神奈川県海老名市にあるイオンシネマ海老名の閉館が2026年5月、複数のメディアで報じられた。例えば、5月18日のオリコンニュースでは、最終上映の様子や、閉館を受けての映画館関係者や多くのファンのコメントが紹介されている。
イオンシネマ海老名は、1993年に日本初のシネコンとして誕生、日本で最初にジョージ・ルーカススタジオ公認「THX(ティー・エイチ・エックス)」サウンドシステムを装備し、スターウォーズの聖地と呼ばれたが、入居するイオン海老名店の建て替えに伴い、閉館した。
映画館を取り巻く状況は近年大きく変化している。伝統的な映画館が減少の一途をたどっている一方、イオンシネマ海老名のようなシネコンは急激に増加した。そのため、スクリーン数は1990年代までの減少傾向から一転し、2000年代は一貫して増加している。
しかし、昔ながらの映画館からシネコンへの変化は、ある種の地域間格差を引き起こした。コミュニティシネマセンターが公開している16年映画上映活動年鑑の「映画上映をめぐる近年の状況」によると、シネコンを含む映画館の分布が変化し、93年には全国の中小都市にも点在していた映画館が、15年には大都市周辺に集中し、映画館の空白地帯が広がってしまった。
実際、徳島県では93年には15あった映画館が15年には2に、秋田県では05年に18あったのが15年には6になってしまった。こうした地域でもシネコンの普及によりスクリーン数の減少は抑えられたものの、映画館の数は大幅に減少して地域内の大都市にしか映画館がない、という状況になったのである。
音楽活動でも同様の大都市への集中傾向が観察されている。コンサートプロモーターズ協会の24年基礎調査報告書によると、近年、音楽公演の公演数や動員数はアリーナやスタジアムといった大型の施設で増加し、ホールのような中小の施設で停滞、もしくは、減少している。
前者は大都市やその近郊に建設されることが多く、音楽公演も大都市での開催が増加していると考えられる。報告書では、特にコロナ禍以降、地域の中核となる大都市への公演の集中が生じている、とも述べられている。
さらに、文化庁の文化施設部会の参考資料集「今後の文化施設の在り方について~文化施設をハブとした「創造的循環」の形成~(論点整理(案))」では、さらに広範囲の文化活動について、都市圏とそれ以外とで文化芸術の鑑賞機会に大きな差があり、劇場・音楽堂等における主催文化事業の実施割合や施設稼働率にも大きな違いがあることが報告されている。
映画や音楽といった文化活動の大都市への集中が進んだということは、地方の中小都市ではこうした文化へのアクセスが悪くなったことを意味する。そのため、このような文化の一部の地域への集積は、直接的効果として、アクセスの悪くなった地域に住む映画・音楽ファンの生活の質を低下させる。では、間接的には地域にどのような影響を及ぼすであろうか。
カナダのトロント大学のフロリダ教授は、クリエイティブ都市論に基づき、科学者、技術者、芸術家、デザイナーなど、新しい価値やアイデアを生み出す人々が都市に集まることの重要性を説いた。この考えから多くの研究が行われた。
例えば、スペインのバレンシア大学のボイス・ドメネク教授らは、出版、メディア、ソフト開発、研究開発、広告、デザイン、アートなど、文化に関係しそうな産業を一まとめにして「創造的な産業」と呼び、その産業が地域の生産性に及ぼす効果を実証的に検証した。ヨーロッパ24カ国の250地域を対象とし、08年のデータを用いて、他の要素を一定とした時に、この産業の就業者割合の変化が地域の就業者一人当たり総生産をどう変化させたかを考察した。