グラミー賞にトランプが激怒した理由…音楽業界でも起きる賛否、深まる米国社会分断の一端

2026.02.12 Wedge ONLINE

DEIを前面に出すグラミー賞

 もともとトランプとグラミー賞を実施するレコーディング・アカデミーとは相いれない素地はあった。レコーディング・アカデミーのサイトにはDEI(多様性・公平性・包括性)という項目があり、「私たちの使命」として、「レコーディング・アカデミー、その関連団体、そして音楽業界において、多様性、包括性、帰属意識、そして尊重の強い文化を推進すること」と謳っているのである。

レコーディング・アカデミーのサイトで、DEIについて語られているページ

 レコーディング・アカデミーが以前からそのような姿勢を貫いてきたわけではない。以前は、白人男性のみが投票権を持ち、人種差別や性差別があると批判されてきた。ただ、近年、レコーディング・アカデミーは、組織改編を進め、投票権を持つ会員の多様化を進めている。これはアカデミー賞とも似た展開と言える。

 トランプ政権を批判する側の人々にとってはそのような変化は望ましいが、アカデミー賞同様、逆に振れ過ぎて、審査において多様性が重視され過ぎているとの批判もある。DEIを否定する大統領令に署名したトランプの政策を支持する側の人々にとっては、レコーディング・アカデミーが多様性に基づいて賞を選んでいるようにみえるのは許しがたいものであろう。

 なぜ、その年の圧倒的なアルバムでもないのに、米国のグラミー賞にスペイン語のみで製作されたアルバムが年間最優秀アルバム賞を受賞するのだろうかと思った人も少なくなかったはずである。英語を連邦レベルの公用語とする大統領令にトランプが署名したのはそのような声を背景にしているのだろう。

 他に多くの有望新人がいる中、オリヴィア・ディーンが最優秀新人賞を受賞したのは、「移民の孫」だからではないのか。メッセージ性が強すぎるのではないのかというのである。

それでも授賞式を観てしまうトランプ

 音楽業界の中でもグラミー批判はある。エミネムが偏った選考を批判して、「グラミーは無価値だ」と発言し、自分のことを二度とノミネートするなと言ったのは有名である。また、その才能あふれる楽曲でビルボード1位を獲得するなど評価の高いニッキー・ミナージュがグラミー賞を受賞していないことに触れ、「世界最高の女性ラッパーの一人であるニッキー・ミナージュがグラミー賞を一つも持っていないのは異常だ」という内容の発言をしたこともある。

 ニッキー・ミナージュが受賞できない理由として有力視されているのが、ニッキーがあからさまなトランプ支持者であるということである。トリニダード・トバゴ出身のニッキーは、自らをトランプの「一番のファン」と呼び、米国への永住の道を約束する「黄金のカード」を受領したことを公表している。

 このことに対しても司会のトレバー・ノアは触れて、「みんなここにいる、ビリーもフィニアスもニッキー・ミナージュも、いや、ニッキーはいない。ホワイトハウスでトランプと大事な話をしている」と話し、またもや大喝采を浴びた。ノアの喋りよりも、会場に集まったエンタメ業界のセレブ達にあざ笑われるのがトランプには耐えられないのではないだろうか。

 テレビを足掛かりにのし上がったトランプは、もともとセレブの一員としてグラミー賞授賞式の会場にいるような人間であり、そこに集まるきらびやかな人たちと一緒に仲良くやっていた。また今もそうしたい。しかし、自分のことを皆であざ笑っている。

 授賞式など観なければいいのだが、トランプはテレビ好きで知られており、多くのアメリカ人が見る番組は必ず楽しみにして観る。グラミーの一週間後のスーパーボールも観て、グラミー賞授賞式でICEを批判したバッド・バニーのハーフタイムショーでいやな気持になり、従来から民主党を支持しており、東京のコンサート中にICE批判をしたレディ・ガガがそこに飛び入りで参加したのも気に入らなかったはずである。

オススメ記事

まだ記事はありません。