「うちの幹部が同じことをしたら…」巨人・阿部前監督辞任から経営者・人事担当者が備えるべきこと

2026.06.22 Wedge ONLINE

 今回の事案で重要なのは、「逮捕という事実そのものが記者発表の対象になり、即座にメディアとSNSで拡散する」という現実が改めて示されたことである。

 プロ野球の監督という著名なポジションだから注目された、という見方は正確ではない。逮捕情報は警察の記者発表を通じて公になり、報道機関がそれを記事化すれば、本人の社会的地位の大小にかかわらず拡散する。経営幹部であっても、中堅企業の管理職であっても、この構造から逃れられる立場はない。

 もちろん、「たまたま」「運よく」社会的に注目されないということはあるだろう。しかしそれは、『会社の命運をめぐる機密文書が道端に放置されていて、たまたま、運よく、誰の目にも触れなかった』という危うい確率論に依存しているに過ぎない。ひとたび公になれば、企業のガバナンスは一瞬で崩壊する。

「逮捕→即日辞任」というスピード感

 そしてもう一つ、今回の事案がつくった重要な「前例」がある。「逮捕→即日辞任」という対応のスピード感である。

 阿部前監督は、逮捕から数時間で釈放されたが、翌日朝には山口寿一オーナーに辞任を申し入れ、球団はこれを即日受理した。巨人では球団創立以来、休養を含めたシーズン途中での監督交代は初めてのことだったとされる。この一連の流れが社会に広く共有されたことで、今後類似の事態が起きた際、「なぜあの会社の役員は辞めないのか」「巨人はすぐ辞任したのに」という比較がただちに発生する土台ができたと考えるべきである。

 つまり、経営者・人事担当者は、もはや「個別の事情を慎重に検討して対応を決める」という時間的余裕を、世論から与えられない可能性が高い。対応の遅さそのものが、企業のコンプライアンス意識を問う材料として消費される時代に入ったのである。

 これは脅しではなく、現実の認識である。家庭内の事情で逮捕者が出た場合に、企業がどう動くかをあらかじめ検討していない組織は、今後、事案そのものへの対応よりも「対応の遅さ」への批判で社会的信用を損なうリスクを負う。

厳罰化の先にあるもの

 ここまでの整理は、ともすれば「逮捕・辞任という厳しい対応を徹底すべきだ」という結論に直結しそうに見える。

 一方で人情としては、「大事件になって、子どもも傷ついているのではないか」「家族の幸せを考えた時に、このような社会は本当に正しいのか」という思いを持つ人もいるのではないだろうか。そうした問題意識を持った人たちとともに、厳罰化の先にある解決策を一緒に考えていきたい。

 参考になるのは、先進的な取組を進めている他国の事例である。

 欧米における虐待・DV対策は、まず厳罰化から始まった。逮捕・起訴・保護命令といった司法的対応を強化することで、被害者の安全を確保する方向に制度が整備されてきた。これは正しい方向である。被害者の保護が最優先であることに、いささかの疑いもない。

 ただし、話はそれで終わらない。各国のトップランナーの取り組みで見えてきたのは、「厳罰化だけでは、暴力の再発を防げない」という現実である。

 加害者を一度処罰しても、関係性が継続する限り、暴力のパターンそのものが変わらなければ再発のリスクは残る。家庭という関係性は、職場の人間関係と異なり、簡単に「切り離す」ことができない場合が多い。

 この認識から発展したのが、「加害者プログラム」である。これは加害者本人に、自らの暴力的・支配的な行動パターンを自覚させ、行動を変容させることを目的とした教育的・心理的介入である。

 役員・社員が家庭内暴力で問題を起こした場合、「辞任・解雇すれば終わり」という対応は、当該人物の行動パターンそのものに変化をもたらすわけではない。本人が今後も家庭生活を続け、あるいは別の関係性の中で同様の問題を繰り返すリスクに、企業として向き合う視点があってよい。