ドイツ・メルツ政権が挑む最大“任務”社会保障改革、今、行うべき日本と同じ事情…国民の不満を超え企業競争力を回復できるか?

2026.07.03 Wedge ONLINE

 ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、任期中最も困難な任務に取り組んでいる。巨額の赤字を抱える公的健康保険および公的年金保険制度の改革だ。だが社会保障サービスの削減に対する市民の不満が、極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)への支持率をさらに押し上げる恐れもある。

(AP/アフロ)

年金受給開始年齢を引き上げ

 6月23日、メルツ首相はベルリンでの記者会見で約30項目の年金改革案を公表した。学者と政治家から成る年金委員会は首相に改革案を提出。メルツ氏は「改革案を全て実行するために、直ちに法制化への作業を開始する」と断言した。

 改革の目玉の一つは、年金受給開始年齢の引き上げだ。現在ドイツの正式な年金受給開始年齢は67歳だ。67歳で年金の受給を開始する人は満額を受け取れるが、受給開始時期を前倒しすると、年金額は減る。

 年金委員会は、2031年以降、受給年齢を国民の平均余命に合わせて段階的に引き上げることを提案した。現在の予測によると、31年から41年の間に、受給開始年齢は逆に現在67歳から67.5歳に上昇する。その後も受給開始年齢は徐々に上昇していく。

 一部の保守系議員の間では「年金受給開始年齢を70歳に引き上げるべきだ」という意見が出ていたが、年金委員会はこの提案を拒否した。ただしドイツ人たちが、これまで以上に長く働かなくてはならなくなることは間違いない。

 ドイツには、「63歳引退制度」がある。少なくとも35年間働いて保険料を納めた場合、減額されることが条件で、63歳から年金を受け取ることは可能だ。

 現在でも毎年約28万人の市民がこの制度を利用して、年金が減らされても63歳で引退する道を選んでいる。多くのドイツ人はプライベート・ライフを重んじるので、引退後の収入を現役時代と同じ水準に維持することよりも、自由時間の方を重視する。これは日本人のメンタリティーとの大きな違いだ。収入の減少を避けるため、あるいは自己実現のために、引退後も働き続ける人は日本ほど多くない。

 メルツ政権は年金委員会の提案に基づいてこの制度を廃止する方針だ。法案が議会で可決されれば、63歳での年金受給は不可能になる。

 最も早い年金受給年齢はまず64歳に引き上げられ、その後も平均余命の変化とともに上昇していく。年金委員会は「年金受給年齢を決める基準を、保険加入年数ではなく、持病の有無など市民の健康状態に変えるべきだ」と提案している。

保険料収入増への改革

 メルツ政権は、保険料収入を増やすために、現在は公的年金保険で原則としてカバーされていない自営業者や連邦議会議員らに対しても、公的年金保険制度への保険料の支払いを義務付ける方針だ。(ただし独自の年金制度を持っている職種は除く)

 月収が603ユーロ(11万1555円・1ユーロ=185円換算)以下の低賃金部門(ミニジョブ)で働く市民の大半は、公的年金保険の保険料支払い義務を免除されているが、メルツ政権はこれらの市民にも保険料払い込みを義務付ける。ドイツの公務員は、「ペンジオーン(恩給)」と呼ばれる独自の年金制度を持っており、公的年金保険制度の枠外にいる。将来、公務員にも公的年金保険への加入を義務付けるかどうかは、まだ決まっていない。

 メルツ政権は、スウェーデンに似た、積立型の年金基金を新しく設置する。現在のドイツの公的年金は、現役世代が支払う保険料をその時点での年金受給者に支払う賦課方式だが、新しい年金基金では国民1人ひとりが払い込んだ保険料を積み立てる。

 集められた保険料は、公的機関によって株式市場などで運用される。将来、市民の所得の2%が年金基金への保険料として払い込まれる。保険料は労使が半分ずつ負担する。

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