「うちの幹部が同じことをしたら…」巨人・阿部前監督辞任から経営者・人事担当者が備えるべきこと

2026.06.22 Wedge ONLINE

 児童虐待の対象範囲は広い。児童虐待の防止等に関する法律第2条は、「児童虐待」を身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待の4類型に分けて定義している。同条第4号は、児童に対する著しい暴言や拒絶的な対応、児童の目前で行われる暴力も「心理的虐待」として明記している。

 実際にこども家庭庁の統計でも、24年(令和6年)度に児童相談所が対応した虐待相談のうち、心理的虐待が全体の約6割を占めて最多となっている(こども家庭庁「令和6年度児童相談所における児童虐待相談対応件数」(図表2)。一般に想像されているよりも、対象となる行為の範囲はかなり広いと考えてよい。

 例えば、今回の事件では、発端は姉妹の喧嘩だったと報道されている。逮捕は18歳を超えた長女に対する暴行とされているが、その場面を15歳の次女が目撃している可能性もあるだろう。

 この場合、15歳の次女に対する「心理的虐待のおそれ」として警察は児童相談所に通告する。「おそれ」なので、事実の有無を特定する必要はない。児童相談所は、父から次女に対する心理的虐待として調査を行い、虐待の事実があれば、再発防止に向けた必要な指導を行うことになる。

「体罰」はすでに認められていない

 「叩くのは、親のしつけ」は法的に否定されており、現在では認められていない。

 旧民法822条は「親権を行う者は、監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」と定めている。これが「しつけ」を口実とした体罰を正当化する根拠として使われているとの指摘が長年なされてきた。

 22年12月の民法等改正で同条は削除され、新設された民法821条では「親権を行う者は……子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」と明記された。

 法改正によって大きく変わったのが、警察の事件介入の深度である。このことは、あまり社会に共有されていない。

 かつては、「夫婦喧嘩は犬も食わない」「親のしつけに外から口出しすべきではない」という言葉が普遍性をもっていた。しかし、児童虐待やDV(配偶者間暴力)に対する社会的対応を求める声が高まり、関係法令の改正などによって、警察の対応は変わってきている。

警察が最優先するのは被害者の安全・安心の確保

 その対応方針の中核をなすのが「被害者の安全・安心の確保」である。家族は、一つ屋根の下に暮らしており、外部の目も入りにくい。暴力が一時的なものなのか、それとも継続的なものなのか。家族の中に支配・被支配の構造は存在するのか。これは、すぐにわかることではない。だからこそ、危機管理は「最悪の事態」を想定して対応することになる。

 暴力をふるった場合、その軽重や継続性は問わない。その場では、「他の場面で、ひどい暴力を振るわれている可能性」「継続して暴力を振るわれている可能性」を否定できないからである。

 もともと暴行罪(刑法第208条)は親告罪ではなく、被害者の告訴がなくても、警察・検察の判断で捜査・立件が可能である。近年の警察は、この原則を厳格に適用し、現行犯逮捕という『令状主義の例外』をためらわず執行する傾向にある。

 そして、警察は事件の公表も躊躇しない。社会的地位があるからという理由で公表を取りやめれば、その対応が厳しい社会の批判にさらされることを熟知しているからである。 今回の事案で警察が迅速に動いたことは、何ら例外的な対応ではない。

「辞任の前例」ができた

 ここからが、経営者・人事担当者にとっての本題である。