昨年5月、NATOはウクライナのドローン専門家とともに共同演習「ヘッジホッグ2025」を行い、NATO加盟12カ国から約1万6000人が参加した。同演習では、NATO側の2個大隊で構成するチームを相手に、たった10人のウクライナ側チームが30回「模擬攻撃」を仕掛け、所有の装甲車両17両を「模擬爆破」した、とされている。
ウクライナのチームは「DELTA」と称する高度な戦場管理システムを使用し、無数のドローンを使って戦場の状況をリアルタイムで把握した上で、AIによるデータ処理・分析を経て、部隊間の攻撃を調整し指揮統制を行ったということだ。
このような戦い方は、米国を始めとする西側諸国が長年にわたり研究・開発し、また教育・訓練してきた「ネットワーク中心の戦争」(Network-Centric Warfare)の、重要な一側面を構成しており、この演習は、ウクライナ軍が少なくともドローンを活用した「戦術レベルの戦い」において世界水準に達していること、他方、そのような作戦行動においてNATO軍に脆弱性があることを示した。
これはあくまでも、特定の条件を設定したひとつのシナリオにおける「模擬戦闘」の結果であり、ただちにウクライナ軍が総体としてのNATO軍より優れていることを意味しないが、今後NATOは、ウクライナ戦争の教訓を取り入れて脆弱性の克服に努め、一方ウクライナ軍も、そのためのNATOとの協力の過程で一層の近代化を進めていくことができるだろう。
ではロシア軍はどうか。実はロシア軍も、遅くとも1970年代後半から、NATOによる戦術核、精密誘導兵器の開発などを受けて、指揮統制システムの自動化や情報化された作戦統制の必要性を強く認識し、研究してきた。
この研究はソ連時代を通じて進められてきたが、ソ連の崩壊でその多くが中断した。プーチン政権になってからこれが復活し、ロシア軍は再び指揮統制システムの自動化、デジタル情報処理、電子戦の強化などに注力して、今日に至っている。
ところが、ウクライナ戦争の、特に初期段階におけるロシア軍の戦い方は、戦車や装甲車等を中心とする旧態依然たる「プラットフォーム中心の戦争」に戻っていた。その後戦闘が進むにつれ、ロシア軍もウクライナのドローンを無力化するための一層の電子戦強化や、ウクライナ軍を上回るドローン開発に努め、また新たな戦術に適応していった。
ただそれでも、ロシアの戦い方は「ネットワーク中心の戦争」とは異なる。確かに情報優位の思想や指揮統制の自動化の点において共通性があるが、「ネットワーク中心の戦争」との決定的な違いは、情報共有の不足と指揮命令の硬直性だ。
「ネットワーク中心の戦争」は、各種部隊がリアルタイムで情報と作戦を共有し、末端の指揮官にも現場の状況に応じた一定の裁量が与えられることが前提だ。ところがロシアの戦い方はソ連時代からの伝統で、情報共有が極端に少ない。指揮命令は硬直的で、命令を受けた者はそれを過たずに実行するだけだ。戦況の全体観も他の部隊の動きも十分に知ることができない。これは国家体制の違い、及び文化の違いに由来する。
21世紀の戦争は「ネットワーク中心の戦争」と言われる。そしてこの戦い方は、民主主義国家とそこに育成される文化が重要な推進力となるのであり、独裁や権威主義国家の体制とその文化には基本的な制約がある。民主主義国家の特性は、テクノロジーの発展と相俟って、将来の戦争を優位に展開する基礎となり得るのである。