中国が急速に生産を伸ばした。
中国は、環境問題から分離、精錬が難しくなった鉱石の精錬を安価で引き受け、他国のREEの分離・精錬事業を廃業に追い込みシェアを増やした。