香港警察は2026年6月24日、政府への憎悪を煽る目的で出版物を販売したなどとして、香港国家安全維持条例(国安条例)違反の疑いで独立系書店「獵人(猟人)書店(Hunter Bookstore)」経営者の黄文萱氏ともう1人を逮捕したと発表した。海外の政治組織から資金の援助を受けたという疑いも持たれている。2人は6月26日に釈放され7月下旬に警察に出頭することになっている。
獵人書店は、政治的に敏感とみなされる書籍を扱っていた。中国・香港当局による民主化運動への取り締まりは強まりつつあるが、なぜこのタイミングで独立系書店を逮捕したのか。そこには、民主化を求める声をさらに抑え込もうという動きが見えてくる。
香港では20年に「香港国家安全維持法」(国安法)が制定された。そして、24年には、国安法の法的な穴を補完するために国安条例が制定されていた。
これらの法律により、香港では、デモなど表立った政治行動は事実上できなくなっていた。一方、中国語には「上有政策、下有対策(上に政策があれば、下に対策あり)」という言葉があり、民主化を求める香港人たちは、本やインターネット、文化などを使って香港政府に抵抗する「軟對抗(Soft resistance)」を展開してきた。ハードがダメならソフトで……ということだ。
そうした「ソフトな」抵抗の一つと言える書店の経営者を逮捕した。今回は中国・香港当局が進めた法整備を活用した形となった。
香港には独立系書店いくつもあり、大手チェーン店が扱わないような政治・社会問題や文化、アートに関する書籍を置いており、人気を博していた。国安法による政府からの締め付けが強くなる中で、香港市民の拠り所にもなっていた。
獵人書店は、政治・社会関連の書籍が多く、中国共産党に批判的であった民主派香港紙である蘋果日報(アップルデイリー)の創業者、の黎智英氏(ジミー・ライ)氏の伝記も販売するなど、今の香港ではなかなか購入することができない本がそろっていた。22年から25年の間に警察が巡回に同店を訪れ、92回警告書を受け取っていた。それでも政府が気に入らない書物を逮捕覚悟で販売し続けていたのは、香港の民主を守りたいという思いがあったからであった。
深水埗(Sham Sui Po)という下町にあり、周辺は反物(たんもの)を売る店が多く並んでいる。その中に突如、書店がある感じだ。黄氏は19年の区議会選挙で民主派の公民党から出馬し、当選した。しかし、21年に香港政府は、地方議会に当たる区議会議員が政府に「忠誠」を誓うことを義務化する条例改正案を賛成多数で可決させた。黄氏は宣誓を拒否し、区議会議員を辞職していた。
中国政府は「毛沢東の生誕」、「終戦」、「天安門事件(特に6月4日)」などといった節目の日は、祝ったり、市民に対して警戒したりするなど、良くも悪くも気を遣うことは、読者の方もなんとなく理解しているはずだ。黄氏が逮捕された6月24日は、「蘋果日報(アップル・デイリー)」が5年前に廃刊した日であり、当局が黄氏を逮捕するにはうってつけの日だった。
また香港では、毎年7月に100万人近い来場者を記録する「香港書展(Hong Kong Book Fair)」という大規模なブックフェアを開催している。26年は7月15日から同21日で予定されている。同フェアに出展する各書店は、国安法施行後は中国で出版が禁止されている「禁書」については自主規制を働かせて、販売してこなかったが、改めてけん制する狙いもあったとみられている。