昼休み明けの職場に、静かな緊張が漂う。新しく配属された若手社員は返事もするし、与えられた仕事もこなす。だが、目を輝かせて前のめりになるわけではない。
「言われたことはやる。でも、自分からは来ない」と上司は思う。その違和感がいま多くの職場で共有されている。
しかし、この違和感を「最近の若者は……」と片づけてしまうと、本質を見失う。Z世代は仕事を軽く見ているのではない。むしろ、自分の人生の時間を何に使うかに、これまで以上に敏感な世代なのである。
生まれた時から景気の停滞、雇用不安、SNSによる常時接続社会の中で育ち、「会社に尽くせば将来は保証される」という物語を当然の前提として持っていない。だからこそ彼らは、仕事に対してまず問う。「これは何のためにやるのか」「誰の役に立つのか」「自分はどう成長できるのか」と。
この感覚は、裏返せば健全でもある。意味がわからないことに無条件で従うのではなく、自分の納得を通して働こうとするからだ。
ワークライフバランス、自分らしさ、心理的安全性、成長実感、共感できる理念といったものを重視するのは、わがままだからではない。不確実な社会を生きる上で、自分を守りながら働くための知恵でもある。
このZ世代の労働観を「扱いにくさ」として見るか、「時代の変化を映す鏡」として見るかで、経営の質は大きく変わる。ここで重要になるのが、近年よく語られる「人的資本経営」である。
人的資本経営とは、人材を管理すべきコストではなく、企業価値を生み出す資本として捉える考え方だ。従来の発想が「いかに使うか」だったのに対し、人的資本経営は「いかに育ち、力を発揮してもらうか」を問う。管理から価値創造へ――これが時代の転換点である。
その実践例として示唆に富むのが、首都圏を中心に展開するスープ専門店「スープストックトーキョー」だ。同社は「世の中の体温をあげる」という理念を掲げ、社員だけでなくパートナーにも、オペレーションだけでなく「なぜそれが大事なのか」というマインドまで共有してきた。
さらに、この理念を日々の行動に落とし込むために、「五感」と呼ばれる行動指針を掲げている。「低投資・高感度」「誠実」「作品性」「主体性」「賞賛」の五つである。
まず「低投資・高感度」。これは、お金をかければ価値が生まれるという発想ではない。限られた資源の中で、どれだけ相手の気持ちに敏感でいられるかを問う言葉だ。
高価な設備や派手な演出がなくても、相手の小さな変化に気づき、少し先回りして声をかける。言葉遣い、店の空気、差し出す一杯の温度にまで心を配る。商いの本質は、予算の多寡ではなく感度の高さにあるという思想である。
これはZ世代にも響く。彼らは大きな号令や抽象論よりも、日々の行動に落ちる具体性に反応するからだ。
次に「誠実」。これは単に真面目であることではない。相手に対して正直であること、自分の仕事に嘘をつかないことだろう。
無理に売り込まない。できないことは「できない」と言う。目の前の顧客にも仲間にも、取り繕わず向き合う。