その結果、地域におけるこの産業の就業者割合が2倍になると、就業者一人当たり総生産が6%上昇した。創造的な産業で働く人が増えると、経済全体が影響を受ける可能性があることを示唆している。
似たような結果は他の国についての研究でも得られている。それを踏まえると、先ほど述べたような地方での文化施設の空白地帯の広がりは、地方での経済活動を停滞させる一因になることも考えられる。
もちろん、この研究では、注目する産業としてソフト開発や広告といった幅広い業種をまとめたものを扱っており、そのために、得られた結果がいわゆる文化の効果ではないものの影響も多々拾っている可能性がある。さらに、こうした生産性への効果は直接的に作用するのか間接的に作用するのかは定かではない。つまり、文化的活動が活発になるとその他の業種の生産性が直接影響を受けるのか、それとも何らかの間接的な影響を受けるのかははっきりわからない。
そこで、スイスのジュネーブ大学のボーアラム教授は、05年から11年のアメリカの大都市圏のデータを用いて、文化に関わる産業の集中と地域の生産性の関係を詳細に検証した。その結果、非常に単純な想定の下では、確かに文化の集中が地域の生産性を引き上げる結果が得られたものの、地域での平均的な教育水準など、生産性に影響しそうな要因を加味していくと、文化活動の生産性への影響が大きく減衰することがわかった。そのため、文化が生産性を引き上げる直接的な効果はさほど強くないとも見られている。
しかし、文化活動の活発さが地域の生産性を間接的に左右するメカニズムは最近の研究で確認されている。ドイツのルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのファルク教授らの研究では、伝統的な文化の集積がどれくらい熟練労働者を引き付けるかを検証した。
ドイツでは、昔から、オペラハウスのある場所に伝統的な文化活動が集まっている。そこで、75年から10年のドイツのデータを用いて、伝統的なオペラハウスからの距離と熟練別の就業者の地域分布を関係づけて分析した。
その結果、伝統的なオペラハウスからの距離が近いところほど熟練労働者比率が上がることを示した。熟練労働者比率1%上昇が熟練労働者の賃金を1.1%、中程度の熟練労働者の賃金を1.6%、低熟練労働者の賃金を1.4%引き上げることが明らかになった。
文化が直接生産性を引き上げるのではなく、文化が熟練労働者を引き付け、それが地域の生産性を引き上げると考えられるのである。
ここまで紹介した一連の研究結果は、文化が地域社会に及ぼす影響が、地域住民の文化の享受という側面だけでなく、多方面に及ぶことを示している。映画や音楽を楽しむのに便利な地域に生産性の高い労働者が引き付けられ、それが地域の経済を活性化させ得るのである。
こうした効果が十分に期待されるのであれば、例えば地方からの人口流出への対策の一環として、映画館のような文化施設を政策的に増やしたり、音楽公演を誘致したりするような政策も一考の価値があると言えるであろう。