ニチレイのサイバー攻撃で止まる食品物流…アサヒグループとの違い、「ジャストインタイム」が生み出す脆弱性、2つの事案から見えること

2026.07.22 Wedge ONLINE

 一方、その結果として、約5000社の荷主の入出庫が停止し、外食、小売、生協、学校給食などに影響が広がった。つまり、自社の情報資産を守るための措置が、取引先や社会に大きな事業継続コストを発生させたのである。

 これは危機時のトリアージとして必ずしも誤りではない。問題は、システムを遮断した場合に、その影響を受ける顧客や取引先に対して、どのような代替策をあらかじめ準備していたかである。縮退運転、優先出荷、代替物流、他社への振替などが十分に用意されていなければ、避けられなかった被害が緩衝されることなく、そのまま顧客側に伝わる。

在庫極小化モデルがもたらす脆弱性

 今回の被害の大きさを決めた要因は、物流側だけにあるわけではない。小売業や外食産業など、需要側の在庫構造も重要である。

 現代の食品流通は、店舗や厨房の在庫を最小限に抑え、多頻度・小口・定時の物流に依存する「ジャストインタイム型」のサプライチェーンの上に成立している。バックヤードを縮小して売場効率を高める。鮮度を維持する。食品ロスを減らす。在庫保有コストを抑える。

 このモデルは平時には極めて合理的であり、数十年かけて業界標準として発展してきた。しかし、その合理性は「物流は止まらない」という暗黙の前提の上に成り立っている。

 店舗の在庫が1〜2日分しかなければ、物流が4日間停止しただけで、欠品が全国の店頭に現れるのは当然である。KFCが翌日には全店への影響を公表せざるを得なかったことも、この構造の帰結といえる。

 ここには、リスクの外部化という側面がある。小売業や外食産業は在庫を圧縮することで、在庫保有に伴うコスト、廃棄、鮮度劣化などのリスクを削減してきた。一方で、供給途絶時の影響を吸収するバッファを減らした結果、供給途絶のリスクがサプライチェーンの上流や社会全体に波及しやすい構造になった。

 在庫とは本来、供給変動を吸収する緩衝材である。効率化の名の下にこのバッファを極限まで削ったシステムは、外乱に対して脆弱にならざるを得ない。

 この問題は、東日本大震災や新型コロナウイルス感染症の流行に伴う物流混乱でも指摘されてきた。サイバー攻撃は自然災害と異なり、地理的に限定されない。単一の事業者のシステム停止が、全国の事業者に同時に影響する可能性がある。今回の事例では、バッファの不足がもたらす脆弱性が、より純粋な形で現れたといえる。

バッファはどこに置くべきか

 この問題は、物流事業者だけでは解決できない。倉庫事業者は荷主の貨物を預かる立場であり、自らの判断で「余分な在庫」を積み増すことはできない。バッファをどこに、どれだけ置くかは、荷主、メーカー、小売業者、外食産業を含むサプライチェーン全体の設計問題である。

 第一は、選択的な戦略在庫である。全品目の在庫を厚くすることは、費用、保管スペース、食品ロスの面から現実的ではない。しかし、代替調達が難しい品目や、学校給食、医療、宅配など供給責任の重い用途に関わる品目について、店舗、物流センター、メーカーなどに数日分のバッファを持つことは検討できる。

 第二は、在庫配置の再設計である。バッファは必ずしも店舗に置く必要はない。メーカー側の製品在庫、地域分散した複数の物流センター、複数の物流事業者への委託分散など、サプライチェーンのどこに、誰の負担で在庫を置くのが最も効率的かを、荷主と物流事業者が共同で設計する必要がある。

 第三は、業界横断の在庫可視化と融通である。平時から荷主と物流事業者の間で在庫や保管能力に関する情報を共有できれば、一社の停止時に他社の在庫や他の倉庫へ振り替えることが容易になる。