政治介入に過度な商業化…2026年サッカーW杯がもたらした光と影、スポーツイベントの理想形ながら最も多くの課題残す

2026.07.27 Wedge ONLINE

 アメリカ、メキシコ、カナダの3カ国共催で開催されたサッカーの2026年FIFAワールドカップ(W杯)は、史上最大規模の大会として歴史に刻まれた。48カ国・104試合という新フォーマットの採用、総観客数680万人超、大会収入130億ドル(約2兆円)という空前の経済的成功は、FIFAが長年描いてきた「世界最大のスポーツイベント」の理想形を現実のものにした。

(ロイター/アフロ)

 しかし、この大会が残したものは経済的成功だけではない。政治とスポーツの距離、商業化の加速、競技環境の変化、スポーツ科学の進歩、そして48カ国制による勢力図の変化――。2026年大会は、これまで積み重ねられてきたワールドカップの価値観を大きく揺さぶる転換点となった。

 米国の有力紙『The Wall Street Journal』が「アメリカのソフトパワーを象徴する大会」と評した一方で、『The New York Times』や『BBC』、『ESPN』などは大会運営や政治介入に対して厳しい視線を向けた。26年W杯は、「史上最高のビジネス」と「最も議論を呼んだワールドカップ」の両面を持つ大会だったと言えるだろう。

大会最大の汚点となりうる「バログン事件」

 今大会最大の論争は、アメリカ代表FWフォラリン・バログンの退場処分を巡る一連の出来事だった。決勝トーナメント1回戦のボスニア・ヘルツェゴビナ戦で一発退場となったバログンは、本来であれば次戦ベルギー戦を出場停止となるはずだった。しかし、その処分がFIFAによって「1年間の執行猶予」という異例の措置へ変更される。

 問題視されたのは、その過程だった。複数の海外メディアによれば、ドナルド・トランプ米大統領がFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長へ直接働きかけ、「我々のベストプレーヤーを出場させるべきだ」と強く要求。その後、処分が覆されたことで、「政治が競技運営へ介入した」という疑念が一気に広がった。

 インファンティーノ会長はこの進言が裁定に影響を与えた事実を否定したが、トランプ大統領自身も後に「彼は何も悪いことをしていない。出場させるべきだと伝えた」と語り、FIFAとの近すぎる関係を隠そうとはしなかった。

 欧州ではこの決定に猛反発が起こる。欧州サッカー連盟(UEFA)のアレクサンデル・チェフェリン会長は「FIFAは越えてはならない一線を越えた」と批判し、抗議の意思表示として決勝戦の観戦を取りやめた。『BBC』は「開催国の政治権力がルールを書き換えられるのであれば、競技の公平性は存在しない」と報道し、『The New York Times』も「スポーツの中立性そのものが試された事件だった」と指摘した。さらに『ESPN』は「サッカー界の信頼の根幹を切り裂いた」と酷評している。

 皮肉にも、処分が覆されて出場したベルギー戦でアメリカは1-4の完敗。政治介入によって競技の信頼を失いながら、結果も得られなかった結末は、この大会最大の教訓となった。ワールドカップは世界最高峰の競技会である以前に、「公平性」への信頼で成り立つイベントでもある。その根幹が揺らいだことは、26年大会最大の負のレガシーと言っていい。

アメリカ流ショービジネスは何を変えたのか

 もう一つ、大きな議論を呼んだのがアメリカ流エンターテインメントとの融合だった。決勝戦では約27分間にも及ぶスーパーボウル形式のハーフタイムショーが行われ、前後半にはハイドレーションブレイクが導入された。

決勝に行われたハーフタイムショー(筆者撮影、以下同)

 欧州では「サッカーをショービジネス化しすぎた」との批判が相次いだ。『The Athletic』は「2ピリオド制だったフットボールが4クオーター制のスポーツへ変質した」と表現し、試合の流れや勢いを断ち切る演出を問題視した。また、テレビ放映を意識したCM枠の拡大についても、「競技より興行を優先している」と否定的な論調が目立った。