ペルー大統領選の決選投票において、ケイコ・フジモリの接戦を制して当選が着実になりつつある。「フジモリ新政権」が誕生した場合に同政権が直面する課題について考えてみたい。
その前に、決選投票の開票状況だが、投票前の世論調査で4%程度の差で、ケイコ有利と見られていたが、開票後2日目からは相手候補のサンチェスがリードし、6月8日の開票率95%の段階で41,000票(0.23%)の差をつけた。しかしその後、在外有権者の票が集計されるにつれ、ケイコが逆転し、次第に差を広げ6月21日朝の99.7%集計の段階では、ケイコが50.11%、サンチェスが49.89%で、0.22%(約40,000票)程度の差をつけ、6月29日の開票終了時にはケイコが50.135%(922万3396票)、サンチェスが49.865%(917万3755票)で、ケイコが当選確実となった。
異議申し立てが提起されている票の再審査の結果次第ではあるが、7月半ばに発表が予定される最終結果において、この差が覆ることはないだろうとみられている。
この決選投票は、市場主義による経済政策の維持と犯罪対策の厳格化により治安改善を図るケイコと、富裕層への増税や鉱物分野を含む経済への国家介入を強化し必要な憲法改正を目指すサンチェスの国家観を巡る対立となった。さらに、都市部や沿岸部の有権者が主として前者を、山間部農村地域の貧困層が主として後者を支持する地域的な対立とも結びついて国内の分断を際立たせる結果となった。
ペルーには、ケイコのフエルサ・ポプラルを別として、地域の利益を代表する形での全国的な政党が発達しておらず、大統領選挙と同時に行われる議会選挙の結果は、常に小党分立の状況となる。大勢の候補者が乱立する大統領選挙は言わば国民の人気投票であり、ケイコはこれまでに3回続けて決選投票で落選した。
その結果、大統領の与党が議会で過半数を得ることはなく、特にクチンスキー大統領以降、安定した連立を組むことができず、政策の実現が難しくなり、また、スキャンダル等で容易に閣僚が不信任され、また大統領の弾劾が繰り返されて来た。
今回、ケイコのフエルサ・ポプラルは、上下両院で相対的多数党となり、極右派および中道右派との連立により右派で過半数を確保することができ、また、大統領弾劾を阻止する3分の1以上の議席を得た。従って、ここ10年間、ペルーの統治能力を阻害してきた大統領と議会の対立という制度的欠陥を克服できる可能性がある。
米国のシンクタンク、アトランティック・カウンシルの専門家3人が同カウンシルのブログで「行政と立法のバランスがより均衡するという慎重な楽観論」がみられる、としているが、これに同意見である。ただし、注意すべきは、連立に際して、極右や中道右派が党利党略で条件闘争を行うであろうから、柔軟な議会対策が必要となる。
また、分断した国民感情を融和の方向に導くことが必要であり、勝利宣言の段階から、ケイコは自らをすべてのペルー人のための大統領であることを宣言し、国民間の融和や対話の重視を打ち出すべきであろう。特に、COVID19により悪化したペルーの貧困状況はいまだ改善しておらず、今年はエルニーニョによる災害も予想される。包摂的な山岳、農村地域の貧困層への配慮、貧困格差の是正や公的サービスの充実に向ける所得再分配の施策を強調し、市場主義による経済政策とのバランを取ることを考慮すべきであろう。
さらに留意すべきは、ケイコを父であるアルベルト・フジモリ元大統領の独裁主義的な人権侵害体質と結び付けようとするのが、反対派の戦略であることだ。ケイコは治安維持の強化を主張しているが、左派は、選挙結果を認めず大統領就任に際して街頭での抗議活動を動員し、その一部が暴徒化して治安部隊との衝突事件に発展する恐れがある。極左派は、これを人権侵害の弾圧として政府をさらに攻撃する材料とするのが常套手段であり、その手口に乗らないよう細心の留意を図る必要がある。