2月8日に行われたタイの国会選挙で保守派の「タイの誇り党」が圧勝したことにつき、2月9日付けフィナンシャル・タイムズ紙は、「これはカンボジアとの国境紛争で愛国心が高揚し、かつ、国民が安定と景気回復を政治改革よりも優先した結果であり、政治改革を諦めた訳ではない」する解説記事を掲載している。要旨は以下の通り。
アヌティン首相が率いる「タイの誇り党」は、暫定的な結果によれば選挙で500議席中の190議席以上を占めて組閣する見込みで保守勢力の輝ける顔となった。他方、選挙前に優勢を伝えられた改革派の「人民党」は、選挙管理委員会によれば約100議席で第2党となる見込みだ。
「タイの誇り党」単独で過半数を占めるには足りないが、アヌティン首相は王室の支持も得ているとみられており連立内閣の組閣の主導権を得るだろう。過去15年間、タイではこのような圧勝をした政党は存在せず、保守派と改革派の間の対立が続くタイが必要とする政治的安定をもたらし、経済を復活させることが期待されている。
アヌティン首相は、前任のペートンタン首相(タクシン元首相の娘)がフンセン元カンボジア首相とのタイ国軍を批判する不適切な会話を理由に失脚した結果、後任となったが、2023年の選挙では彼の「タイの誇り党」は、70議席に過ぎなかった。しかし、昨年来続いているカンボジアとの国境紛争によってタイ国内で愛国心が高揚したことが有利に働き、同党は、タイ全土、特にカンボジア国境に近い東北地方で多くの議席を獲得した。
なお、「人民党」は選挙には敗北したが、首都バンコクの33議席は全て獲得している。マヒドン大学のプンチャダ社会学部長は、「タイの誇り党は、選挙期間中、愛国心に訴えて国境地帯の多くの有権者や中産階級を惹きつけた」と述べている。
他方、「タイの誇り党」が選挙に勝利したとしても、政治改革に対する要求は存在している。今回の選挙と同時に行われた軍事政権が起草した17年憲法に対する国民審査では、国民の約60%が同憲法の改正を望んだ。ただし、この憲法を改正するためには何年もかかるし、もう2回国民審査を行わなければならない。プンチャダ学部長は、「国民は、この憲法がチェック・アンド・バランスの機能を欠いており、汚職を止められない事に気が付いている」と述べている。
シンガポールのISEAS-Yusof Ishak研究所のサングレー客員研究員は、「この選挙結果は、有権者は安全保障と経済を(政治改革よりも)優先させたことを示唆している。政治改革は依然として重要だが、しかし、国際情勢がますます混沌とする中、有権者達は安定をより緊急な課題だと考えたのであろう」と述べている。
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ここ何年もの間、タイでは国会選挙の度に王党派や親軍派からなる保守派に対抗する勢力が勝利し続けたが、既得権益を失うことを恐れた保守派は、非保守派政権が彼らにとり都合の悪い政治を行おうとすれば軍事クーデターで政権を倒したり、保守派がコントロールする憲法裁判所を利用して解党処分等に処して政権を崩壊させたりする等、あらゆる手を使って権力を維持しようと努めている。
前回の23年の選挙では王室の権威を弱める不敬罪の見直し、軍部の影響力低下に繋がる徴兵制の見直しを主張する「前進党」が151議席に躍進して第1党になると、憲法裁判所は難癖を付けて「前進党」のピター党首の国会議員資格を停止し、「前進党」も解党処分にする一方で保守派は過去2回、軍事クーデターで失脚させて来た仇敵のタクシン派と取り引きしてタクシン派を首相とする内閣を成立させた。